FAW探検! ワクワク旅行記 ~どっちが悪い?~
俺とハルと呼ばれた少年は横並びで地面に正座する。キリキリの纏う雰囲気が変わった。
「ハル」
「は、はい」
「俺の宿を使ってくれてるのは感謝してるよ。たまに別の町から来るリザードマンぐらいしか使わないからな」
「……どういたしまして?」
「感謝はするがな、……もっと言葉に気を付けろってチェックインの時にも言ったよな⁉ 周りから優しくされて育ったのか知らねえが、その態度じゃいづれ見放されるぞって言ったの覚えてないのかよ! 初めてだったぜ客に怒ったの! 大体、なんで俺の宿とってこんな所で寝てたんだ、こんなカチカチの椅子で! 体に悪いだろうが!」
……うわぁ、めちゃくちゃにキレている。キリキリの背後に鬼が見えた。
「ご、ごめんなさい! 元々依頼があってイテウに来て、その……」
「そこは知らねえ! 俺が言ってんのは無自覚なのか分からねえその煽り口調の方だ! 後謝るなら俺じゃなくそこのイチロウに謝れ!」
「わ、分かりました!」
涙目になりながらこっちに体を向き直すハル。
「……おにーさん、ごめんなさい!」
「……ふ、ふふ、分かればいいんだよ分かれば」
「お前もお前だ! 上から目線でものを言うんじゃねえイチロウ!」
「はいその通りでございます真にすいませんでした!」
今度は俺のターンだった。
「そもそも、子供のちょっとした言葉でキレるお前も問題だからな! さっきも言った気がするが、そんな短気じゃ折角の友達も全員居なくなっちまうからな! 本当に気を付けろよ!」
「はい! 心に留めておきます!」
「はぁ、ったく……。なんで俺が国の使者と『希望の星達』を叱ってるんだよ……」
「『希望の星達』⁉」
「国の使者⁉」
お互いにお互いを見開いた目で見つめ合う俺達。
「おにーさんそんなすごい人だったの⁉」
「お前が『希望の星達』⁉」
「……ああああ! めんどくせえこいつら!」
キリキリの仲介説明によって(時折本人説明も入りつつ)、俺達はお互いを深く知る。ややキリキリがぶっきらぼうだったのは流石に可哀想だと思った。
「……へえ、おにーさん、すごい人だったんだね!」
「いやあ、俺は成り行きみたいな部分があるからな。実力で『死神』と呼ばれるまで押し上がったハルの方がすげえよ」
「えへへ、ありがと! おにーさん!」
「そこまで真っ直ぐ喜ばれると、褒めただけなのに一仕事終えた気分になるな」
「いやいや、おにーさんが褒め上手なんだよ!」
「……」
「あ、おにーさん口にやけてる! 嬉しいんだ!」
「わざわざ言わなくてもいいわ!」
「はあ、お前ら元気だな……」
三十連勤した後の教師のような、疲労感たっぷりの声で呟く。……お疲れ。
「そういえばおにーさん、アマねーちゃんとセウにーちゃんと居たんだ」
「ん、ああ。会いたかったらキリキリの宿に行けば会えるぞ」
「え、おじさんの所に⁉」
「おじさんって呼ぶのはやめて欲しいんだが……」
「分かった! キリキリおにーさん! 宿って何処にあったっけ!」
「ここからだったら真っ直ぐ進んで突き当たりを右に進めば着くぞ。どうせ戻るから付いてくるか?」
「んー、いいかな。僕ここで仕事しなくちゃだし」
「仕事? ここに何かあるのか?」
「何かあるというか、あるかと言われたら分からないっちゃ分からないんだけど……うーん、依頼関係だから大っぴらに言えないんだよね」
「へえ」
「ま、守秘義務はないしいいや!」
……ハルに秘密は教えられないと思った。少年は楽しそうに笑顔を浮かべる。
「おにーさん、最近マーナ、南の地方辺りには行った?」
「いや、行ってないな」
「そこらへんで悪さしてた盗賊団がここに逃げてきたらしいんだ」
「そこまで分かってるのか。何処で掴んだ情報なんだ?」
「南の地方の依頼者ってこういう情報をすごい持ってるんだよねー。所謂情報屋? みたいな?」
「……成程」
南の地方ならユンクォやニトに関する何かは得られるかもしれない。これは覚えておこう。
「まあ、情報収集ならうちも負けてないけどね! えっへん!」
「急に威張るなよ。でも、そうか。『希望の星達』ってそういう所も強いのか」
「いや、『希望の星達』にそういう人は居るかもしれないが、別に特徴として情報収集が強い訳じゃねえよ」キリキリが言葉を挟む。「ハルが言ってるのはあいつが所属してる劇団のことだ」
「劇団? ハルって演技出来るのか?」
「そりゃもっちろん! 寝たふり、キリキリおにーさんにはバレなかったじゃん?」
「――ああ、言われてみれば。あれは誘い込むための罠だったんだな。見事な狸寝入り、恐れ入った」
「んにゃ? おにーさん達が大きい声出すまではぐっすり寝てたよ」
「寝てたのかよ!」
「あはは! いいツッコミ!」
シンプルな方が好みらしい。腹を抱えて笑っていた。
「面白いね、おにーさん。おにーさんもうちに入らない? 誰でも大歓迎だよ」
「遠慮しとく。俺はあんまり演技とか得意じゃないからな」
「そっか! ……いい人生だね!」
ハルの言っている「いい人生」の意味は少し分からなかったが、何かを飲み込んだような言葉だとは思った。
「なら見に来てよ! 明日は広場で一幕やるからさ!」
「明日か……」
別に時間制限もないし、アマとセウは一日休んだ方がいいだろうしな。観劇する暇はあるだろう。
「分かった。見に行くよ」
「やったー! ありがとう、おにーさん!」
「ちょっ、鎌持ったまま抱きつくな! 怖い怖い!」
「大丈夫だよ、おにーさん! カバー付いてるから目に入らなきゃ大丈夫」
「そりゃ、死ぬこと以外かすり傷かもしれないが、邪魔じゃないか?」
「あ、確かに」
ハルは一度鎌を置き、もう一度俺に腕を巻き付けた。
「ありがとー!」
「……なんだか、久々に子供らしい子供を見た気がする」
ミシュやカエズ、声だけだがシンミンなど。外側だけ幼い者ばかりで、外見通りの少年はこの世界では初めてかもしれない。
「ちょっと、子供扱いしないでよー!」
「でも実際には子供じゃないか」
「それは、そうだけどさあ……」
「ごめんごめん。子供扱いが気に入らなかったら謝るよ。その頃の俺は君程頑張ってなかっただろうからな、すごいよ」
「……ま、まあ。おにーさんの褒め言葉に免じて、さっきの失言は許してあげるよ。でも、絶対見に来てね」
「分かってるよ。それじゃ、後でな。行こうぜ、キリキリ」
「ああ。――ハル! 寝るならちゃんと宿で寝ろよ! テュテュが留守番してる筈だから顔パスだ!」
「はーい!」
やけにハルの元気な返事が耳に残った。




