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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第91話 堂島という男。

「調子はどうだ?」


訓練場の喧騒を背に、俺は堂島さんへと声を掛けた。


「リーヴァか。見た通りで、みんな新しい訓練にも慣れて来て、以前にも増してやる気十分って感じだな。」


視線は模擬戦へと向けたまま、堂島さんはそう答える。確かに、その言葉通り探索班の動きには迷いが少なくなり、連携も以前とは比べ物にならないほど洗練されているが――俺が聞きたいのは、そんな“全体の話”ではない。


「そうじゃない。探索班全体の話じゃなくて、堂島さん個人に聞いてるんだけど?」


少しだけ声音を落としてそう言えば、堂島さんはピクリと反応を見せたものの、そのまま口を閉ざし、何も答えようとはしなかった。


その沈黙が何を意味しているのかなんて、わざわざ言葉にしなくても分かる。自覚はあるが、認めるつもりはない――そんな意地と責任感が入り混じった、典型的な“リーダーの沈黙”だった。


「あの一件以来‥‥ずっと無理してるんだってな。神崎さんが心配してたぞ。堂島さんに声を掛けてあげてくださいって、わざわざ俺に頼んでくるぐらいにはな。」


そう言ってやると、堂島さんはわずかに眉を動かし、そしてゆっくりと息を吐く。


「‥‥無理なんてしてない。俺はリーダーとして、やるべきことをやっているだけです。」


その言葉は一見すれば正しいが、その“正しさ”こそが今の堂島さんを追い詰めていることもまた事実だった。


「だろうな。だからこそだよ。」


軽く肩を竦めながらそう返し、近くのベンチを顎で示す。


「まぁ、座れよ。少し話そうぜ。」


堂島さんは一瞬だけ躊躇を見せたものの、やがて小さく頷き、そのまま腰を下ろす。それを確認してから祈たちには軽く手を振って合図を送り、その場から離れてもらう。


――男水入らずで、少し重たい話をするために。


「そういえば、あの時は聞けなかったんだが、祈とはここで出会う前に知り合ってるらしいな?」


「‥‥あぁ。少しだけだが、役所で共にしてた。」


「祈は言ってたぞ。堂島さんはリーダーシップがあって、不安なみんなを引っ張ってたってな。」


そう告げた瞬間、堂島さんの視線がわずかに揺れたものの、その揺らぎを自ら押し潰すようにすぐさま表情を引き締め、低く言葉を吐き出した。


「‥‥そんなことはない。俺はあの時だって失敗している。結局、リーヴァがいなければ、あの子だって死んでいた。その死の原因は、俺の“外に行こう”っていう言葉だった。だから――結局は、救えていない。」


その声音には、はっきりとした後悔と自責が滲んでおり、だからこそ俺はその感情から目を逸らさせないように、あえて踏み込むことを選んだ。


「堂島さんって、案外バカなんですね。」


「なぁ!!」


勢いよく顔を上げる堂島さんに対して、俺は一切表情を崩さずに続ける。


「だってそうでしょ?未来で何が起こるかなんて、誰にも分からない。その時は最善だと思った選択が、後から見れば間違いだったなんてことは、世界が崩壊する前からいくらでもあった話だ。」


「それなのに、世界が崩壊した途端に“全部自分の責任だ”なんて背負い込むのは、ただの自己満足か、もしくは思考停止ですよ。」


堂島さんの表情が強張るのを感じながらも、ここで引くつもりは一切なく、そのまま言葉を重ねていく。


「誰に何を言われたとしても、最後にその選択をしたのは祈だ。あいつが話を聞いて、自分で考えて、自分で決断した。」


少しだけ視線を逸らしながら、静かに言い切る。


「それを“全部自分の責任だ”なんて言い出したら、あいつの意思を否定することになる。」


「それは‥‥そうかも知れないが、きっかけを作ったのは‥‥間違いなく俺だ。」


「そんなこと言い出したら、人は何も出来なくなりますよ。」


少しだけ声音を落とし、しかし確実に届くように言葉を重ねる。


「人の死も、別れも、出会いも、全部“発言した奴の責任”になるなら、誰も何も言わなくなる。最後には、人と関わることすらやめる。


それは、この世界で一番やっちゃいけないことだ。」


堂島さんの肩が、わずかに揺れる。


「さっきも言いましたけど、未来は誰にも分からない。だからこそ、その時の自分が持ってる全部で考えて、最良だと思う選択をするしかない。


役所で言った言葉も、あの探索での判断も、全部“その時の堂島さんが出した最善”だったはずです。


だったら、それでいいじゃないですか。」


言葉を少しだけ柔らかくする。


「さっき自分で言ってたでしょ。“リーダーとしてやるべきことをやっている”って。なら、そのままやればいい。ただ――無理のない範囲で、自分が出せる最大でね。」


だが――堂島さんは、ゆっくりと首を横に振った。


「‥‥それでも足りなかった。」


「今回みたいに‥‥俺の最大でも届かなかった。だから俺は、もっとやるしかない。もっと背負って、もっと背負って‥‥それが、俺の贖罪になる。」


その言葉を聞いた瞬間、あぁやっぱりここかと胸の奥で静かに確信が固まる。


「違います。」


はっきりと、否定した。


「誰も、堂島さんに贖罪なんて求めてない。」


ゆっくりと立ち上がり、訓練場で汗を流している探索班の面々へと視線を向ける。


「俺もさっきまで、自分一人で全部どうにかしようとしてました。でも、それは違った。」


祈やリタ、リルの顔が脳裏に浮かぶ。


「一人で解決出来ないなら、頼ればいい。」


そう言いながら腕を伸ばし、仲間たちを指し示す。


「堂島さんには、あそこにいる奴らがいる。自分の力が足りない時に、手を貸してくれる仲間が。」


「一人で無理なら、二人。二人で無理なら、三人。それでも足りないなら――もっと増やせばいい。俺は、出来ると思いますよ。」


視線を戻し、真っ直ぐに言い切る。


「だって、あいつらは――堂島さんが自分で選んだ、最高の仲間なんでしょ?」


その言葉は静かに、しかし確実に届き、堂島さんの瞳がゆっくりと揺れながら、ほんの僅かに下を向いていた視線が時間をかけるように持ち上がっていく。


「あぁ‥‥そうだな。」


立ち上がる動作は最初こそぎこちなかったものの、次の一歩、そのまた次の一歩と進むにつれて、確かな意志を伴った動きへと変わっていく。


「あいつらは、俺の――最高の仲間だ。」


そう言って前を向いた堂島さんの表情には、もう先程までのような沈んだ影は見えなかったものの、それが完全に消えたわけではなく、それでもなお抱えたまま前へ進もうとする“意志”だけは、確かにそこに宿っていた。


その変化を見届けながら、俺は小さく息を吐き――これでいいと胸の内で静かに結論を下す。背負うことをやめる必要はない、ただ一人で背負う必要がないだけだと理解した上で、堂島さんは確かな足取りで、その一歩を踏み出したのだった。


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