97. ガリア帰還
ゼノーデン平原の戦いの後、ベアダイン軍の退却を見届けるために、ハルバルト率いるテリクス軍、ギルファング率いるガリア軍、セルンド率いるデルハルト軍がガリアに向け、南下していた。
城塞都市ガリアの手前にある草原で連合軍は夜営のための陣を張る。
夜、翌日の計画を話すために指揮官たちが本陣に集まってきた。
「セルンド殿、ちょっとこの皮鎧と皮の帽子を着けてもらえませんか?」
「?? ハルバルト殿、皮鎧ですか? はぁ、」
銀ピカで装飾の施された立派なプレートメイルとヘルムを被ったデルハルト軍指揮官のセルンドは、訝しげに応えながらも、傷のついたボロボロの皮鎧に着替える。
「おお! お似合いですぞ!」
(…ハルバルト殿はからかってらっしゃるのか? 何のために? わからん、、 それにしてもこの皮鎧、ボロボロだがよく手入れされている。 パーツで渡された時はわからなかったが、何処かで見たような色と風格だな、、)
トモナリがやって来てニコニコしながらセルンドの隣に立つ。
「トモナリ殿、そんなに可笑しいか? この格好、、」
「ううん、なんか嬉しくって! だってその鎧、おじちゃんのだもん!
ツェルペの南の草原でクロトに襲われていた僕たちを助けに来てくれた時のやつだよ!
セルンドさん、似合ってるよ!」
「!! 何処かで見たことあると思ったら団長の! それもパトナ侵攻時のものですか!
ハルバルト殿!! よろしいのですか?!」
「ああ、それ、団長の予備の鎧ですよ。
団長、すぐ鎧がボロボロになるので、予備をいくつか持って歩いているのですよ。
セルンド殿、背格好が団長に似てるので、団長のふりしていてください。
トモナリが隣にいれば、ますますそれらしく見えるでしょう。」
「は、はい!」
「斥候から戻ったぜ、今んとこ異常はねェ、んん?? 団長?!」
本陣の天幕の中に入ってきたギルファングが驚く。
「な、後姿や雰囲気は結構似てるだろう?」
ニヤリと笑うハルバルト。
「あ、ああ、セルンド殿か、、影武者をセルンド殿にしてもらうのか、
だけど良いのか?」
「問題ない、行くぞ、トモナリ!」
「オウ!!」
意気揚々とデルハルトの陣に戻るセルンドとトモナリ。
「団長のマネまでしてノリノリじゃネーか、あの鎧渡して、本当に良かったのか? なんか嫌な予感するんだが……」
「いいって、いいって、セルンド殿もトモナリもやる気十分じゃないか。
目立つトモナリの横に団長の影武者がいれば、最強のコンビを前に敵もバカな気を起こさないだろう、
はっはっは!」
ギルファングの心配を他所に高笑いするハルバルト、、
翌朝、、
キィィィイイイイン!
伝令役のためのヒナコが降り立つ。
「ハルバルトさん、おはよう☆ ダーリンが様子見て来いって!」
「ヒナコ様、おはようございます! ありがとうございます、
今のところ、ベアダイン軍は順調に退却しており、小規模な衝突もありません。」
「うん、わかった☆ ギルファングさんがガリアに入城するまで見届けるね☆
ダーリンが見守ってやってくれって、今日はよろしく☆」
「団長が、、、ありがてェ、、団長、、ヒナコさん、、クゥ、、」
ギルファングの目が潤む。
「ほらほら、うつむかないで! 『胸張ってガリアへ入れ!』ってダーリンからの伝言☆」
「団長ォ、、俺なんかのために、いつも、、」
上を向きながらもギルファングの目から涙がこぼれる。
「さぁ! 行こうか☆ 仇討ちを果たしたギルファングさんの凱旋だよ!
ちなみに王都の方は、ダーリンが真っ先に駆けつけて、雷まき散らしてオラオラ言いながら、1人で1万人ぶっ飛ばして勝ったよ☆」
「あ、相変わらず無茶苦茶な強さだな、団長、テレシア騎士団が壊滅した『テリクスの悪夢』の再来か、、」
「ああ、すげェな、団長、、」
と、そこへ
「みんな、おはよーー!」
トモナリとセルンドが現れた。
「ん! ヒナコ、おはよう!」
ヤマナの鎧を着たまま、ヒナコに対してヤマナ流に気やすく挨拶するセルンド、
瞬間、、
ドゴン!
「……誰の真似してんの★ ねぇ★ ぶっ飛ばすよ★ ねぇ★」
もうすでにぶっ飛ばしてから、倒れたセルンドの胸ぐらを掴んで凄むヒナコ、
素の状態では、ヤマナの5倍の戦闘力を持つヒナコが発する殺気に、歴戦の兵士たちが一瞬で凍り付く!!
「あ、あわ、あわわわ、、」
殺気をまともに浴びて、ガクガクブルブル震える可哀そうなセルンド、
ヤマナ曰く、『最強の戦士 ヒナコ』
だが今まで誰もこの小さく可愛らしい女性が戦っているところは見たことがなく、半信半疑どころか、信じているものはいなかった。
「ヒ、ヒナコ様、待ってください、これは私の指示で、、」
(おおお! ハルバルド隊長! 流石っす!! ガンガレ!!)
兵士達が心の中で応援する。
「ん★ そっか、 で★ これは★ 何の★ 誰の★ 真似?」
セルンドの胸ぐらを掴んだまま引きずってハルバルドに詰め寄るヒナコ、
流石のハルバルドも冷や汗を流しながら後ずさる、
(うわぁ、、また殺気が上がったよ、、ガチの戦闘で団長を一方的にボコった唯一の人って話、本当なんだ、、)
「おじちゃんの真似だよ、影武者だって。おじちゃんの不在がばれると敵が反転してくるかもしれないからさ、遊んでいるわけじゃないから放してあげてよ。」
ヒナコの殺気に唯一平気な顔のトモナリが答える。
(おおおー、さすがトモナリ様!!)
「……そっか、お仕事でやってるのね☆ 了~解☆ ごめんね、セルンドさん。」
セルンドを掴んでいた手を放すと、殺気もパッと消えた。
「「「ふうぅ~~」」」
気が張り詰めていた状態から解放され、周りの兵士たちがへたり込む、、
セルンドにいたってはそのまま気絶した。
「…俺の悪いカンって、当たるんだよなァ、、」
「…それを先に言え、ギルファング、、、久しぶりに死ぬかと思ったぞ、、殺気で殺されるとかシャレにならん、、」
ハルバルトがぼやく。
その日の昼、連合軍は城と町の半分を火炎竜に焼かれ、敵に落とされて荒れ果てたガリアに到着した。
ベアダイン軍は完全に撤退し、一兵も残っていない。
「さ、ここからはギルファングさんたちだけでね。『ただいま』って言っておいで☆」
「ありがとう、、ヒナコさん、」
「では、デルハルト軍は周辺警戒、俺は国境まで敵の退却を見届けてくる。」
ハルバルトが指揮を出す。
ギルファングは、ガリア兵を連れて、城門から入っていった。
住民たちはまだ避難しているのか、城塞都市の中は、閑散としていた。
ガリア城の前に行くと、獣人の子供達が2、3人、走り回って遊んでいた。
その手元には大きなウロコのような金属片を持っている。
「兄貴、、」
ギルファングの頬を涙が伝う。
涙をぬぐって子供たちに話しかけるギルファング。
「なあ、、ボウズたち、、その金属の板、譲ってくれないか?」
「ええ?、、やだよ、」
断られて、困った顔をするギルファング、
「これ! あんたたち! 何いたずらしてんのさ!」
「ええ~、お母さん、僕たち別に何もしてないよぉ、奇麗な板拾ったんだけど、このおじさんがくれって言って、、」
「ギルファング様!!!」
「あ、ああ、、すまない、」
「何を謝られますか、この度は見事お館様の仇を討ち取られ、ガリアを解放してくださり、誠に、誠にありがとうございます!」
「いや、、俺は、、ガリアから逃げて、、仇討てたのも団長のおぜん立てで、、」
「「「ギルファング様!!!」」」
ボロボロの鎧を付けた年配の獣人たち数十人が走り寄ってきて、ギルファングの前に膝をつく。
「見事、見事お館様の仇を取られたと聞きました!!」
「あ、ああ、、」
「流石でございます! ギルファング様! ぜひとも次のお館様に!!」
「あ、、いや悪いが、次の領主は陛下がこれからお決めに、、」
「我らは、ギルファング様以外をお館様とすることは考えられませぬ!」
「……すまない、気持ちは嬉しいが、今は少しだけ兄貴の事を考えさせてくれ、、その後で話を聞こう、、」
「ギルさま、、これ、、」
子供がギルファングに金属板を渡す。
ギルファングが煤がついて汚れた板をこすると、下から白銀に青い装飾が入った模様が現れた。
「兄貴、、、」
「!! まさかお館様の! おい、ボウズ、どこでこれを見つけた!」
顔に大きな傷のある、隻眼の老兵士が詰め寄る。泣きそうになる子供。
ギルファングは老兵士の前に手を出して止め、
「ボウズ、ありがとう。俺にも一緒に探させてくれないか? これ、どこに落ちていたんだい?」
「う、うん あっちの城壁にくっついた塔の陰のところに、、こっちだよ。」
子供が小さな手でギルファングの大きな手を取り、案内する。
「我らも探すぞ!」「「「オウ!!」」」
数十人の獣人の兵士たちが、草むらの中を、崩れた城壁の間を、必死に探す。
「あったぞ! お館様ぁ、、、」
「こっちもだ! 肩当があった!」
涙を流しながらガルファングの鎧の破片を探すギルファングと兵士達。
やがて夕日で空が赤くなり始めたころ、
「ありがとう、みんな、今日はここまでにしようか! さあ、陣へ行って食事をとろう!
明日からは、ガリア復興に向けて立ち上がろう!」
「「「はい! お館様!!」」」
「ダーリン☆ ギルファングさんは大丈夫だよ、ダーリンが心配するよりずっと強かったよ。」
城壁の上からずっと見守っていたヒナコが、夕日に照らされながらつぶやいた。




