第73話 錬金術の開示。
「‥‥おい。何を見せるつもりなんだ?」
張り詰めた空気の中で、堂島の低い声が響いた。
その問いには、警戒と、わずかな苛立ちが混じっている。
「二人は、この拠点もそうだが、電車の件も、ゾンビの襲撃も、軍の時も――あれだけのことを成し遂げられた理由をどう思った?」
問い返すように言葉を重ねると、二人は一瞬だけ視線を交わし、それから堂島が口を開いた。
「それは、まぁ‥‥どうやったんだ?とは思った。」
「私も同じね。」
疑問は当然だ。
常識で考えれば、あの一連の出来事はどれも人の手でどうにか出来る範疇を明らかに逸脱している。
そう。普通では決して成し遂げられないことを、俺はやってのけてきた。
だが、それが可能だった理由は単純だ――俺自身が、“普通ではない側”の人間だからだ。
「よく見ておけよ――錬金。」
静かに呟き、掌をゆっくりと持ち上げる。
次の瞬間、空気が微かに歪んだ。
何もないはずの空間に、淡い光の粒子のようなものが集まり始める。それはまるで霧が凝縮するかのように密度を増し、形を持ち、輪郭を得ていく。
金属特有の鈍い光沢が生まれ、内部構造が組み上がるようにして精密に構築されていくその過程は、人の手による製造とは明らかに異質だった。
そして――数秒後。
俺の手の上には、冷たい質量を伴った“拳銃”が存在していた。
「これが、俺の力――錬金術だ。」
静かに告げながら、その重みを確かめるように指先でなぞる。
「物の構成理念と構造概念さえ理解していれば、どんな物でも生み出すことが出来る。この力があったからこそ、今までの全てを成し遂げることが出来た。」
その言葉が落ちた瞬間、場の空気が一段階、重くなる。
二人は言葉を失い、ただ目の前の現象を凝視していた。
口をわずかに開いたまま、呼吸すら浅くなっている。
無理もない。
これは理解できる範囲を逸脱している。
この物資が極端に限られた世界において、必要なものを“創り出す”という行為がどれほどの価値を持つか――考えるまでもない。
それは、あまりにも都合が良すぎる力であり、同時に、あまりにも危険な力でもある。
「二人も分かっていると思うが、この世界においてこの力は理想的すぎる。だからこそ――簡単に争いの火種になる。」
拳銃を握ったまま、視線を二人へと向ける。
「だから、絶対に外に漏らさないでくれ。もし、この力が外に知れ渡ることになれば――俺はこの世界から姿を消す。」
その言葉に、空気がさらに張り詰めた。
「――ゴクン。」
唾を飲み込む音がやけに大きく響く。
「分かった。絶対に誰にも言わない。神崎さんも大丈夫だな?」
「えぇ、もちろん。こんなこと、誰にも言えるわけがないし、仮に話したとしても信じてもらえないでしょうけどね。」
二人は真剣な表情で頷き、迷いなく誓いを口にする。
その眼差しには軽さはなく、少なくともこの場において嘘は感じられなかった。
それが真実かどうかを測る術はない。
だが――だからこそ、今は信じるしかない。
「これで力のことは話したわけだが――」
一度言葉を切り、拳銃をゆっくりと消失させる。
まるで最初から存在していなかったかのように、質量は霧散し、空気に溶けて消えていった。
「この力を応用すれば、遠く離れた場所からでも一瞬で拠点へ戻ることが出来る。その手段がある――名前は“扉渡り”。」
「扉渡り‥‥?」
堂島が低く反芻する。
「今すぐに見せることは出来ないが、既に準備は整っている。これで遠征の件については納得してくれたか?」
短い沈黙の後、堂島は肩をすくめるように息を吐いた。
「ここまでのものを見せられて、納得しないわけにはいかないな。俺としても、この世界をどうにかして欲しいと思っているからな‥‥大いに賛成だ。」
「私も同意見です。」
二人の言葉に迷いはなかった。
「よし。なら、これから各自、自分の隊のメンバー選考に入ってくれ。そして全て決まり次第、俺に報告してくれ。こちらで用意するものもある。」
「メンバー選考の期限は?」
「特に設けない。じっくり選んでくれて構わない。中途半端な人選は、後で必ず響くからな。」
「了解した。」
会話が終わると同時に、二人は立ち上がる。
椅子が床を擦る音が静かな室内に響き、そのまま扉へと向かう。
そして扉が閉まると同時に、空間に残っていた緊張感がわずかに緩んだ。
こうして今後の方針を共有し終えた二人は、それぞれの役割を果たすため、早速メンバー選考へと動き出したのだった。




