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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第88話 静かに垂らされた釣り針。

俺から相談を受けた祈とリタとリルは、それぞれ顎に手を当てながら思考を巡らせていたが、その中で最初に静かに手を挙げたのは、やはりと言うべきかリルであった。


「マスター。私は敵の拠点を見つけることよりも先に、あの親子の疑いを解消するべきだと提案します。」


迷いのない声音でそう告げるリルに、俺は視線を向けたまま問い返す。


「その理由は?」


「現状、あの親子の存在が不確定要素として残っている限り、探索班の動きは常に制限されることになりますし、何より敵がこちらの情報をどの程度把握しているのかが一切分かっていないことが最大の問題です。」


リルは一度言葉を区切り、俺達全員を見渡すようにしてから、さらに続ける。


「仮にあの親子が敵の一味であった場合は、捕らえて情報を引き出せばそれで済みます。ですが、敵ではなかった場合――その時点で、こちらの内情が敵に漏れていないことが確定します。」


その言葉を聞いた瞬間、頭の中で曖昧だった霧が一気に晴れていくのを感じた。


「この二点がはっきりするだけで、こちらの行動の自由度は大きく変わります。逆に言えば、ここを曖昧なままにしている限り、どのような作戦を立てたとしても、常に背後を警戒し続けることになり、効率は著しく落ちるでしょう。」


リルの提案は、理にかなっていた。


俺は敵の拠点を見つけることばかりに意識を向けてしまい、“情報を引き出す”という選択肢を完全に見落としていたが、この案であればどちらに転んでもこちらに損はなく、仮に親子の身の潔白が証明されれば、その時点で再び生存者の確保へと動きを戻すことも出来る。


まさに、今の俺達にとって最も必要としていた一手だった。


「その案で行こうと思うが‥‥問題は、どうやって親子の真偽を測るかだ。こちらが疑っていることが表に出れば、向こうも確実に警戒するぞ?」


そう問いかけると、リルはわずかに頷き、すでに用意していたかのように次の言葉を紡いだ。


「はい。その点についても考えています。」


そう前置きした上で、リルは一歩踏み出し、俺達に分かりやすいように整理しながら説明を始める。


「まず前提として、“実際には存在しない情報”を意図的に流します。内容は『生存者が発見され、物資の運搬が必要になった』というものです。この情報自体は自然であり、誰も違和感を抱かない範囲に収めます。」


確かに、その程度の情報であれば日常的な報告の延長線上にあり、不審に思われることはまずないだろう。


「次に、その情報を全員に同じ内容で共有するのではなく、あえて分割して伝達します。」


そこでリルは指を折りながら、具体的な内容を順に示していく。


「Aグループには“西で発見された”と伝え、Bグループには“東”、Cグループには“南”、そしてDグループには“北”と、それぞれ異なる地点を割り当てて情報を共有します。」


つまり――


「同じ“生存者発見”という事実だけを共通にしながら、その発見場所だけを意図的にズラすことで、どの情報が外部に漏れたのかを特定する、ということか。」


俺の言葉に、リルは小さく頷く。


「はい。もし敵に情報が伝わった場合、敵は必ずその“場所”を基準に動くはずです。つまり、敵の行動が確認された地点を追えば、その情報を持っていたグループ――すなわち、裏切り者が紛れているグループを特定することが出来ます。」


なるほど‥‥完全に釣り針を仕込んだ情報戦だ。


「これであれば、こちらが特定の人物を疑っていると悟られることもありませんし、通常の情報共有の範囲内として処理することが出来ます。仮に何も起きなければ、それはそれで敵に情報が渡っていない証明にもなります。」


最後まで淀みなく説明を終えたリルは、静かに俺を見る。


「どうでしょうか?」


その問いに対して、俺は自然と笑みを浮かべていた。


「ふふ‥‥それで行こう。」

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