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株式会社IT 短期運営版  作者: おじぎ猫


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FAW探検! ワクワク旅行記 ~宿屋にて~

「本当にすみません! 殴るつもりはなかったんです!」

「いや、それは分かってるから……」

「そうだぜテュテュ。お前がキレて殴ってきたのが悪いんだよ」

「ちょっと! それに関してはキリキリも悪いでしょ? あんたが急に胸を触って来たんだし」

「いやいや! あれはちょっとした事故で……」

「事故? あんながっちり掴んどいて何言ってんの!」

「なっ、あんな位置に立ってたのが悪いだろ!」

「」

「だー、もう! 喧嘩を止めろっての!」

「そ、そうだよテュテュさん! 別に胸触られたからってそこまで怒んなくても……」

「もう喋んないで姉さん! 火に油を注ぐだけだから!」


 ベッドに腰掛け頬にガーゼを貼り付けたまま、俺は左右でぶつかるテュテュ(アマが羽交い絞めで抑えている)とキリキリ(セウが踏ん張って抑えている)の間でストップのポーズをする。怪我させた当人が怪我人に宥められてるってどんな構図だよ。


「ちょい、ミシュ! お前も止めてくれよ!」

「んーむ……。私としては右往左往しているのを見てるのも楽しいですけどね。そもそも、そんな元気はありませんし」


 ミシュは熱中症から回復はしたものの、まだ本調子ではないようだった。が、そんなものはどうでもいい。


「俺だって怪我してるっての! ここの平穏を取り戻さなければ俺達は休めないんだから手伝え!」

「顔ぶん殴られたくらいでどうにかなるほど柔くないでしょ市郎は。……けど、確かに平穏は必要ですね」

「だろ! だから手伝えよ!」


 ミシュはベッドから起き上がりゆっくりと言い合う二人の間に立つ。そして、綺麗に二人の顎を打ち抜いた。体調が悪いとは思えない程流麗で美しいダブルアッパー。……じゃなくて。


「え、ミシュさん?」

「ちょっ、ミシュちゃん⁉」

「なぁーにやってんだぁ!」

「え? 喧嘩を鎮めただけですよ?」

 

 きょとんとした顔で言うミシュ。白目を剥いて倒れるキリキリを慌てて支えるセウと全身脱力したテュテュを片手で抱えながら驚くアマ。


「恩人相手に拳を出すんじゃねえよ! というか段階踏み越えてんじゃねえ! 平和の一歩は対話からだ!」

「私が碌に会話できるとでも?」

「何でドヤ顔が出来るんだよ……」

「ミシュちゃん、話すことって大切だからね?」

「自慢ではないのですが、私は話すこと以外しか出来ないのです」


 ……………………。


「……やっぱり、今後も話すのは俺がやるよ。今決めた」

「ああ、そうしてくれるならありがたいですよ市郎」


言葉を失っていたセウとアマが、ハッとしたように俺を引き寄せこそこそ話をする体勢に。

 

「ちょっと! ミシュさんってあんな脳筋なんですか⁉」

「脳筋じゃないんだが……超がつくほどのコミュ障なんだ」

「コミュ障? 私からするとそんな感じしなかったけどなぁ」

「何故だか知らないが、お前らのことは気に入ってるんだよ。本来は初めて会う相手には話せたら万々歳ってレベルなんだ」

「それは……イチロウが過保護だったんじゃない? それに、見た目通りの少女なのも事実だし」

「まぁ、それはそうなんだが……度が過ぎてるんだよ」

「ちょっと、私だけ仲間外れにして何話してるんですか」


 俺達は頭だけを突き出した姿勢を解除する。


「別に? お前について色々教えただけだよ」

「そうそう。ミシュちゃんがすごいって話!」

「ミシュさんって強いんすね! 言葉よりも先に腕っぷしでどうにかするその強さ! まさに脳筋ゴリゅぶへぁっ!」


 一言多いセウがミシュのストレートパンチを受けて吹き飛ぶ。体をツイストさせながら壁に叩きつけられた。


「私が脳筋チビゴリラと申したのは何処のどいつです?」

「い、いやいや! チビまでは言って……」「言いましたね」「げばぁ!!」


 ボディブロー、フック、アッパーカット。流水が如き三連撃で壁に張り付くセウ。いつもよりも覇気を携えたミシュが骨を鳴らしながら近づいていく。

 

「あらあらあらあら。セウはそんなに人を詰るのが好きなのですね。イチロウのとは違って心に良く響きましたよ」

「ま、まじで死ぬ……。た、たたた、助けて、姉さぁん!」

「頑張ってねセウ。もうそろその癖直してね」

「ちょ、頼みますって! イチロウさん!」

「ミシュを悪口で怒らせられるのは才能さ。誇れ☆」

「み、ミシュさんまじすんませんでしつぁっ! どぶっ!」

「良いですよー。これはやつあたりですからね」

「やつぃっ! あたりならびゃっ! 僕じゃなくどぅぼぉっ!」

「最近ストレス発散してなかったなって思いましてね?」

「……さて。キリキリをこのまま地面に寝かせてもあれだし、ベッドに運んでやるか」

「じゃあ私はテュテュさんをやるね」

「ちょっと待ってぇ! うげぁ!」


 サンドバッグになったセウを無視して俺とアマはキリキリ達をベッドへ運ぶことに。

 ……が、キリキリを持ち上げられない。


「おっもいな……アマ、大丈夫か?」

「ん?」

「……いや、聞くまでもなかったな」

 

 アマはテュテュを片手に軽々と抱えながらこっちを見ていた。


「あー、持ち上げられないの? 手伝ってあげようか?」

「いや、少しだけ頑張って、みるよっ! とおぉぉぉぉぉ!」


 たまにはいいとこ見せてやr……。あ、無理。


「はぁ……はぁ……。ちょっと、終わったら手伝ってくれないか、アマ」

「いいよ。といっても、もう終わってるし」


 テュテュはいつの間にか奥のベッドに寝かされていた。まじで速いな。アマはそそくさと俺の近くに寄りキリキリを持ち上げた。


「……はぁ。情けないな」

「何が?」

「いや、もっと腕力とかあれば、っていう高望みだよ」

「別に良いんじゃないの、イチロウは。戦いが専門職ではないし、いざとなったら私達かミシュちゃんに任せればいい」

「別に頭脳枠って訳でもないのだが……そもの計画自体俺じゃなくミシュが考えたものだし」

「――え、まじ!? てっきりあのでっかいのとかも市郎が考えたのかと……」


 手で口を抑えてガチめに驚愕するアマ。それでも片手で持っているキリキリを落としたりはしていない。

 

「アナザーも純度100%であいつのものだよ。言っちゃえばカエズ王との交渉も文章自体はミシュだし、元の世界でも運営はミシュメインだったんだ」

「……もしかして、ミシュちゃんってめちゃくちゃ優秀?」

「あいつは性格とコミュ障さえ治せば完璧超人なんだよ」

「二言ほど余計ではありますが、褒め言葉は受け取っておきますよ」

「あ、ミシュちゃん」


 いつの間にか横にミシュが立っていた。俺の言葉で喜んだにしても、いつもより健やかな笑顔をしていた。

 

「もうストレス発散はいいのか?」

「ええ。やっぱり市郎と違って、殴り心地は良かったですよ」


 ふとセウの方を見てみると。……見なかったことにした。後で治療はしとくか。

 

「別に、俺のことそんな殴ってないだろ」

「そうでしたっけ? ああ、どちらかというと言葉で殴っていたような」

「さっきセウに言葉の暴力で負けてたのは何処のどいつだよ」

「負けてはいませんよ。先にステージを切り替えただけです」

「そうなのかい、脳筋チビゴリラさん」

「……せっかく発散したストレスがチャージされていきますよ」

「直ぐに殴ってこないのなら、十分にスッキリしてるだろ」

「あ、分かっちゃいます?」

「分かっちゃうんだなぁ、これが」

「それじゃあ、これは?」


 ミシュがこちらに顔を向ける。さっきよりは微笑みが消え、いつもの仏頂面に近い。


「分からせる気ないだろ。……強いて言うなら、早く寝たい、とかか」

「状況からの推測ですね。面白くありません」

「だったら今、面白くないって考えてるだろ」

「屁理屈の後出しなんてじゃんけんの風上にも置けませんね」

「別にじゃんけんじゃねえから。俺の勝ちだって認めれば寝させてやるよ」

「寝させてやるとは私を倒していくということですか? いいでしょうならば勝負!」

「そのままの意味じゃい。別に手伝う必要もないし眠っててもいいってことだよ」

「私がいつ寝たいと言いましたか」

「さっき否定してなかったろ」

「……ふむ。腕は鈍っていなかったようですね」

「くっくっく……俺はまだまだ全盛期だよ」

「じゃあ私はもう寝ますからね」

「おう」


 ミシュは自分が寝ていたベッドに戻り目を閉じる。






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