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「異世界帰りの錬金術師は、祈る彼女と契約関係を交わして――世界を救う。」  作者: Lark224a


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102/102

第102話 戦闘開始。

迎えた、作戦決行日。


正人は最後の覚悟を決める為に、目的地である“国立感染症研究所”を一望出来る高台から、その巨大な施設を静かに見下ろしていた。


灰色の空の下に広がる研究施設。その周囲を埋め尽くしているのは、もはや人間ではなくなった無数のゾンビ達だった。


やはりというべきか、事前の作戦会議でも予想していた通り、“国立感染症研究所”には大量のゾンビが集まっている。その数は、以前リタとリルと共に死線を潜り抜けたあの日と同等――いや、それ以上と思えるほどであり、視界の先には黒い波のように蠢く死者達の姿が果てしなく広がっていた。


耳に届くのは低く唸るような呻き声。風に乗って漂ってくる腐敗臭は鼻を刺し、折り重なるように群がる死体の群れは、それだけで生理的嫌悪感を掻き立ててくる。普通の人間なら、その光景を見ただけで心が折れてもおかしくない。


だが、それほどの絶望的な光景を前にしても、正人の心に恐怖は存在していなかった。


一切不安に思っていない――というより、“負ける気がしない”という感覚の方が近い。


それは、自分に錬金術があるからではない。確かに、錬金術は強力だ。今まで何度も窮地を覆し、多くの困難を突破してきた。だが、今の正人に絶対的な自信を与えているのは能力ではなかった。


背中を安心して任せられる仲間がいる。そして――隣には、命を懸けてでも守りたいと思える祈が居てくれる。


その事実こそが、正人の心から迷いを消し去っていたのである。だからこそ、目の前にどれほど大量のゾンビが存在していようと、正人に一片の不安も存在していない。


そんな風に研究所を見下ろしていた時だった。背後から、静かに近付いてくる足音が聞こえてくる。


「ようやく私達の目的の一歩が始まるんだね。」


聞こえてきた声に、正人は小さく息を吐きながら振り返った。


「‥‥祈か。」


そこには、優しく微笑む祈の姿がある。


彼女もまた、この場所に辿り着くまでの時間を思い返しているのだろう。ここへ来るまで、本当に色々なことがあった。ゾンビに追われ、仲間を増やし、時には命の危険に晒されながら、それでも前へ進み続けてきたのである。


正人は、再び研究所へ視線を向けた。


「そうだな。ようやく一歩目だ。長くもあり、短くもあった。」


その言葉には、今まで積み重ねてきた全てが滲んでいた。病院から始まった逃亡生活。仲間との出会い。ホムンクルス達との絆。祈との関係。そして、“この世界を救う”という覚悟――その全てを積み重ねた先に、ようやく今ここへ辿り着いたのである。


「だね。」


祈も小さく頷く。


「色々な人との出会いもあったし、友人達との再会もあった。でも――本当に大事なのはここからなんだよね。」


「あぁ、そうだ。」


正人は静かに頷いた。


「これを失敗したら、今まで積み重ねてきたこと全部が無駄になる。」


その言葉は決して大袈裟ではない。ここで失敗すれば、“国立感染症研究所”へ再び近付ける保証はない。今の戦力と状況だからこそ実行出来る作戦であり、一度崩れれば次があるとは限らなかった。


だからこそ、この作戦は絶対に成功させなければならない。だが、それでも正人の表情に迷いは存在していなかった。


「でも、不安になる必要は全くない。」


そう言いながら、正人は祈へ視線を向ける。


「俺達なら、必ずやり遂げることが出来る。」


その声音には、絶対的な確信が込められていた。無理矢理自分へ言い聞かせているわけではない。本気でそう思っているからこそ、そこには一切の揺らぎが存在していないのである。


そんな正人の言葉を聞いた祈は、小さく微笑みながらそっと手を伸ばした。すると、正人も自然とその手を握る。


互いの体温が重なる。それだけで、不思議と心が落ち着いていく。ここまで来れたのは一人だったからではない。仲間が居てくれたから、祈が隣に居てくれたから、正人はここまで辿り着けたのである。


だからこそ、負けるわけにはいかなかった。


「さぁ、始めるか!!」


「はい。」


祈もまた、迷いなく力強く頷いた。



研究所から少し離れた位置。そこには既に、正人達の移動用バイクと装備が並べられていた。


リタはアサルトライフルの最終確認を行い、リルは腰に差した刀へ静かに触れながら感覚を確かめている。そして、上空ではリアのドローンが旋回しながら周囲の索敵を続けていた。


全員が理解している。ここから先は、もう一歩間違えれば死ぬ戦場だ。


だが、それでも誰一人として怯えてはいない。今まで何度も死線を潜り抜けてきたからこそ、全員の瞳には覚悟が宿っていた。


正人は全員を見渡しながら、静かに口を開く。


「じゃあ、全員‥‥準備はいいか?」


「「「「はい。」」」」


その返事を聞いた瞬間、正人はバイクのアクセルを一気に吹かした。


ブオォォォォンッ――!!


エンジン音が周囲へ響き渡り、次の瞬間、正人達は“国立感染症研究所”へ向かって一斉に走り出した。


爆音を響かせながら一直線に突き進むバイク。当然、その音に反応したゾンビ達が一斉に顔を上げる。濁った瞳。腐り落ちた肉体。そして、生者を見付けた瞬間に爆発する狂気――大量のゾンビ達が、正人達へ向かって一斉に動き出した。


「グァァァァァァッ!!」


だが、その瞬間――


「祈!!」


「うん!!」


後部座席へ乗っていた祈が、即座にクロスボウを構える。狙いに迷いはない。


ヒュンッ!!


放たれた矢は一直線に飛び、最前列にいたゾンビの頭部を正確に貫いた。頭を撃ち抜かれたゾンビが後方へ倒れ込む。だが、それで終わりではない。


「リタ!!」


「はい。」


次の瞬間、リタがアサルトライフルの引き金を引いた。


ダダダダダダダダッ――!!


激しい銃声が周囲へ響き渡る。放たれた弾丸は、手前のゾンビだけでは終わらない。後方にいるゾンビ達まで次々と撃ち抜き、腐敗した肉体を吹き飛ばしていく。


頭部が砕ける。血飛沫が舞う。倒れた死体へ後続のゾンビが躓き、その動きが僅かに乱れた。


その瞬間だった。


「今だ!!」


正人は一気にバイクを加速させる。ゾンビの群れの間に生まれた僅かな空間へ滑り込むように突入すると、正人達は一気にバイクを停止させ、そのまま四人同時に地面へ飛び降りた。


そして――


「行くぞッ!!」


遂に、本格的な戦闘が始まったのであった。

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