FAW探検! ワクワク旅行記 ~争いは突然に~
少年は身体を更に丸め込み、垂直、Z軸を中心に回転。布団代わりの布を弾きながら首と両手の三点倒立の姿勢へ移行し、空に投げ出した足で周囲を薙いだ。
俺はキリキリの左腕を思い切り引き、倒れる衝撃など厭わずに倒れ込む。だが、キリキリの体幹が強く、数歩後ろにずらすだけだった。しかし、初撃を躱すには十分。キリキリの胸板前線、数ミリ前を少年の足が通り過ぎる。
少年は回転の勢いそのままに頭跳ね飛び、空中で身体を半回転分捻らせて着地して、少し驚いた表情を見せる。さっきは布に隠れていた服装がよく見える。
「すごいね、おにーさん! 奇襲失敗したの初めて!」
「……そりゃあ残念だったな」
「うん! すっごく残念! 寝たふり完璧だったと思うんだけどなー!」
「助かったぜ、イチロウ。俺には寝てるようにしか見えなかった」
俺にだって寝ているようにしか見えていなかった。『危機回避』とソフィアのモニターがなければ二人とも蹴り飛ばされていた。
こいつ、あの天使の寝顔からは考えられない程戦闘狂、瞳孔が縮みに縮んで三白眼になっている。こういう奴とやる時は、冷静にいることが対策方法。そうでなければ、ペースをとられる相手だ。
「おにーさん、すごい弱そうなのにやるね!」
「てめえ煽ってんのか、ええ!?」
「精神面は外見通りなんだねおにーさん!」
「確信犯だなおめーよぉ!」
「あはは! 面白いねおにーさん!」
「……冷静にいるんでしょ。落ち着いて」
――はっ。
つい反応してしまった……。ソフィアの静止がなければこのまま殴りかかって返り討ちにあっていただろう。これはソフィアに感謝するしかない。何故だか知らないが、こいつの言葉は非常に不快だ。気を付けなければ。さて、今度こそ冷静に、冷静に……。
「おにーさんかかってこないの? へぇ、大の大人なのに受け専門なんだぁ。女々しいね!」
「いいだろうやってやろうじゃねえか表出ろ!」
「市郎!」
「待て、ソフィア。俺はおいたが過ぎるガキを一人わからせるだけだ。何も言うな!」
「ソフィア?」
「気にすんなキリキリ! 後から説明する! こいよガキ! てめえのとっぽい攻撃なんざ当たんねえよ!」
「ちょ、待てよイチ」「結局受け身なのは変わらないんだね、おにーさん!」
「だあああ!」
ストレス値が臨界点を突破した。俺はキリキリとソフィアの静止を完全に無視して糞ガキへと走り出す。そのかわいい顔面に一撃ぶちこまなきゃ気が済まなくなった。
「あはは! やっっと来てくれた!」
糞ガキはさっきまで寝ていた椅子を蹴り飛ばす。『危機察知』でそれが上半身直撃コースにあるのを確認したので膝を折り、脛を床にくっつける形でスライディング。目の前を蹴りの衝撃で一部破損した椅子が通り過ぎる。
日課にさせられた筋トレで鍛え上げた腹筋で上体を起こし、膝立ちからまた走り出した。糞ガキに目を向けると、――カバー付きの鎌を持っていた。自分よりも大きなそれを軽々と、片手で遊んでいる。
「てんっめぇ! 武器ありは卑怯だろうが!」
「あるもの使って何が悪いの? ほらほら、避けてみてよ、おにー、さんっ!」
右下に向かって斜めの袈裟斬り。『危機察知』で危険区域を特定し、直前でストップして回避。
ガキは直ぐに鎌を反して槍のような突攻撃。切断能力が期待出来ない分、こういうパターンもあるのか。俺は刃のない方に避ける。
またもや鎌を反しながら、持ち手の少し下に持ち直し、俺ごと空気を刈ってくる。俺はしゃがみながら頭の横、肘が後ろに飛び出る様に腕を構えた。鎌を下から弾き、ギリギリで避ける事に成功する。
がら空きになったガキの下腹部正面から、潜り込むように拳をアッパーで突き出す。が、直前で余っていた左手で受け止められた。
「ぼくより大きな腕なのに弱いね、おにーさん!」
「力だけで勝てると思うな!」
右手は振り切った鎌を持ち、右手は俺の拳を掴んでいる。つまりは腕がクロスした状態で、こちらの攻撃の対処が多少しづらくなった筈。俺は足元をしゃがみ状態でのローキックで狙う。きつい姿勢だ。
「もちろん! ぼく別に力が強い方じゃないしね!」
が、空振り。鎌で地面を叩き、先端を支点にして円を描くように飛び上がったのだ。飛び上がった勢いで支点の鎌ごと空に浮き、ガキの回る勢いに乗って回転する。それは俺の顎に直撃するルートになっていた。ギリギリで避ける。
「――っ、はあ、はあ……」
やばい。体力をかなり削られた。
「あれ? 大丈夫、おにーさん? まだやれそう?」
「お前に、心配される程じゃ、ねえよ」
よく考えたら、少し前まで暑さでバテていたのだ。直ぐに疲れが来てもおかしくない。
「……んにゃ。おにーさん、ちゃんと休んでよ。そんな状態でやっても楽しくないし、意味がない」
……こいつ、そういう理性はあるのかよ。
「……ありがとう」
俺は近くの椅子に座り込んだ。ぼろぼろではあるが人の体重を支えられる位の強度はある。
「どーいたしまして。じゃあ代わりに聞いてもいい?」
「何だよ」
「おにーさんの仲間達、『雲隠れ一党』って他に何人いるの?」
「は?」
「誤魔化さないでねおにーさん。これ以上虐めるのも楽しくないから」
「……いや、俺はその『雲隠れ一党』とかいうグループには入ってないぞ」
「え?」
ガキ……少年は本気で驚いたような顔を浮かべる。
「おにーさん嘘、ついてないよね? 言い逃れしてる訳じゃないんだよね?」
「……それは俺が保証する、」
頭を抱えたキリキリが呆れたような、子供を見る目で俺らを見る。
「宿屋のおじさん!? 居たの!?」
「ずっと居たわ! ……そこのアホはイチロウ。お前の探してる奴じゃねえよ」
「え? じゃあなんで襲ってきたの?」
「それはお前が煽ってきたからだよ!」
俺は怒る。
「い、いやいや、僕は正直に感想を言っただけで……」
「何でも正直に言ったら正義じゃないんだよ!」
「正直に生きろって言われたもん!」
「限度ってもんがあるだろ!」
「正直に限界とかないでしょ!?」
「堪忍袋の緒は切れちゃうんだよ!」
「それおにーさんがキレやすいだけじゃ……」
「的確に突かれたら何も言えないだろうが!」
「落ち着け、っての!」
「いたっ!」
男の拳骨を頭頂部に喰らった。煙でも出ているんじゃないかと錯覚する位には痛い。真横まで来ていたキリキリの眉間には幾重にも層が出来ていた。
「……二人とも、ちょっと座れ」
「え、は、はい!」
「俺もう座ってるんだけど」
「地面に座り直せ」
「すいません分かりました」




