第59話 最後まで、共に。
祈の言葉は俺の心に深く突き刺さった。
そう、これは俺の我儘だ。祈には『戦ってほしくない』『傷ついてほしくない』と願い、安全な場所で待っていてくれと、守ることを理由に閉じ込めていた。結局は俺が安心したいだけで、祈の気持ちから目を逸らしていただけだ。
俺が祈を心配しているように、祈もまた俺のことを心配している。その当たり前のことを、俺は完全に忘れていた。
ただ帰りを待つだけというのは、想像以上に苦しいものだ。愛する人が戦場へ向かい、その帰りを待ち続ける恐怖がどれほどのものか、俺は知っている。
魔王との戦いで何千、何万もの兵士が死んだ。彼ら一人一人には帰る場所があり、帰りを待つ誰かがいた。だが、その願いが叶うことはなく、届いたのは非情な”死の通達”だけだった。
残された者たちは、自暴自棄になり、後を追い、復讐を誓う――反応は様々だが、共通しているのは、その瞳から”希望の光”が消えているということだ。
もしここで俺たちが死ねば、祈も同じように絶望に飲まれるだろう。
それで、本当にいいのか。
ここで俺たちは、バラバラになっていいのか。
いや――それだけは、絶対に違う。
たとえ、この先にあるのが最悪の結末だったとしても。
それでも、最後まで一緒にいられるのなら――それは、きっと。
「本望」と呼べるものなんじゃないか。
――残る者はいない。死後も一緒に居られる。
「はぁ‥‥本当はすごい嫌だ。でも、それよりもここでバラバラになる方がもっと嫌だ。だから、一緒に戦って死んだとしても‥‥一緒にいよう。」
と言葉と共に壁を排除した。
そして壁がなくなったことで祈としっかりと目が合い、そして――
「うん!!一緒に居よう!!」
と満面の笑みで返事をした。
本当ならもっと話をしたいところだが、今は悠長に話をしている時間はない。俺たちがこうしている間にも前線はジリジリと詰められている。なら、今は事に集中して全てを排除した後に満足するまで話せばいい。
「祈。戦うと決めた以上‥‥覚悟は出来ているんだよね?あそこは今まで戦ってきたマンションでの戦闘よりも、駅の奪還の戦闘よりも、どの戦場よりも重い。つまり、それは自分の命は自分で守らなくちゃいけない。それでも戦場に向かう?」
「うん、当然。」
短い言葉だった。だが、その目はしっかり前を向いており、何もできないただの女の子の目ではなく、しっかりと自分で戦えると覚悟を持った目をしていた。
なら、もう俺から言うことはない。心が戦士となったのなら後は武器を持ち、思う存分‥‥心のままに戦うだけだ。
「なら、これを渡しておく。」
と空間から新しい祈専用の進化したクロスボウを渡した。
本当なら、このクロスボウを渡すのはもっと後になると思っていたが、今の祈ならきっと扱えると思うし、必要な物であると判断した。
「そのクロスボウは祈専用に調整しているのはもちろん。一発一発の矢の威力も上がっているし、そして既存のモードに加えて新モードはもちろん、矢の種類も増やしている。だが、その反面、色々な能力を付け加えたせいで取り扱いが難しくなっているのと、クロスボウ本体の重さが増している。
――どうだ?扱えそうか?」
祈はクロスボウを構えたり、斜めにしたりして感触を確かめた。そして――
「しっくりくる。重さも構えた時の感触も――完璧だよ。これで、私はもっと戦える!!」
と答えた。
「そうか。なら、前線で戦っているリタとリルと合流して全力でゾンビを排除して時間を稼いでくれ。俺の魔力が溜まりきるまで戦ってくれ。」
「うん!!任せて!!絶対に時間を稼いでみせるから!!」
祈は前線へと走って行った。
その背中がどんどんと小さくなっていく。俺の心は『行かないでくれ』と止めそうになるが、口にぐぅっ!!と力を入れて言葉を奥深くへと押し込んだ。
ここで止めたら全員の覚悟が無駄になるし、それに病院の人達に言った「変わる必要がある」という言葉を俺が体現できなくてどうする。
そうだ。俺も変わる必要があるんだ!!
と感情や思いや心配など、この場に必要ない物には蓋をして、今はゾンビを排除することだけを考えるのだった。




