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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第90話 正論は時に刃物になる。

神崎さんとの話を終えた俺達が向かった場所は、探索班が日々訓練に励んでいる訓練場だ。そこは元々マンションに付随していた駐車場を改造して作られた場所であり、今ではこの拠点における実戦訓練の要とも言える空間へと変わっていた。


訓練場の設備は、射撃練習用の的に、近接戦闘を想定した人形、さらには筋力を鍛える為の器具や持久力を高める為のランニングマシンまで揃っており、ただの訓練場というよりも小規模な軍施設と呼んだ方がしっくり来るほどに充実している。


ここまで整えられている環境であれば、日々の鍛錬の質が上がるのも当然であり、探索班の練度が上がっている理由にも納得がいくものだった。


そんな訓練場へと足を踏み入れると、丁度、対人戦を想定した模擬戦が行われている最中で、ぶつかり合う音や掛け声が空間に響き渡り、熱気と緊張が混ざり合った独特の空気が場を満たしていた。


この模擬戦はリアが提案した対人戦訓練であり、導入当初は動きもぎこちなく、連携もどこか噛み合っていなかったが、今ではそれなりに形になりつつあり、相手が正規の訓練を受けた軍人でもない限り、簡単には崩せない程度には仕上がってきている。


「今日、みんな活気があるね。」


そんな空気を眺めながら、隣に立つ祈がふっと小さく笑い、感想を口にする。祈はこの訓練場にも何度か顔を出しており、リタと共に訓練へ参加することもある為、探索班ともそれなりに顔見知りだ。


「あぁ、そうだな。ここはいつ来ても暑苦しいというか、むさ苦しいというか‥‥まぁ、男臭さが凝縮されたような場所だからな。」


半ば呆れ混じりにそう言えば、祈はくすりと笑みを零しながら軽く肩を揺らす。


「ふふ‥‥それは、そうだね。あの堂島さんがメンバーを決めてるんだもん。そっち方向の人が多くなるのも納得だよね。」


妙に説得力のあるその言葉に、思わず苦笑が漏れる。確かに、堂島さんの性格を考えれば、この空気感になるのも必然なのかもしれない。


――そんな話をしている最中だった。


訓練場の入り口付近に、一人の男の姿が現れる。


やはりと言うべきか、その人物――堂島さんの表情は明るいものではなく、どこか沈み込んだような重たい空気を纏っていた。


顔色も良いとは言えず、神崎さんがあれだけ心配していた理由が、一目見ただけで理解できてしまうほどに、その様子は分かりやすく崩れている。


「はぁ‥‥あれは相当、重症だな。」


思わず本音が零れ落ちる。誤魔化す余地もなく、あれは明らかに精神的に追い込まれている人間の顔だった。


その言葉に、祈も静かに頷き――少しだけ間を置いてから、ぽつりと呟く。


「この前の正人みたい。」


「――っ」


その一言は、まるで狙い澄ましたかのように胸の奥へと突き刺さり、思わず言葉を失う。反射的に胸元へ手が伸び、痛みの残滓を押さえ込むように力が入るが、当の祈はそんな俺の様子など気にも留めず、あくまで自然体のまま視線を前に向けていた。


「‥‥俺は、あそこまで思い詰めていない。もっとマシだった。」


なんとか絞り出した反論に対して、祈は即座に首を横に振る。


「いや、同じぐらいだね。もしかしたら、もっと酷かったかも‥‥。」


「いや、それだけは絶対にないね。」


食い気味に否定すると、祈はわずかに目を細め、どこか楽しむような、けれども核心を突くような声音で続けた。


「まぁ、案外‥‥自分の置かれている状況とか、自分の心の容態って、自分では分からないものだからね。私から言わせてもらえば、同じとしか言いようがないかな。」


ぐうの音も出ない正論だった。


いや、分かっている。分かっているからこそ、余計に反論できない。


このまま言い合いを続けたところで、この話題に関して俺に勝ち目がないことは明白であり、それ以上踏み込まれれば余計なダメージを受けるだけだと判断した俺は、視線を逸らすようにして体の向きを変える。


「‥‥ちょっと堂島さんの様子見てくる。」


半ば逃げるようにそう言って、その場を離れようとした瞬間――


「あ、逃げた。」


背後から、妙に楽しげで容赦のない一言が飛んでくる。


思わず足が止まりかけるが、ここで振り返れば更に追撃が飛んでくる未来が容易に想像できた為、俺は何も聞こえなかったふりを決め込み、そのまま歩みを進める。


――結果として。


最後まで痛いところをつかれたまま、俺は堂島さんの元へと向かうことになったのだった。

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