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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第94話 探索者のグループ①。

《――新宿 学校拠点視点》


新宿にある中学校を拠点としているこの場所は、周囲を石造りの塀によって囲まれ、出入口も校門という限られた動線に絞られているため、即席の防衛拠点としては比較的優秀な構造を持っていた。


だがその一方で、学校という施設の性質上、元より多くの人間が集まる場所であったことは否定出来ず、それはすなわち崩壊と同時に、膨大な数のゾンビを内包した危険地帯であったことを意味している。


廊下、教室、体育館、職員室に至るまで、あらゆる場所に徘徊する死者の群れ。視界に入るすべてが脅威であり、一歩踏み込めば即座に囲まれるような状況の中で、普通であれば拠点化など到底考えられない場所だった。


だが、この男、佐々木 猛手は違った。


恐怖に足を止めることもなく、躊躇に判断を鈍らせることもなく、仲間と共に一歩ずつ確実に制圧範囲を広げていき、血と死臭に満ちていたこの場所から、存在していたすべてのゾンビを一体残らず排除してみせたのである。


その過程がどれほど苛烈であったのかは、今となっては語る者も少ないが、それでもなお、この拠点に立つ者達の視線の奥には、その時の記憶が焼き付いている。


最初は数十人。ただ生き延びることに必死だった集団は、やがてこの場所の安全性と統率力に引き寄せられるように人を増やし、気が付けば数百人規模の拠点へと変貌していた。


人が増えるということは、すなわち力が増すことでもあるが、それと同時に、抱え込む問題もまた比例して膨れ上がることを意味している。


そして、その中でも最も現実的で、最も避けては通れない問題が――食料だった。


水に関しては比較的恵まれていた。断水が起こる前の段階で意識的に備蓄が行われていたことに加え、降雨時には雨水の回収も徹底されており、最低限の生活を維持するだけの余裕は確保されている。


だが、それはあくまで“水”の話であり、“食料”はまったく別問題であった。


学校に備え付けられていた非常食は存在していたものの、それらは既に底を尽きかけ、残っているものも数としてはほぼ無いに等しい状態にまで消費されている。


現在、この拠点に存在する食料は、佐々木たちがこれまでに回収してきた備蓄と、その後の危険を伴う探索によって得たもののみであり、それらを合わせたとしても、この人数を満足させるには到底足りないという厳しい現実があった。


量を減らすか、配給を絞るか、あるいは、誰かが飢えることを受け入れるか。そんな選択を、遠くない未来に迫られている。


だが、その閉塞した状況を、文字通り打ち破る“出来事”が起きた。


「猛さーーん!!大変です!!」


慌ただしく駆け込んできた仲間の声は、ただ事ではない緊張を帯びており、その手には無造作に抱えられた一つの段ボール箱があった。埃に汚れた外装、擦れた角に外から運ばれてきたことを示す痕跡がはっきりと残っているそれは、この拠点内では明らかに異質な存在だった。


「なんだこれは?」


訝しげに眉を寄せながら、佐々木はその箱へと手を伸ばす。軽く叩いた感触からして空ではないことは明白であり、ゆっくりと蓋を開けたその瞬間――


中に詰め込まれていた“内容”に、周囲の空気が一変した。


保存食、缶詰、乾パン、レトルト食品に加え、簡易的な日用品までもが隙間なく詰め込まれており、それらはどれも今の拠点にとっては喉から手が出るほど欲していたものばかりだった。しかも、それは一種類ではなく、複数の用途を想定した形でまとめられており、単なる偶然や放置された物資とは明らかに性質が違う。


――意図的に、ここへ届けられた物資。


そう考える方が、遥かに自然だった。


「それと、箱と一緒に手紙が添えられていました。」


差し出された一枚の紙は、乱雑に扱われた様子もなく、むしろ丁寧に保管されていたことを思わせる状態であり、そのことがさらに“誰かの意思”の存在を強く感じさせる。


「見せろ。」


短く告げ、佐々木はそれを受け取ると、周囲のざわめきを意識の外へと押しやりながら、ゆっくりと文字を追っていく。


内容を噛み締めるように一行ずつ読み進めていき、やがて最後の一文へと辿り着いたその瞬間、佐々木は無言のままゆっくりと視線を上げ、そのまま一度だけ空を仰いだ。


それは、書かれていた内容を反芻するようでもあり、同時に、自らの中で何かを見極めるための時間でもあったのだろう。


やがて、胸の奥に溜め込んでいた空気をふぅ~と静かに吐き出しながら、佐々木は――迷いの一切を切り捨てた動きで、次の行動へと移った。


「外に出ているグループに装備を整えろと言ってくれ‥‥出掛けるぞ!!」


その一言には迷いも躊躇も一切含まれておらず、むしろ、ようやく手繰り寄せた“次の一手”に対する確信と、それを掴み取った者だけが持つ決断の重みが、言葉の端々にまで滲み出ていた。


そして佐々木は、その余韻すら断ち切るかのように即座に意識を切り替え、外へ出るための準備へと移行していく。その動きには一切の無駄がなく、既に頭の中では必要な手順と役割分担が組み上がっていることを感じさせた。


それは、新たな局面へと踏み出すための一手であり、同時に、この拠点の命運そのものを賭けた行動が、今まさに静かに動き出そうとしている瞬間でもあった。

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