FAW探検! ワクワク旅行記 ~宿屋にて②~
雑で無茶な願いだったが、キリキリは懇切丁寧に教えてくれた。大体三分もかからない程度で解析完了。試しに話してみたらしっかり通じていた様で、キリキリは勿論、テュテュまで驚いていた。
「すげえな……俺が馬鹿なのか……?」
「安心してくれ、それは絶対にない。これは俺が反則技ありなだけだから。むしろ努力してるキリキリの方が立派だよ」
「は、はあ。ティピカルってのはすげえな」
「いや、こんな芸当が出来るのはイチロウさんだけっすよ」
「へえ、何処にでも天才って居るんだね」
今まで訳の分からなかったテュテュの言葉も理解出来る。
「キリキリなんて覚えるのに数ヶ月かかったのにね? あんだけ『俺すげえだろ』って自慢してきたのにね?」
「うっさい。どうせ凡人だよ、俺は」
「ごめんごめん、いじけないでよ。余ったご飯あげるからさ」
「……貰う」
「はいはい」
……痴話喧嘩というか、夫婦漫才というか。そんな二人だった。見ていて飽きないが、半分ペットみたいな対処をされているのは少し笑えるポイントだ。
「……にしても、イテウ、この国は随分変わった場所にあるっすよね。永遠に地続きかと思えば、急にここだけ陥没してて」
「ああ、それは自然の神秘って奴のおかげさ。近くにもう活きてない火山、ヘアギ火山があるんだが、これが未だ活火山だった頃、数百年前に大噴火したんだ。俺達が歩いている地面は大体溶岩が固まって出来てるらしいぜ」
「溶岩石……でも、こんな大穴が出来たのは?」
「……何でだっけか?」
「おい」
「毎回説明する度に忘れてるんだよなあ。――テュテュ」
「ん、何?」
「岩空ってどうやって出来たんだっけ? 溶岩でだったか?」
「溶岩もそうだけど、ここに湖があったのが原因だよ」
「ああ、それだそれ。さんきゅー」
「礼よりもうちで沢山買ってくれる方が嬉しいけどなー」
「俺今金欠なんだが……まあ、分かったよ」
「ありがと! やっぱ持つべきは協力的な幼馴染だね!」
「拒否権ないだろ今の」
「そこ、余計な事言わない」
「思った事を言っただけだ」
見た目からは想像も出来ないくらいベッタベタにベタな会話だ。ここまでの関係値にある幼馴染を生で見たのは初めてである。
キリキリはセウにも伝わるようティピカル語で解説する。
「……そのまた昔、ここは今程暑くなかったらしくてな。この街よりも広くて深い、海みたいな湖があったんだ。そこに噴火によって溶岩流が雪崩れ込んだ結果、一度は埋まった湖の気化した水分が中空の空間を作り出した。これがイテウの岩空の生まれなんだと」
「へぇ」
「はあ……面白いっすね」
わざとらしい俺の感心と、心から感銘を受けるセウ。同じようで違う反応の差異は無事スルーされた。
「他に聞きたいことは?」
「あ、そうだ。キリキリ、エヘネメキについて詳しく知ってるか?」
「エヘネメキ様? そりゃ知ってるけど」
「なら、ここら辺にエヘネメキが祀られてる場所とかないか。一回祈っときたいからさ」
祈るかどうかはさておいて、シンミンの右目を持っている俺が近づけば何か干渉してくるかもしれない。神様のサポートが結局は頼れるからな。
「酷い! 私のサポートは無能だって言うのね! 家出してやる!」
誰もそんなことは言っていないのだが。別に今喋れているなもソフィアのおかげであることを棚に上げ、無遠慮な感想を述べた訳ではない。
「ふ、ふん! 分かってるなら、良いんだけどね!」
……あんたおちゃらけてないか。
「え〜? 真面目にやってるわよ? 真面目も真面目、大真面目」
……。
「ちょっと、聞いてる?」
ソフィアに無視を決め込むことにした。
「酷い!」
無視。
「酷い!」
無視。
「惨い!」
無視。
「無語彙!」
無視。
「ノンボキャブラリー!」
無視、できねえ。
「やったー!」
……楽しそうで何より。じゃあ、少し黙ってましょうか。
「はーい」
今度こそソフィアを意識から外し、キリキリの返答を待つ。余裕で聞き逃している可能性もあったが、どうやら発言を渋っていたらしく、首を捻っていた。
「……まあ、無いわけでもないが……」
「何か気になる言い草だな」
「いや、もしかしたら中央の神様――シンミン様だったか。そっちは助けてくれるかも知れないが、こっちは別だ。あんまり手助けしてくれないと思うぞ」
「手助けしてくれない? 本当にか?」
「本当も何も、この場所がこんなことになってるのもエヘネメキ様のせいなんだからな」
「? 一体どういう……」
「さっき言った大噴火があったろ。それをやったのがエヘネメキ様だ」
「……いやいや、神様だからってそれは言いがかりじゃないのか」
「いや、本人が認めたらしい」
「本人が、って……神様の話が聞ける奴が居るのかよ」
「セイクレート王国はそういう血統が王族じゃなかったっけか? なら当然、リザードマンの中にもそういう血統は居る」
――おいおい、前情報と全く違うじゃないか。人助けが好きな神様とは程遠い邪神像だ。むしろ人を、生物を滅ぼしたいと思っているのか。
「あんな神様の話が聞けたところで何もならないから、王族なんて扱いはされてないけどな。ただの特殊能力持ちだ」
「……」
「おかげで西の地方で生きてるのは鱗持ちの俺らか地下住みのドワーフだけだぜ」
ドワーフも居るのか。頭の片隅に置いておく。
「……それでもいい。ちょっと案内してくれるか?」
「お前、物好きだな……。まあ、なら連れてってやるよ」
「ありがとう。セウは来るか?」
「大丈夫っす。俺は二人の看病しときますよ」
「ついでに王様の所にも案内しようと思うが、来なくていいのか?」
キリキリがそう付け足す。大分世話焼きなのだろうと思った。
「その辺りもイチロウさんが居ればなんとかなるんで大丈夫っす」
「そうでもないけどな?」
「でも、ノウハウはあるじゃないすか」
一回こっきりの奴はな。こちとら社会経験をバックアップありきでしてきた人間だぞ? 無理言うな。
「分かった。二人の事は頼む」
「了解っす」
……愚痴を言うよりも行動した方が良いと判断した俺だった。
「テュテュ、ちょっとの間留守番してくれないか。イチロウを教会に連れて行く」
「教会⁉︎ ……留守番はいい、けど、変なのに巻き込まれないでね?」
「今の時点でも変な状況ではあるけどな。分かってる」
「あなたも気をつけてね。キリキリは危険な所好きだから程々に制止してくれると嬉しいな」
「しねーわ! やったとしてもガキん頃の話だ!」
「高い塀の上に登って、降りれなくなって泣いている所を私に見つかった幼少期の話?」
「い、要らんことを言うんじゃねえ! ほら、さっさと行くぞ!」
顔を赤らめていることから図星らしい。少し早足で歩って宿を出た。
「ちょ、おい! あ、後はお願いします!」
俺は駆け足で彼を追いかける。テュテュやセウの返事を待ちはしなかった。




