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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第61話 最後のピース。

前線に祈が加わったことでゾンビの進行は確実に鈍化していた。


後方から放たれるクロスボウの矢は、一切の無駄なく群れの中枢へと突き刺さり、前線へと押し寄せる個体数そのものを削り取っていく。


それによって生まれたわずかな間隙が、リタとリルの動きに余裕を生み出し、結果として前線全体の密度が緩やかに分解されていく形となっていた。


このまま戦線を維持できれば、後方で進められている準備も間に合う。三人の連携は、単なる持ち堪えではなく、確実に戦場の流れを引き寄せつつあった。



《――リタ、リル、祈 視点》


最前線ではリタとリルがゾンビの群れの中に踏み込み、絶え間なく斬撃を重ねていた。


リタは持ち前の速度で個体間の隙間へと入り込み、接触するよりも早く切断することで群れの“繋がり”を断ち切っていく。


一方のリルは、その後方で確実に間合いを詰め、一刀ごとに進路上の個体をまとめて断ち割ることで、押し寄せる流れそのものを削ぎ落としていた。


その二人の動きに対し、祈は一歩引いた位置から戦場全体を俯瞰するようにクロスボウを構えている。視線の先には常に“次に崩れる地点”があり、そこへ向けて矢が放たれることで、前線に到達する前の個体が次々と排除されていった。


祈専用に調整されたクロスボウには、元々ホーミング機能が搭載されており、放たれた矢は空中で軌道を微調整しながら標的へと到達する性能を持っていた。


だが、正人による改良によって、その性能は大きく引き上げられている。従来は一度の射撃で最大五体までしかロックすることが出来なかったが、現在はその三倍となる十五体を同時にロックすることが可能となっていた。


さらに、矢そのものの耐久も強化されており、一射で複数の個体を貫通することで、単純な数値以上の殲滅効率を生み出していた。


結果として、前線に到達する個体数は常に抑制され続ける。


全てのゾンビを止めることは出来ないものの、密度が下がることでリタとリルの動きが阻害されることはなく、二人は本来の速度と精度を維持しつつ、余裕のある戦闘を展開できていた。


「このクロスボウ‥‥本当にすごい。今まで使っていた物がおもちゃみたいに思えるぐらい強化されてる。」


祈はそう呟きながらも視線を切ることはなく、次の標的へと照準を合わせる。引き金を引く度に放たれる矢は、迷いなく空間を裂き、次の瞬間には複数のゾンビの頭部を貫いていた。


前線はまだ崩れていない。だが、それは“止めている”のではなく、“削り続けている”という結果に過ぎない。この場のゾンビを全て排除するには、三人だけの力では足りない。


それでも、三人は止まらない。リタの踏み込みはわずかに重くなり、リルの一刀にも僅かな遅れが混じり始めている。それでもなお、互いの隙を埋め合うことで前線の均衡はかろうじて保たれていた。


祈の指もまた限界へと近づいている。引き金を引く度に蓄積される負荷は確実に腕を蝕んでいたが、それでも照準がぶれることはなかった。


――崩れるなら、次の一瞬。


誰もがそれを理解していた。


――この戦いを終わらせるには、四人目の最後の一撃が必要だった。


三人はただ一人の言葉を信じ、振り返ることなく一心不乱に目の前の敵へと刃を振るい続ける。後ろを見ないという選択は、迷いではなく“信頼”そのものだった。


その時だった。


戦場の空気が、わずかに変わる。押し寄せていたゾンビの動きが一瞬だけ鈍り、次の瞬間、後方から人の気配を感じ取った。


それは三人にとって安心できるもので、待ち続けていた気配だった。


「みんな―――お待たせ。」


背後から聞こえたその声に三人は振り返らない。振り返る必要がないと分かっているからだ。


その声の主は――正人だった。

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