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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第95話 探索者のグループ②。

《――新宿 ホテル拠点視点》


新宿の中心部に位置するこのホテルは、元来、宿泊客を受け入れるために設計された建物であり、その構造は学校とは異なり、外部からの侵入を完全に遮断するような防衛には適していなかった。出入口は複数存在し、内部構造も複雑で、廊下や階層が入り組んでいるため、一度侵入を許せば内部での制圧は困難を極める。


だがそれでもなお、この場所が拠点として機能しているのは、一人の女の存在によるものだった。


このホテルに拠点を構えるグループは、学校を拠点としているグループと敵対関係にある。双方の争いは、ほんの些細な邂逅から始まったものであり、本来であれば避けられたはずの小さな衝突が、互いの警戒と不信を積み重ねることで、今では無視できない規模の対立へと発展していた。


互いに余裕のない状況であるが故に、一歩も引けない。その結果として、本来であれば協力すべき生存者同士が、互いの行動範囲を奪い合うようにして、じわじわと自らの首を絞め合っているという歪な均衡が生まれていた。


そしてこのホテル側のグループもまた、学校側と同様に、最初はほんの数人の集まりに過ぎなかった。


だが、その中心にいたのが、成瀬 麗香という存在である。


世界が崩壊する以前から、彼女は表社会の中で、居場所を失った人間たちを拾い上げるようにして仕事を与え、最低限の生活を繋がせる役割を担っていた。表向きは派遣会社に近い形ではあったが、その実態は、どこにも行き場のない人間たちにとっての最後の受け皿に近いものであり、ここに集まっている男達の多くもまた、かつてその手に救われた者たちだった。


行き場を失い、社会から切り捨てられかけていた者たちにとって、成瀬の存在は単なる雇用主ではない。生きる理由そのものだった。


だからこそ、世界が崩壊した後も、その関係は崩れることなく、むしろより強固なものへと変わっていった。誰もが不安と恐怖に押し潰されそうになる中で、彼女の指示に従うことが、自分達の存在を証明する唯一の手段であり、同時に、生き延びるための指針でもあった。


結果として、このホテルには徐々に人が集まり、気が付けばそれなりの規模を持つ集団へと成長していた。


だが、その成長は決して純粋な利だけをもたらすものではない。


人数が増えれば増えるほど消費される資源も比例して膨れ上がり、その負担は確実に拠点全体へとのしかかっていくことになるが、そうした問題の中でも特に深刻で、なおかつ避けては通れないものこそが食料の不足だった。


新宿という立地は、人の流入が多い場所であったが故に、崩壊後はそのままゾンビの密集地帯と化している。外へ出て探索を行うという行為そのものが命を賭けた行動であり、無策で踏み込めば即座に死へと直結する危険地帯であることは、誰もが理解していた。


だが、このホテルに身を寄せている者の大半は戦闘経験など一度も持たない一般の人間であり、そんな者達を無理に戦場へと送り出すことは出来ない。その結果として、負担は必然的に一部の者達へと集中することとなり、外へ出て危険な探索を担うのは限られた数の男達のみとなっていたが、彼らは何も言わず、ただ黙ってその役割を受け入れ、当たり前のように死と隣り合わせの外へと足を踏み出していく。


それは決して、この場にいる全ての生存者の為というような綺麗な理由から来るものではなく、ただ一人、自分達を救い上げた存在である成瀬 麗香の為であり、彼らにとってはそれだけで命を賭ける理由として十分すぎるものだった。


だが、いかに覚悟を持っていたとしても現実がそれに応えてくれるわけではなく、集められる食料には明確な限界がある一方で消費される量は日を追うごとに増え続けていき、さらに学校側との敵対関係によって探索エリアすら制限されている現状では、危険を承知で新たなルートを開拓することさえ困難な状況に陥っていた。


その結果として、緩やかではあるが確実に死は距離を詰めてきており、逃げ場のない圧迫感がじわじわと拠点全体を蝕んでいくのだった。


そんな時だった。


外から戻ってきた男の一人が、入口付近で明らかに場違いとも言える異質なものを発見し、その違和感を確かめるようにしながらも迷うことなく成瀬の元へと持ち込んだ。


それは、この状況下においてはあまりにも不自然な形で置かれていた一つの段ボール箱だった。


慎重に蓋を開けると、中には大量の食料と日用品が詰め込まれている。保存食、缶詰、乾パン、レトルト食品など、どれも今のこの拠点にとっては命を繋ぐために必要不可欠なものばかりであり、その量もまた一時しのぎとは言えない現実的な分量だった。


そして、その中には一枚の手紙が添えられていた。


成瀬はそれを受け取ると、周囲の気配を意識の外へと押しやりながら静かに文字を追い、一行ずつ確かめるように読み進めていく中で、そこに書かれている意図を慎重に読み解いていった。


やがて最後まで読み終えた時、わずかに目を伏せてほんの一瞬だけ思考を巡らせた後、迷いを断ち切るように顔を上げ、その瞳には既に決断を下した者の確固たる意思が宿っていた。


「今すぐ、外に出る仕度を整えて!!」


鋭く放たれたその声は場にいた全員の意識を一瞬で引き締め、それは単なる命令にとどまらず、この停滞を打ち破るための次の一手としての意味を明確に帯びていた。


そしてその瞬間、このホテル拠点もまた学校側と同様に、新たな局面へと踏み出そうとしていた。

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