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日米転生1945-2023 -日出づる国、東西にあり-  作者: 照山
第1章 戦後編
10/11

1-2 占守島の戦い

占守島の戦いについて書きました

1945年8月17日23:05 日本国・北海道 占守島


東京で東宮俊彦内閣が発足し、内地が静まり返っていたその時、日本の北端・千島列島の最北に位置する占守島(しゅむしゅとう)は、底冷えする濃霧と不気味な静寂に包まれていた。千島方面を守備する日本軍部隊の最高指揮官、樋野浩一中将は、司令部の地下壕で電文を握りしめたまま佇んでいた。


『大日本帝国軍全軍に対し、自衛戦闘以外のいかなる戦闘・攻撃行動もこれを固く許可しない』


大本営から発せられた厳命。それは敵から直接攻撃を受けない限り、こちらから一切の手出しをしてはならないという手足を縛るに等しい指示だった。だが、中立条約を反故にして進撃を続けるソ連軍にとって、日本の降伏も戦闘停止も何の意味もなさなかった。


「……閣下! 国端崎(くにかざき)の監視哨より緊急入電! 22時45分、対岸のロパトカ岬より我が方の陣地へ向けて砲撃が開始されました!」


「さらに23時、占守海峡に多数の敵艦影を確認! ソ連軍です!」


電信兵の叫びが地下壕に響き渡る。樋野中将の顔が強張った。8月15日の玉音放送から二日。終戦を迎えたはずのこの島に、容赦のない砲弾が降り注ぎ始めたのだ。


「閣下、第282大隊および沿岸陣地より射撃許可の申請が来ております! 敵は上陸を開始する構えです!」


参謀たちが一斉に樋野を見つめる。大本営の命令に従えば、発射ボタンを押すことは許されない。しかし、このまま指をくわえていれば、島を守る将兵はおろか、避難の機会を待つ多くの民間人まで殺戮される。樋野は固く目を閉じ断固とした声で命じた。


「・・・自衛戦闘を許可する。ソ連軍の侵攻を断固阻止せよ。ただし、我らは侵略のために戦うのではない。国と仲間、そして同胞の命を守るための自衛である!」


8月18日1:10


ソ連軍の先遣部隊が竹田浜へと殺到し、夜間に乗じて上陸用舟艇が接岸した。終戦の裏で、北の果ての血で血を洗う自衛戦の火蓋が切られた。


2:00、ソ連軍の砲撃によって国端崎の灯台が激しく炎上し、漆黒の海と霧が赤く染まった。竹田浜の沿岸陣地に配置されていた日本軍の速射砲小隊が火を噴き、上陸用舟艇を次々と撃破していく。しかし、圧倒的な物量を誇るソ連軍先遣部隊は、凄惨な損害を出しながらも島の中央に位置する要衝・四嶺山(しれいやま)を目指して泥煙を上げて駆け登ってきた。


「敵主力、四嶺山山頂へ接近! 陣地が突破されます!」


午前3時、四嶺山の男体山・女体山付近で、霧の中での熾烈な白兵戦が始まった。


「降伏したはずの日本軍がなぜ反撃してくるのだ」と牙を剥くソ連兵と、「ここを通せば仲間が殺される」と立ち塞がる日本兵。狭い壕の中で銃剣が交錯し、怒号と悲鳴が激しい砲声にかき消されていった。


「戦車連隊、出撃せよ! 四嶺山を奪還し、敵の進撃を食い止めるのだ!」


5:30、頼みの綱である士魂戦車隊率いる車列が、エンジン音を轟かせて四嶺山へと向かった。九七式中戦車や軽戦車が濃霧を押し分けて坂を駆け登る。


「突撃——っ!」


6:20、白煙を上げる四嶺山の台地へ戦車隊が進出。対戦車砲を構えるソ連軍狙撃連隊の中に突入し、凄まじい鉄の嵐が巻き起こった。ソ連兵の対戦車ライフルや手榴弾が容赦なく戦車を襲い、次々と日本の戦車が炎上していく。連隊長や中隊長が相次いで倒れ、車内は地獄絵図と化しながらも、戦車隊は死力を尽くしてソ連軍の足を止め、四嶺山の山頂を奪還した。


空からは、わずかに残された海軍の九七式艦上攻撃機や陸軍の隼戦闘機が超低空で飛来し、爆撃を敢行する。

血みどろの自衛戦闘は午前中を通じて続き、日本軍の捨て身の防戦によって、ソ連軍の上陸足止めと壊滅的打撃に成功したのだった。


15:00、幌筵島(ほろむしろとう)および占守島の港には、日魯水産の工場で働いていた女性従業員や民間人、約400名が集められていた。


「船を出せ! 一刻も早く彼女たちを内地へ逃がすのだ!」


四嶺山で戦車隊と歩兵部隊が血を流して時間を稼いでいるその陰で、避難船が引き揚げを開始した。


16:30、女性たちを乗せた船団が、霧の立ち込め波立つ海へと出航していく。甲板から島を見つめる女性たちの目に映ったのは、四嶺山から立ち上る黒煙と、途切れぬ砲撃の閃光だった。もし、樋野中将が自衛戦闘を決断せず、大本営の命令通りに無抵抗で降伏していたならこの女性たちも、島の将兵たちも、すべてソ連軍の過酷な侵攻に呑み込まれていたはずだった。


14:00頃、樋野司令部から発令された「停戦命令」を携え、軍使がソ連軍陣地へと向かった。白旗を掲げた軍使たちが占守街道を歩んでいく。しかし、ソ連軍の不当な引き伸ばしと武装解除の要求により、現場の局地的な戦闘と緊張状態は8月23日の最終的な停戦調印まで続くこととなる。


占守島の戦い。それは、終戦ののちに戦われた、あまりにも過酷な自衛の戦いであった。日本軍の凄絶な防衛戦により、ソ連軍の千島列島を破竹の勢いで南下し、北海道まで一気に占領するという当初の電撃作戦スケジュールは大きく狂わされることとなった。


最終的に日本軍はソ連軍の軍門に降伏し、提示された降伏条件と武装解除に応じた。だが、銃を置いた将兵たちを待っていたのは、人道的な終戦処理ではなかった。武装解除された占守島の守備隊は、そのまま極寒のシベリアへとおくられ、過酷な強制労働に服させるシベリア抑留の苦難へと呑み込まれていくこととなる。


史実においてソ連が画策していた「留萌(るもい)と釧路(くしろ)を結ぶ線を境に、北海道の北半数を占領する」という北海道侵攻計画。占守島における日本軍の予想外の猛反撃と粘り強い防衛戦は、ソ連軍の南下スケジュールを決定的に遅延させたのだった。


8月22日、侵攻スケジュールの狂いとアメリカ側の強い拒絶を前に、ソ連最高指導部はついに北海道侵攻計画の中止を余儀なくされる。北の孤島で繰り広げられた凄絶な自衛戦。命を賭して戦った将兵たちの犠牲によって、北海道全土が赤化の波に呑み込まれるという最悪の事態は、土壇場で食い止められたのである。

次回も楽しみによろしくお願いします!

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