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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第68話 物語の原点。

役所に立て籠もって一週間が経過し、とうとう水道までもが完全に停止した。これで、日本に残っていた生活のインフラは完全に途絶えたことになる。


電気、水、ガス――その全てが機能を失い、これ以降の生活で飲み水として使えるのは、事前に確保していた分だけとなった。それを徹底して節約しながら使い、足りない分は雨水などで補っていくしかない。


その変化はあまりにも過酷で、僅かな喉の渇きすら簡単には癒せず、限界まで耐えてようやく少量の水を口に出来る程度であり、乾いた喉は会話すら奪い、ここにいる者たちの言葉は目に見えて減っていった。


そして、この一週間で悪化したのは生活環境だけではない。拠点のすぐ近くにまで”ゾンビ”が現れるようになっていた。


最初は一体だけだった。だが時間の経過と共にその数は確実に増えていき、今では外を見れば簡単に確認できるほどにまでなっている。


その結果、外に出ることは極めて困難となり、物資の調達もほぼ不可能になった。


私たちは、完全に追い詰められていた。


外に出ることも出来ず、外の情報もなく、未来の保証もない。


ただ――バン!!――バン!!と、扉を叩くゾンビの音だけが、絶え間なく耳に響き続けている。


話す気力すら失い、ただ壁にもたれながら、時が過ぎるのを待つだけの時間。それが、今の私に出来る唯一の行動だった。


だが、それでもなお前を見ようとする者はいる。


役所に入った当初から冷静に指示を出し続け、皆を導いてきた堂島さんは、この絶望的な状況の中でも、必死に打開策を探し続けていた。


そして――その日、堂島さんは皆に向けて口を開いた。


「‥‥探索に行く。」


その一言の意味を、誰もが理解していた。


「このままじゃ水も食料も尽きるし、この場所も限界が近い。だから、俺達と同じように拠点を作って立て籠もっている連中を見つけて、協力していくしかない。それが、俺達が生き残るための唯一の道だ。」


言い切ったあと、わずかに間を置き――


「俺と一緒に外へ探索に行く人はいるか?」


その問いに、誰も答えなかった。


かつて手を挙げた亮太でさえ、今回は視線を落としたまま動けずにいるが、それは決して弱さではない。責められるべきものでもない。


これが普通であり、そして――私もまた、同じように下を向いていた。


この地獄は、いつ終わるのだろう。いつになれば、平和は戻ってくるのだろう。もしかして、このままずっと終わらないのではないか。


なら、私は――


その先に浮かびかけた言葉は、自分の命を断つという結論だったが祈は、それを口にすることを拒んだ。その言葉を形にしてしまえば、もう戻れなくなると、本能が理解していたからだ。


だが、目を逸らしたところで現実は何も変わらない。既に状況は詰みに近く、このままでは確実に終わりが訪れる。


ならば、選択肢は二つに一つなのだ。


ここで隠れ続け、枯葉のように朽ちていくか。それとも――外へ出て、ゾンビと戦い、生きるために足掻き、その果てに死ぬか。


ならば、祈が選ぶべき道は――後者だった。


「‥‥私が行きます。」


震える体を抑えながら、それでも祈は確かに手を挙げた。


その言葉に対し、堂島さんは短く「分かった」とだけ返し、止めることはしなかった。


祈の決意に引き寄せられるように、他の五人もまた手を挙げる。そして彼らは――初めて、崩壊した世界の外へと足を踏み出した。



この時の私は――死ぬ覚悟が出来ていると、そう思い込んでいた。だから、ゾンビと対峙しても戦えると、本気で信じていた。


だが――現実は、そんなに甘くはなかった。


初めてこの目でゾンビを捉えた瞬間、全身を貫いたのは圧倒的な恐怖だった。足は前に出ず、ただ後ろへと下がり、逃げることしか出来ない。


そして最後には、その恐怖に完全に飲み込まれ、私はその場から逃げ出していた。


その結果、仲間とはバラバラになり、逃げ込んだマンションの中で一人となり――やがて、一体のゾンビに噛まれ、自らの終わりを悟ることになる。


だが――私の人生は、そこで終わらなかった。むしろ、その瞬間こそが、運命の分岐点だった。


正人。


彼は、私を噛んだゾンビを容易く倒し、その上で傷までも癒してみせた。私は確信した。この人なら、この世界を救える。この地獄を終わらせることが出来ると。


だが、私の願いは拒まれた。


理由を聞き、納得せざるを得なかった。それでも――ここで諦めれば、全てが終わる。


だから私は、この人だけは絶対に手放してはいけないと決めた。最低な選択だと分かっていながら、自分の体を差し出すことで関係を結び、その繋がりを手に入れた。


それが――正人との、全ての始まりだった。



「本当にびっくりだよね。あんな出会い方をして‥‥今はこうして二人で一緒にいるなんてさ。」


拠点への襲撃を退けた後、私たちは気絶した正人を部屋へと運び、その目が覚めるのを静かに待っていた。


「‥‥早く起きてね。私、正人と話したいことがたくさんあるの。でも、今はゆっくり休んでね。お疲れ様‥‥私の英雄。」


そう呟き、祈は再び、彼が目を覚ますその時を待ち続けるのだった。

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