In one man's dream
名前を呼ばれた気がした。
まだそれほど年を重ねていない、あどけなさの残る少女の声。俺にとって忘れられないその声の少女は、俺の横に座っていた。空には数えきれない程の光。果てのない天。陳腐だが、宝石が散りばめられたようと表現されるべき星空。
俺はこれが夢だと分かっていた。何度見たのかも覚えていないくらいにはそれを見ているから。この夢の中でだけ、はっきりと意識を持っているような錯覚を覚えていた。現実の俺とは離れた、虚ろでありながら確かに存在するぼやけたスナップ写真のような夢。この夢は、写真を眺めるように決まったことであり、俺のやることは何も変わらないのだ。
「楽しい?」
俺の口からそれは溢れ落ちた。しかし直ぐに俺は震えた声が漏れそれを隠す。凍えるような寒さ。その冷たさで指先は悴み、息は白ばむ。だから、俺達は手を繋いだ。
「うん、すっごく楽しいよ」
少女の声は軽やかで、明るく微笑むその顔はやはり美しく真っ白で陶器のような肌をしている。陶器のような肌、といえば聞こえはいい。しかし、それは人間のような肌ではないということを示す。俺はその顔がとてつもなく苦手だった。だから彼女の頬を触った。熱を、彼女に。
「……そっか」
我ながらなんともいえない返事をしながら少女を見つめていた。そうしているうち、少女は視線をこちらから外して空へ。その瞳は夜空に浮かぶどの星よりも明るくて、輝いていた。俺も彼女にならい空を見上げた。オリオン座、うさぎ座、――あれは何だったっけか。毎度の様に思い出せない。
正確に言うならば、名前がついたくらいで俺には関係のないことだからだろう。どんな星が浮かんでも、この夜空で俺にとって少女以上に輝くものが見えなかった。心地の良いものではないし、今すぐ少女に向き直りたい。だが、俺は星を見ているだけだ。それだけ。筋をぴんと伸ばした首は縮もうともせず動く気配すらない。どうしようもない。俺は、どうしようもない。
……ああ、またこの感覚。夢の中でさえ意識が薄れていく。なんで、なんで俺はここに居られないんだ。




