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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第96話 対峙する両グループ。

荒れ果てた新宿の一角――人の気配が消え、代わりに死の気配だけが漂うその空間において、この日ばかりは異様な緊張感が張り詰めていた。


対峙するのは、互いに敵対関係にある二つのグループ。


どちらも一歩も引く気はなく、視線は鋭く交差し、僅かな動き一つで即座に衝突へと発展しかねない危うさを孕んでいる。空気は張り詰め、呼吸すら重く感じられるほどの圧が、その場を支配していた。


その中心に立つのは――リーヴァ。


両者の視線を一身に受けながらも、微塵も揺らぐことなく、静かに口を開いた。


「ようこそ、皆さん。わざわざ、ご足労して来ていただいてありがとうございます。自分の名前は――リーヴァで、こっちは妹のリタです。」


穏やかな口調。しかし、その声音には場を制するだけの確かな芯が通っており、その一言だけで僅かに空気の流れが変わる。


俺が両者を見ながら挨拶をすると、やはりと言うべきか互いが互いの存在を強く意識し合い、その警戒心は極限にまで高まっていたが、それでもなお誰一人として武器に手を掛ける素振りを見せなかったのは、目の前に立つ存在がただの仲介者ではないと本能的に理解していたからだろう。


だからこそ――この場はまだ、言葉で繋がれている。


「この場所に来たということは、両者共‥‥自分の手紙を読んだ上でお越しになっているということで、間違いないでしょうか?」


静かに問いかけると、それぞれの先頭に立つ者達が視線を交差させながらも、やがて小さく首を縦に振る。その動き一つにも、互いへの警戒が色濃く滲んでいた。


「一応、手紙には記載したのですが、こうして直接言葉を交わしますので、改めて自分の口からもう一度だけ、その目的についてお話させていただきます。」


そう前置きを置いた上で、リーヴァはわずかに間を取り、場の意識が自分へと集中するのを確認してから、ゆっくりと本題へと入っていく。


「まず、自分たちの目的については、この場所から少し進んだところにある“国立感染症研究所”に用があります。その施設では『治療法やワクチンの開発』、『感染メカニズムの解明』、『ワクチンや抗生物質、生物製剤の品質確認』、そして『感染症対策の指針を決定するための中枢的役割』を担っている、いわば日本医療の中心とも言える場所です。」


淡々とした説明でありながら、その言葉一つ一つには明確な意図があり、ただの情報ではなく“意味”として場に落ちていく。


「自分たちは、その施設に赴いて、この世界規模で起こっているゾンビ病を何とかしたいと考えています。ただ、それを行うには自分たちの力だけでは足りません。ですので、この辺りを拠点にしているお二方のグループに助力を願った次第です。」


一度言葉を切り、視線を両者へと向ける。


「どうでしょうか?自分たちに手を貸してはくれませんか?」


その提案が場に投げかけられた瞬間、張り詰めていた空気がわずかに揺らぎ、その変化を見極めるかのような間を経てから、やがて学校側の先頭に立つ男が静かに手を挙げた。


「俺は中学校を拠点のリーダーの佐々木だ。質問いいか?」


「ええ、佐々木さん。どうぞ。」


「手伝って欲しいって話だが、具体的には何をさせるつもりだ?俺達に囮になってゾンビを引き付けろみたいな、そんな無茶な要求じゃないだろうな。」


言葉自体に荒さはなかったが、その奥に潜む警戒の色は隠しようもなく滲み出ており、それを真正面から受け止めたリーヴァは一切視線を逸らすことなく、迷いのない動きで静かに首を横に振った。


「いえ、そのつもりは一切ありません。自分達があなたがたに求めるのは“監視”です。」


「監視だと?」


「そうです。施設への侵入方法やゾンビの処理は、すべてこちらで行います。あなた方には、自分たちが施設内部に入っている間、外部の状況を把握し、異変があればそれを伝えて欲しいのです。例えば、仲間以外の生存者が接近している場合などですね。」


それは一方的に負担を押し付けるものではなく、明確に役割を分けた上での提示であり、その意図を汲み取った佐々木は、わずかに緊張を解くように短く息を吐いた。


「なるほどな。要するに、出てきたところを狙われないように見張れってことか。」


「はい、その通りです。」


そのやり取りが一区切りついたところで、今度はホテル側――成瀬が静かに手を挙げた。


「私の名前は成瀬です。こちらからも一つ質問させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「ええ、もちろんです。」


「仮にその依頼を受けた場合、私達にとっての見返り‥‥報酬のようなものは用意されているのでしょうか?」


冷静な声音で発せられたその問いは、感情に流されることなく現実を正確に見据えたものであり、それを受けたリーヴァもまた一切の迷いを見せることなく、即座に答えを返した。


「はい。物資の供給という形であれば、いくらでも用意させて頂きます。具体的には、前金としてお渡しした物資の十倍程度はお渡しするつもりです。」


その言葉に、場の空気が一瞬だけざわめいた。


「それだけの物資が貰えるのであれば、不満はありません。ただ、一つだけ気になる点があります。その量の物資を、どのように確保しているのですか?」


鋭く本質を突いたその問いに対し、リーヴァは僅かに肩をすくめるような仕草を見せながらも、余裕を崩すことなく淡々と答えを返した。


「特別なことはしていませんよ。自分が管理している拠点では、ある程度までゾンビの掃討が済んでいますし、外へ出る探索班には十分な装備を渡しています。その結果として、安定して物資を確保出来ているというだけです。」


一拍置き、わずかに笑みを浮かべる。


「もし疑うのであれば、実際に拠点を見て頂いても構いません。」


「‥‥いえ、それは遠慮しておきます。」


即答だった。


「他に質問はありませんか?」


場を見渡すが、誰も口を開こうとはしない。


「‥‥ないようですね。では最後に、一つだけ助言をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」


その言葉を受けて両者は無言のまま頷き、その反応をしっかりと確認したリーヴァは、場の空気を改めて引き締めるようにゆっくりと口を開いた。


「今回の依頼は、あなたたち両方に同時に出しています。この意味が何を指しているのかは、当事者であるあなたたちが一番理解しているはずです。」


視線が交差する。


「この世界が崩壊した今、人同士が手を取り合わず争いを選び続けるのであれば、人類の滅亡は時間の問題でしょう。」


言葉は静かだが、その重みは確かだった。


「だからこそ大事なのは、目先の命ではなく――未来の命に目を向けることだと、自分は考えています。」


言葉が場に落ちた後、重く沈むような沈黙が広がり、誰もがその意味を噛み締めるかのように、すぐには言葉を返すことが出来なかった。


「‥‥すぐに答えは出ないでしょう。ですので、三日後の同じ時間に、再びここに来てください。不参加を選ぶ場合は、そのまま来なくて構いません。」


一度言葉を切り、振り返る。


「じゃあ、リタ。帰ろうか。」


「はい。」


それだけを言い残し、リーヴァとリタは静かにその場を後にしていき、残された二つの集団は互いに視線を外すことなく睨み合い続けていたが、その場に漂う空気は先ほどまでとは確実に変化していた。


そこにあったのは、ただの敵意だけではなく、その奥に別の可能性がわずかに芽生え始めていることを感じさせる、言葉にし難い変化だった。

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