第100話 救済への戦力。
「それじゃあ、双方とも引き受けるという方向で決まったわけだから、こっちも他の仲間を紹介しよう。」
正人がそう言葉を口にすると、その場にいた学校側とホテル側のメンバー達は自然と視線を向けてくる。互いに協力するという話そのものは既にまとまっている。だが、それはあくまで“協力する”という方向性が決まっただけに過ぎず、これから本当に命を預け合うことになる相手がどんな人間なのか――そこを知りたいと思うのは当然のことだった。
そんな周囲の視線を受けながら、正人は腰元から無線機を取り出す。
「祈、リル。そろそろ来てくれ。」
『了解。』
短い返事が返ってくると、公園には再び静かな空気が流れ始めた。だが、その静けさの中には僅かな緊張感が混じっている。学校側もホテル側も、まだ完全に警戒を解いたわけではなく、互いに協力するという結論には至ったものの、それでも相手の底が見えているわけではないからだ。
そんな空気の中、数分ほど待っていると、公園の入口側から二つの人影が姿を現した。先に姿を見せたのは祈であり、落ち着いた雰囲気を纏いながら歩いてくる彼女の姿に、学校側やホテル側の視線が自然と集まっていく。そして、その隣を歩いているのはリルだった。
感情をあまり表へ出さない静かな佇まい。だが、その細い身体からでも分かるほど鋭い気配が漂っており、戦闘経験のある者達ほど無意識に警戒心を強めてしまう。そんな二人は、そのまま正人達の傍まで歩み寄ると静かに立ち止まった。
それを確認した正人は、改めて全員へ向けて口を開く。
「こっちの仲間は、俺、リタ、リル、祈の四人が主に戦闘を担当する。そして、もう一人バックアップ担当としてリアがいる。」
その言葉を聞いた瞬間、周囲の何人かが小さく首を傾げた。正人の周囲にいるのは、今紹介された四人だけ。なら、“リア”という人物はどこにいるのか――そんな疑問が自然と浮かんだのだろう。
そんな反応を見た正人は小さく笑う。
「ただ、リアは基本的に表へ出てくることはない。あいつは後方支援専門で、主にドローンから情報を落としてくれる役割だ。」
「ドローン??」
その言葉に、その場にいた全員が反応した。学校側もホテル側も、ほぼ同時に空へ視線を向けると、それまで上空を旋回していた小型ドローンが、ゆっくりと高度を下げながら公園の中央付近まで降りてきて、その姿をはっきりと現す。
今の時代、ドローンそのものは珍しくない。だが、このゾンビ世界でここまで安定して運用されていること自体が異常だった。しかも、正人達はこれを“戦術”として完全に利用している。
その事実を理解した瞬間、周囲の空気が僅かに変わった。
そんな中、学校側のリーダーである佐々木がドローンを見上げながら静かに口を開く。
「もしかしてだけど、このドローンを使って俺達の情報を集めていたのか?」
その問いに対し、正人は隠すことなく素直に頷いた。
「うん、そうだよ。」
そして、正人は落ち着いた口調のまま言葉を続ける。
「どれだけ内部の情報を隠していても、全てを隠しきれるわけじゃない。両グループの人数、男女比、行動、構成――そういった情報を集めて、今回の依頼を任せられる相手かどうかを精査してたってわけだ。」
その説明を聞きながら、学校側とホテル側のリーダー達は静かに耳を傾けていた。疑われていたことに不快感を覚える者もいるだろう。だが、それ以上に、正人達が“本気”で行動していたことが伝わってくる。
ただ勢いだけで動いているわけではない。情報を集め、分析し、相手を見極めた上で協力を持ち掛けているのだ。その慎重さと徹底ぶりが、逆に正人達への信頼へ繋がっていた。
そして、少し考え込むように視線を落としていた成瀬が、何かに気付いたように静かに口を開く。
「なるほど‥‥どうやら、あなたの言っていることは本当のようですね。」
その言葉に、周囲の視線が自然と成瀬へ集まった。成瀬は真っ直ぐ正人を見据えたまま、静かに続ける。
「この世界を‥‥日本を救うつもりだという話も、どうやら本気のようです。」
その声音には、三日前まで存在していた疑いの色がかなり薄れていた。正人達がただ理想論だけで動いているわけではない。現実を見据え、必要な準備を整え、その上で前へ進もうとしている――それを、成瀬自身が理解し始めていたのである。
「もちろんです。」
正人もまた、迷いなく言葉を返した。
「俺は、このゾンビ世界をどうにかするつもりです。だからこそ、“国立感染症研究所”へ向かう必要がある。そして、その為には皆さんの協力が必要不可欠なんです。」
そこで一度言葉を切り、正人は周囲を見渡す。
「理解してくれましたか?」
その問いに対し、成瀬は静かに頷いた。
「えぇ、それはもう‥‥疑いの余地がないぐらいには理解させていただきました。」
そこまで言ってから、成瀬は少し真剣な表情へ変わる。
「ですが、一つだけ気になることがあります。」
「なんでしょう?」
「その“国立感染症研究所”へ、あなた達はどうやって侵入するつもりなんですか?」
その場の空気が、少しだけ変わった。ここにいる全員が、その場所の危険性を理解しているからだ。
「私達は護衛だけでいいと聞いています。ですが、本当に四人だけで大丈夫なのでしょうか?」
その疑問は当然だった。恐らく――いや、確実に“国立感染症研究所”には大量のゾンビが存在している。しかも、その数は今まで遭遇してきたものとは比較にならないはずだ。
そんな危険地帯へ、たった四人で突入する。普通に考えれば無謀としか思えない。だからこそ、その場にいた全員が正人の返答を待っていた。
だが、そんな視線を受けながらも、正人の表情に迷いはない。なぜなら、正人には確信があったからだ。
自分には錬金術がある。リタとリルはホムンクルスであり、人間を遥かに超えた戦闘能力を持っている。そして祈もまた、正人達と共に戦い続ける中で確実に実力を伸ばしてきた。
それだけではない。例え戦闘以外で問題が起きたとしても、後方にはリアがいる。ドローンを用いた索敵、情報収集、分析――その全てをリアが担当している以上、不測の事態への対応力も他とは比較にならない。
だからこそ正人は、成瀬の問いに対して一切迷うことなく、自信に満ちた表情で言葉を返した。
「問題ないです。」
そして、そのまま真っ直ぐ全員を見渡しながら続ける。
「必要なものは、全部用意しています!!」




