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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第62話 ただいまと言える場所。

全ての準備が整った。


リタ、リル、そして祈の3人がその身を削って時間を稼いでくれたおかげで、俺は何一つとして失うことなく前に進むことが出来る。誰か一人でも欠けていればこの結末は手にすることは出来なかった。


「みんなが居てくれて本当に良かった。」


と3人に聞こえるように素直に自分の気持ちを伝えた。


「リタがいなければここまで辿り着くことは出来なかった。リルがいなければ俺は安心して遠征に行けなかった。祈がいなければ何も始まってなかった。ここにいる全員がいるから、今があると俺は思う。


だから、そんな大切な今を守る為に‥‥力の全てをぶつける!!」


迫りくるゾンビの群れに手を向けて――


「――錬成錬金!!」


その言葉を発した瞬間、地面が唸りを上げるように震え出し、地鳴りが空気を揺らした。次の瞬間、足元から走った亀裂が蜘蛛の巣のように広がり、地面そのものが意思を持ったかのように波打ちながら持ち上がっていく。


押し寄せていたゾンビの群れは、その異変に反応するよりも早く足場を奪われ、崩れた地面と共にその形を乱していった。盛り上がった大地は逃げ場を与えないように四方から覆いかぶさり、まるで巨大な顎が閉じるかのように、群れ全体を包み込んでいく。


俺の錬金術は物質を生み出すだけではない。既に存在している物質を自在に動かし、形を変え、その構造そのものを書き換えることが出来る。だが、それに伴う魔力の消費は膨大であり、ここまで広範囲を一度に操作するには、今まで蓄えた全てを使い切る覚悟が必要だった。


だが、それでも足りない。ただ飲み込むだけでは意味がない。この場に残る全てを完全に消し去り、二度と同じ惨状を繰り返させない為には、存在そのものを圧し潰す必要がある。


持ち上がった地面はやがて一点へと収束し、巨大な塊となってゾンビの群れを完全に閉じ込めた。その形は次第に滑らかな球体へと整えられていき、逃げ場は一切残されていない。


そして、その球体はゆっくりと、確実に縮み始めた。


外側からかかる圧力は徐々に強まり、内部で押し潰される肉と骨が耐えきれずに歪む音が、鈍く重い振動となって伝わってくる。やがてそれは、形を保つことすら許されないほどの圧へと変わり、内部から聞こえていた音は、潰れた肉が混ざり合う不快な音へと変質していった。


人の形をしていようと、その構造は変わらない。圧力に抗えるようには出来ていないその肉体は、容赦なく破壊され、やがて何一つとして原型を留めることなく圧縮されていく。


「‥‥これで、終わりだ。」


最後に力を込めると同時に球体は一気に収縮し、内部の全てを完全に握り潰した。


――ドカン!!


衝撃と共に圧縮された塊は内側から崩壊し、形を保っていた構造そのものが破壊される。そこに残るのはもはや“死体”ですらない。存在していた痕跡すら消し去られた、完全な消滅だった。


全てのゾンビを排除した俺は、そのまま次の錬金術へと移行する。


ここで終わりではない。この先、同じ脅威が再び現れないようにする為の“壁”を作る必要がある。単なる障害物では意味がない。侵入も破壊も許さない、絶対的な防衛線を構築する。


地面が再びうねり、拠点の外周に沿うようにして巨大な壁が形成されていく。その高さと厚みは人の力では到底越えられるものではなく、表面は滑らかに整えられて足掛かりすら存在しない。さらに内部構造を強化することで、衝撃にも耐えうる強度を持たせていた。


これで、外からの侵入は完全に遮断される。


全てを出し切った俺の体から力が抜け、その場に崩れ落ちる。


「はぁ‥‥はぁ‥‥もう限界だ。何も残っていない。本当に全部、出し切った。」


荒くなった呼吸の中で視界が揺れる。その時、そっと頭が持ち上げられ、柔らかい感触が後頭部を支えた。


見上げた先には、祈の顔があった。


戦場で見せていた張り詰めた表情はそこにはなく、ただ安心したように緩んだ優しい笑みが浮かんでいる。その表情を見た瞬間、張り詰めていた意識がようやくほどけていくのが分かった。


「正人、お疲れ様。そしてお帰り。」


その言葉は、戦いの終わりを告げるものではなく、“帰る場所がここにある”と教えてくれるものだった。


血の匂いも、破壊の余韻も、その一言で遠くへと押しやられていく。


「あぁ、ただいま。」


自然とそう返していた。言葉にした瞬間、ようやく全てが終わったのだと実感する。


祈の膝の上で、ほんの少しだけ目を閉じる。戦場の音はもう聞こえない。あるのは、静かな呼吸と、確かにそこにある温もりだけだった。


こうして無事に引っ越しを終えたが、まだやることは大量に残っている。現状では部屋の数は足りていないし、仕事の振り分けもやらないといけない。俺は正人ではなくリーヴァとしてみんなを引っぱっていくことになる。


だが、今だけはこの安らぎに身を任せてもいいだろう。そう思いながら、祈の膝枕に身を預け、ゆっくりと意識を手放していった。

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