第60話 三人で一つの前線。
「リル!!後ろ!!」
とリタの叫び声が戦場に響き渡った。
戦いを始めて数時間が経過した。リタとリルはその間、持てる力の限りで戦っていたが、その体は時間と共に内側からボロボロになっていき、二人の神がかった連携も徐々にずれ始めて、とうとうリルの首にゾンビの魔の手が触れた。
リタはリルの元へ駆けようとするが、周りのゾンビによって近づくことができない。
間に合わない――そう思った時だった。背後からパスッ!!という音と共にゾンビの頭に一本の矢が突き刺さり、リルの命はその矢に救われた。
「この矢は‥‥祈さん。」
その言葉に続いて――
「2人ともお待たせ。」
と祈の姿がそこにあった。
リルの頭の中には理解できないことが次々と浮かんでいた。なぜ、祈さんがここにいるのか。自分は門に鍵をして誰も出られないようにしたはずだ。それなのに、どうやってここまで来たのか。そして、マスターの目をどうかいくぐって来たのか。
その全てが理解できないことであったが、今は理由を問うよりも、この場から祈を離す方が先決だと判断したリルは、ボロボロの体を無理に起こして祈の手を掴んだ。
「速く逃げますよ!!あなたはここに居てはいけません。」
と手を引こうとするが、その手は振り払われる。祈はクロスボウを構え、視線を前線へと向けた。
「私も一緒に戦う。2人の背中は私が守るよ。」
「そんなの‥‥ダメに決まっています。私は、マスターからあなたとあの場所を守るようにと命令を受けているんです!!こんなところで死なせるわけには行きません!!」
「マスターからの命令ね。なら、なんの問題もないよ。だって、私は正人の命令でここに立っているんだから。」
その言葉を素直に信じることは出来なかった。それは祈の性格からして、こういう場面で自分を犠牲にする可能性を示していたからだ。リルはその言葉を無視し、祈の手を無理やり引っ張って連れて行こうとする。
だが――
「リル。その言葉を信じよう。」
リタが静かに言い、リルの動きを止めた。
リルとリタの思考能力はリルの方が上だが、リタがこの程度の判断を誤るとは思えなかった。だからこそ、その言葉の意味が理解できず、納得が出来ない。
「それはどういう意味ですか?この場所に祈さんを置いて行って、もし何かあったらどうするんですか!?それはマスターの意思に反しますよ?」
「確かにその可能性はある。でも、今のままじゃ私たちだけじゃ時間稼ぎは達成できない。」
リタは一度前線へと視線を向ける。押し寄せる数は減っていない。むしろ、わずかに押され始めている。
「その事実に私が気付いているなら、マスターも気付いてる。それに、祈ちゃんは弱くない。私はちゃんと戦えているところを見てる。だから、信用できる。」
「それは‥‥そうかも知れませんが。それでも、この状況で前線に置くのは――」
「一番大事なのはマスターの意思でしょ!!リル!!」
リルの言葉を遮るように、リタが言い切った。
そう。祈の言葉は嘘である可能性もある。だが同時に、本当である可能性もある。そして現状、この状況を打開するには、もう一枚の戦力が必要だった。
リルは一瞬だけ目を閉じる。そして――
「‥‥分かりました。」
静かに言い、祈へと向き直る。
「祈‥‥絶対に前に出過ぎないでください。私たちの後ろから援護に回ってください。」
「うん!!任せて!!二人の背中は私が守るから」
その言葉に、迷いはなかった。
――三人の前線が完成する。
次の瞬間、誰一人迷うことなく、同時に前へと踏み出した。




