FAW探検! ワクワク旅行記 ~宿屋にて~
――それにしても、さっきは分からなかったが、最初に遭遇した方のリザードマンは女性だったらしい。宿の店主らしき男性のリザードマンの胸筋と彼女のはまるで違う。生物らしい弾力のある胸とは違い、岩のように固かった。
「ん? 俺の胸がそんなに気になるか?」
「いや、そういう訳じゃない」
「別に見たいなら幾らでも見ていいぜ。男の癖に女の胸より男の胸が気になるなんて、ティピカルは随分器が広いんだな」
「そういう訳じゃないんだって」
ティピカルへの誤解が広まるのだけは勘弁したい。……いや、案外誤解でもないかも知れないが。異世界の一種族の性的指向なんて知ったこっちゃない。
ここで、女性のリザードマンが訝しげな表情にあることに気付いた。
「……ゆぎろおよどあぐで、ぐずろどのどざわざづりねのろおづろゆ」
「どな、ぜをどめをざもぬうご。ばででざづぞあずぢどずあねのどざご」
「めい、もんのら! えをどねげめありをぞゆ!」
「めをぞあどあ。んめうあおあめえをどのぬみっだもっづりゆ」
「はあ……ざおぞおどあろぬ」
何を言っているのかは全く分からないが、なんとなく仲は良いのだろうと思った。
「えーと、何か悪いことでもしちゃったか?」
「ああ、いや、気にしないでくれ。こいつの頭がかっちかちだってをしてただけだよ。全く、頭の固い幼馴染を持つと大変だな」
「幼馴染なのか」
「そうさ。こいつ、顔と身体だけはいい女なんだけどな――でっ」
ティピカル語を解していない筈の彼女に頭を殴られている。女の勘という奴だろうか。
「べよ! どなわざながぞねおががどごあゆ!」
「ろおっぞ! ろおっぞっづ! ……はあ、――あー、あんたらは何をしにここに来たんだ? イテウはティピカルが住むにゃちと厳しい環境だと思うんだが」
「えっと……」
反射で躊躇ってしまったが、正直に話す以外の行為に碌なメリットはないと直ぐに判断した。
「この国の王様に用があるんだよ。俺らは、なんというか、セイクレート王国の使人? みたいなもんでさ。王様に会いに来たんだ」
「……俺の聞き間違いじゃなけりゃ、あんたらは王様に用があって来たってことでいいのか」
「信じられないなら、――えっと、確かこの袋に……」
一応持ってきておいた袋を漁り、巻かれた紙を一つ取り出し、開く。縁に金色の印刷(箔押しの技術は存在しているのかと少し気になった。それとも金を混ぜて塗っただけか?)と仰々しい形式、それにカエズ・フリードレートの署名。これを見せれば大丈夫だと言われていた『フリードレート王国使節証明書』なる紙。
「これで証明になる、らしいんだが……」
「……」
「なってるのか?」
「――あ、ああ。証明にはなると思う」
一瞬瞳孔が開き、見惚れているように注視していたが、直ぐに意識を取り戻して俺の質問に答える。関係者でもない人に見せるのはグッドアクションとは言えないが、助けてくれた以上、素性は明かしておいた方がいい気がした。
「というか、こんなもの見せられたら信じるしかないぜ」
「……これ、そんなすごいもんなのか?」
「まあ、カエズ様の名前が載っているっすからね。王の名前以上に信用の足る名前はないんじゃないっすか」
「……俺の立場で言うのもなんだが、偽造されている可能性は考えられてないのかよ」
「考えてないっす。なんせ、偽造しようにも出来ないっすから。」
「出来ない? どういうことだ?」
「使者なのに知らないのか?」
「あー、ちょっと込み入った事情でな」
俺が経緯を話しかける前にセウが話してくれる。こんなに口が軽かったっけか、俺。
「この金色の部分、もしかしたら普通に見えるかもしれませんが、――そもそも、金色の紙なんて見たことはないですが、ここに個人情報が詰まってるんすよ」
「個人情報っつーと、魔力とかか?」
「察しが良いっすね。ここには国王様の魔力が含まれてます」
俺からは分からないが、魔力にはパーソナルがあるらしく、大体会ったことのある魔力なら見分けられるらしい。名のある人を騙るには、その人物の魔力と違うことがバレてはいけない、という事だ。……それでも方法はあるような気がするが。
「……まあいいや。それで、その王様は何処に」「その前に」
ソフィアが俺の発声を阻害する。
「この人達の言語は習得しときたいわ。殆ど解析は終わってるからもう少し何か喋らせて。出来ればティピカル語とリザードマン語を交互で」
それ、後に回せないのだろうか。今直ぐじゃなくとも、それこそ、セイクレート王国の時のように。
「だって、この流れだと王様の所に連れて行かれそうだもの。リザードマン語、喋れた方が便利でしょ?」
……はあ。
「どうしたんだ、急に?」
「……ちょっと、リザードマン語を教えて欲しくて」
「リザードマン語を? そりゃいいが、――そういえば、リザードマン語を分からずにどうやって王様と話すつもりだったんだ? ……ああ、王様って確かティピカル語を話せたんだったか」
そうなのか。カエズ達がこのフォローを何にも用意していなかったのは王様と話すことに苦はないからだったらしい。だったら、熱中症を避ける策ぐらいくれても良かったんじゃないだろうか。
……それとも、俺達がここに(一応)無事には着くという命の流れが見えていたから、あの神は何も与えなかったのか。
「あー、自慢って訳でもないが、他言語を覚えるって結構難しかったぞ。そんな直ぐに覚えられるとは思えないんだが……」
「安心してくれ。俺はこういうの得意なんだよ」
「……まあ、あんたの仲間ももう少し休ませておいた方が良いとは思うからな。暇潰しがてら、教えるのも悪くないか。やってみよう」
「ありがてえ」
「ああ後、あんたと何度も呼ぶのもあれだし、名前を教えてくれると助かるんだが」
「俺は市郎。浅間市郎だ」
「そっちは?」
「セウっす」
「寝かせてもらってる小さい方がカイヤ・ミシュール、もう一人がアマだ。全員使者としてここに来た」
「……アマとセウか。セウ、会えて光栄だ」
「? あざっす?」
セウはわざわざ挨拶されたことに違和感を感じつつもそれとなく返した。
「そんじゃ、こっちも名乗っておくぜ。俺はキリキリ。宿屋をやってる。イチロウ達を連れてきたのがテュテュ。いつもは向かいの店で看板娘やってるよ」
「どな?」
自分の名前が含まれていたことに反応したのだろう。テュテュがキリキリに向かう。
「あー、どぼうえざうづぞをぞ」
「へえ……じあびをどおゆぎどっぞをぞ」
「おめど」
一通り何かテュテュと会話すると、キリキリはこっちに向き直る。
「……じゃあ、簡単な挨拶からでも教えるか」




