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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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第101話 作戦の詳細。

「‥‥そうですか。なら、本当に私達は周りの警戒だけでいいのですね?」


成瀬は僅かに視線を細めながら確認するように問い掛けてくる。その声音には、まだ完全には拭い切れていない不安と警戒心が混じっていた。無理もない。これから向かおうとしている場所は“国立感染症研究所”――恐らく、日本国内でも最も危険な場所の一つになっている可能性が高い。


そこへ突入するというだけでも正気とは思えない話なのに、正人達は“自分達だけで内部へ侵入する”と言っているのである。普通の感覚なら、到底理解出来る話ではなかった。


だが、そんな成瀬の問いに対しても、正人は迷うことなく頷いた。


「はい。それで構いません。」


そう答えた後、正人はそのまま話を続ける。


「では、ここからは細かい作戦について説明していきますね。リタ――紙を出して。」


「はい。」


正人に言われた通り、リタは素早く机の上へ大きめの紙を広げた。そこには既に簡易的な地図や建物の外観予測図が描かれており、学校側とホテル側のメンバー達も自然と視線を落としていく。


「国立感染症研究所に関する詳細な施設構造までは入手出来ませんでした。ただ、ドローンによる外部調査と周囲の地形確認によって、ある程度の出入口は把握出来ています。」


そう言いながら、正人はペンで紙の数カ所へ印を付けていった。


「まず正面入口が二つ。そして裏口が一つ。さらに搬送用と思われる大型ゲートが二つ、職員用通用口が一つ、最後に緊急避難口が一つ――これが、現時点で判明している出入口になります。」


黒丸で囲まれていく複数の侵入口を見ながら、学校側やホテル側のメンバー達も徐々に真剣な表情へ変わっていく。


「恐らくですが、施設内部はウィルス蔓延時にロックダウンが行われている可能性が高いです。つまり、通常の入口から簡単に侵入出来るとは思わない方がいい。恐らく高レベルの電子ロック、IDカード認証、パスワード式セキュリティー――そういった設備は今も稼働している可能性があります。」


その説明を聞いた瞬間、何人かが小さく顔を顰めた。国家レベルの研究施設である以上、セキュリティーが甘いわけがない。むしろ、ゾンビ化による混乱が起きた今でも、システムだけは稼働し続けている可能性すらある。


そんな空気の中、正人は落ち着いた口調のまま言葉を続ける。


「ただ、その辺りに関しては問題ありません。リアであれば、それら全てのセキュリティーを突破可能です。」


「‥‥突破?」


佐々木が眉を動かす。


「リアはドローン操作だけじゃない。電子機器への干渉、情報解析、システム掌握――そういった後方支援全般を担当している。だから、通常レベルのセキュリティーなら問題なく解除出来る。」


その説明を聞いた瞬間、周囲の空気が僅かに変わった。ここまで聞いていた内容だけでも十分異常だったが、今の説明によって、正人達が単純な戦闘集団ではないことがハッキリしたからだ。


戦闘能力だけではない。情報戦、索敵、解析――そういった全てを組み込んだ上で作戦を立てている。その事実に、学校側もホテル側も改めて正人達への認識を変え始めていた。


だが、正人はそこで一度言葉を切る。


「――ただし。」


その瞬間、再び空気が引き締まった。


「もし施設そのものが“完全封鎖状態”へ移行していた場合は話が別です。」


正人は紙の中央を軽く指で叩く。


「例えば、施設側が“誰一人として出入りを許可しない状態”へ切り替わっていた場合、流石のリアでも電子的な解除が不可能になる可能性がある。」


その説明に、成瀬達の表情も険しくなった。つまり、電子ロック以前の問題として、施設そのものが完全遮断されている可能性があるということだ。


「なので、その場合は第二作戦へ移行します。」


正人は静かにリタへ視線を向ける。


「――リタ。」


「はい。」


その返事と同時に、リタは机の上へ一つの黒い物体を置いた。


ゴトリ――


鈍い音を立てて置かれたそれを見た瞬間、その場にいた全員の空気が変わる。


「これは‥‥」


成瀬が小さく呟く。


正人は淡々と答えた。


「C4――プラスチック爆弾です。」


その瞬間、何人かが無意識に息を呑んだ。流石に、本物の軍用爆薬など普通の人間が見る機会はない。しかも、ここはゾンビ世界。武器不足が深刻化している中で、こうした爆薬を持ち出してくる時点で異常だった。


「まぁ、見てもらえば分かると思うけど、かなり威力の高いやつだ。」


正人は平然と説明を続ける。


「これを使って入口を物理的に破壊する。そして、そのまま内部へ突入し、セキュリティー管理室へ向かう。」


紙へ描かれた建物構造へ指を動かしながら、正人は侵入ルートを説明していった。


「管理室さえ確保出来れば、施設内部のロック解除、監視システム掌握、隔壁操作――その辺りも全部こちら側でコントロール出来るようになる。後は、ウィルス研究に必要なデータ、研究資料、薬品類――それらを回収して撤退する。これが第二作戦を含めた全体の流れになる。」


そこまで説明を終えた正人は、小さく息を吐いた。


「まぁ、正直かなり大雑把な作戦だとは思ってる。」


その言葉に、何人かが苦笑を浮かべる。だが、それも当然だった。内部構造が分からない以上、事前に完璧な作戦を組み立てることなど不可能に近い。むしろ、限られた情報だけでここまで具体的な侵入計画を立てている時点で異常とも言えた。


「内部構造も、セキュリティーも、建物の配置も分からない状態で立てられる作戦なんて、どうしてもアバウトになる。」


正人はそう言いながら肩を竦める。すると、佐々木が腕を組みながら静かに口を開いた。


「‥‥なるほどな。大体の流れは理解出来た。」


そして、紙へ描かれた侵入口を見ながら続ける。


「つまり、俺達の役目は、お前達が侵入している間に周囲へ集まってくるゾンビを排除すること――特に、爆発音に引き寄せられる連中の対処ってわけか。」


「第二作戦になった場合はそうなるね。」


「だが、それをやるには俺達の装備じゃ不安が大き過ぎる。」


佐々木の表情が少し険しくなる。


「遠距離武器はクロスボウ程度だし、射程にも限界がある。それに数だって足りない。大量のゾンビ相手に持久戦なんて出来るとは思えないぞ。」


その指摘は正しかった。今の彼らの装備では、小規模戦闘への対応は出来ても、大量のゾンビを継続的に抑え込むには火力が足りない。


だが、正人は既にその問題も想定していた。


「そこは、こっちから武器を渡す予定ではある。ただ、問題は時間だ。」


その言葉に、周囲の視線が集まる。


「銃を渡すこと自体は出来る。でも、使い慣れてない武器を戦場でまともに扱えるようになるには練習が必要になるし、今は、その為に何週間も時間を使ってる余裕がない。」


その現実的な言葉に、誰も反論出来なかった。銃は持てば強くなる武器ではない。扱い方を理解しなければ、逆に自分達の命を危険へ晒すことになる。


だからこそ正人は、静かに結論を口にする。


「だから第二作戦になった場合、無理だと思ったら待機してくれて構わない。」


「ん?つまり、ゾンビとは戦わなくていいってことか?」


「そうだね。」


正人は迷いなく頷く。


「さっきも言ったけど、時間を掛けたくない。無理して戦って死なれる方が困る。だから、無理だと思ったらそのまま報告だけしてくれればいい。」


その言葉を聞いた佐々木は、少し考えるように黙り込んだ後、ゆっくり口を開いた。


「‥‥なるほどな。」


そして、そのまま成瀬達の方へ視線を向ける。


「だが、流石に俺達としても何もせず見てるだけってのは性に合わない。成瀬のホテル側とも話し合って、何か別の方法を考えてみるってのはどうだ?」


その提案に、正人は少しだけ考え込む。そして数秒後、小さく頷いた。


「‥‥分かった。さらに三日だけ待つ。それまでに、そっちも全部準備を終わらせてくれ。」


その言葉に、佐々木達の表情も少し引き締まる。


「なら、三日後だな。」


佐々木は確認するように口を開く。


「再び、この場所で話をするってことでいいか?」


だが、正人は首を横に振った。


「いや。」


その声音は静かだった。だが、その目には迷いがない。


「三日後に、そのまま作戦を開始する。」


その瞬間、その場の空気が一気に引き締まった。もう後戻りはない。


三日後――全員が、本当に“国立感染症研究所”へ向かうのである。

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