96. 入り江の夜戦
※文中に残酷な表現が入っています、ご注意ください。
まもなく夕方だ、ベアダイン軍は全軍が船に乗り、深い入り江の真ん中に停泊していた。
この辺りは岩礁も多いためか、暗くなってから沖に出ようとする気配はない。
ゼノラウト軍とヒューレ軍は、漁村からベアダイン軍を追い払った俺たちの部隊を除き、林の中で姿を隠している。
大軍を見せるとまた逃げ出されるからだ。
「おっかぁ!!」
10代後半ぐらいのモリを持った青年が走ってきた。
肌は浅黒く、細く締まった体、海の男といった感じの青年だ、今まで漁に出ていたのだろう。
青年は、漁村まで来ると、丸太が乱雑に積まれたガレキ、いや、壊されて崩れた小屋に走っていった!
「!!」
俺は急いで青年のもとへ走り寄る!
「おっかぁ!、おっかぁ!!! ぬぐっ、ううーーん、、」
青年は悲鳴のような声で母を呼び、丸太を必死にどかそうとする。
「この下か?!」
「ああ! おっかぁは病気なんだ!! うちにいるはずなんだ!!」
「ぬうん!!!」
俺は下に負荷をかけないように、丸太を一本ずつ掴んでどかす。
「う、うう、、」
「おっかぁ!!」
「衛生兵!! こっちだ!!」
崩れた家から青年の母親を何とか救い出し、衛生兵に見せる。
「ごほっ、 ごほっこほ、、、」
母親のセキに血が混じっている、、丸太に挟まれ、内臓をやられたのかもしれない。
母親の様子を見ていた衛生兵が、救いを求めるように俺を見る。
「くっ、『ヒール!』」
青年に抱きかかえられた母親に、ヒールをかける、、
だめだ、、少しは楽になったみたいだが、ヒールが効果を発揮せず、まるで砂場に流した水のように体から抜け落ちていくのがわかる。
「ごほっ、はぁはぁ、」
「おっかぁ!」
「ごほっこほ、、 どなた、さま、ですか?
助けて出してくださり、 ありがとうございます、、
おかげで最期に、 息子と、、 話すことができます、、」
「おっかぁ、、」
「フミオ ゼン ヤマナです、、来るのが遅くなり、、申し訳ない、、」
「!!
ああ、ヤマナ様、、
こんな、 辺ぴな所まで、、 私たちを助けに来て、下さるとは、、
ありがとう、、ございます、、」
「……俺なんかへの礼はいい、それより息子さんと、、」
「はい、、、、、
ナギ、、
今までありがとう、 病気の私を、、
ずっと看病してくれて、、」
「おっかぁ! いやだ! おっかあ!!」
「ナギ、、
ナギ、、
ああ、私の、ナ、、
ギ、、」
「おっかぁ!
うわぁぁああああ!!!」
母親を抱きかかえ、手を握ったまま号泣する青年、、
アユミ、シェリー、ルルもポロポロ泣いていた。
レオルは、、ぐっと我慢した顔をしている、
「二人にしてやろう、、俺たちは、俺たちにできることをやろう。
ベアダイン軍を止めるんだ!」
「「「はい!!」」」
涙をぬぐって答えるアユミたち。
「……それで、まずはフミオさまがこちらから、、で、ケビンさんの隊20名にレオル、ルル、シェリーは入り江の反対側の、、、」
俺たちは敵の船に夜襲をかけるべく、作戦を練っていた。
「船はこの村の漁船を借りるとして、問題は漕ぎ手ですね、、
皆さん、船を漕いだ経験は?」
「いや、帝都は大陸の真ん中で、、」
「それがしもガルストの内陸の育ちで、、」
「テリクス湖で手漕ぎボートなら、、波のある海は初めてでして、、」
「うーーん、俺もボートはほとんど乗ったことがないし。」
「俺たちを使ってくれ!!」
漁村の者たち数十人だ、ナギもいる。
「あいつらやっつけるんなら、手伝わせてくれ!
船を漕ぐのなら毎日やっている!
それにここの海のことなら、何でもわかってるんだ!
たとえば、あと2時間もすれば、あのでかい船は動けなくなるとか!」
「!! 潮が引くのか?」
「ああ! この入り江はとくに引きが激しいんだ。今日は夜になると、あの辺は肩ほどの深さしかなくなる!」
おどろいた、この世界にも潮の満ち引きがあるのか。
「よし、漕ぎ手の人数と、潮によってこの入り江がどうなるかを教えてくれ、作戦をもう少し練ろう。」
「ああ!」
1時間後、、
「なぁ、ナギ、、」
俺はナギの船に乗ろうとしていた。
ナギの船は笹の葉のようにすらっと細く長い船だ。
俺の漕ぎ手には、ナギが手をあげてくれた。
「なんだ、ヤマナ様。」
「……その、、すまん、王都でベアダイン軍に逃げられた、それでこの村が襲われることになった。」
「……あんたを恨めるわけないだろ、、恨むべきはベアダインだってことぐらい、みんな分かっているよ、、」
「そうか、、」
「おっかぁの仇、、、取ってくれよな、、」
「ああ、任せろ。」
俺とナギは二人だけで漁村から漕ぎだす。
入り江の中で、音もなくスーーーっとベアダイン軍の中型船が密集しているところへ進んでいくナギの船、見事な操船技術だ。
やがて敵の船のところまでたどり着くと、、
俺は敵の中型船に飛び乗り、そこにいた兵士を即座に切って捨てる! そして、
『稲妻ぁぁ!!!』
ゴッ ガガガガガァアアアン!!!
特大の稲妻を5本、周りの船に降らせた!
炎上する周りの中型船、俺は自分の乗った船の敵兵も掃討すると、船の錨の鎖を斬り、
「ナギ!!」
「あいよぉ!!」
ナギの船で今乗っている船を押させる!
船はゆっくりと密集した敵の船団の中心へ進んでいき、
ゴンッ!
他の船と接触する!
「オォォォオオオ!!」
俺は船から船へと乗り移り、雷を放ち、フィオナを煌めかせて暴れまわった。
ヤマナの反対側、入り江の出口の方から、一隻の大型船に向かって、数艘の漁船が音もなく進んでいた。 敵兵の警戒は陸側の方で派手に雷を出して暴れているヤマナのほうに向いている。
ヒュッ
大型船にとりついた船から、シェリーが細いロープの付いた弓を放つ。
「よし、、じゃあ行ってくる。」
レオルが、シェリーの張った細いロープと、手足の爪を使って船の外板をよじのぼる。
そして上までたどり着き、細いロープをシュルシュルと引くと、その先端には縄梯子が結んであり、それをその辺の出っ張りにひっかけた。警戒しながら下に向かってハンドサインを送ると、ケビンが率いるヤマナの弟子達がわらわらと縄梯子を登る。
「よし、すぐ制圧するぞ!」
ケビン達はさっと広がり、一気に甲板上の敵を一掃する!
「!!」「ぎゃ!」「ぐっ!」
味方へ敵襲を伝える間もなく倒れるベアダイン兵達。
「よし! 中も制圧するぞ! 急げ!」
ケビン達は船内に入っていき、
「非戦闘員は縛っておけ! 抵抗するなら斬れ!」
「「はっ!!」」
ものの数分で大型船を制圧した。
「さて、、お芝居の時間だ、、よし、ゼノラウト兵たちは、はぎとった敵の鎧を付けろ!」
「「ははっ!!」」
そして、ケビン達10名と、ベアダインの鎧を付けたゼノラウト兵30名が甲板にでると、
「よし、始めるぞ ウオォォォオオオオ!」
「オオオオォォオオ!!」「オリャァァアア!」
「しねぇええ!」「グワァァアアア!」
ガギン! ギン!! ガギン! ッガギ!
派手に立ち回りを始めた!!
「おい! 見ろ! 『ベアダン』の上で戦闘が始まっているぞ!!」
「本当だ! おい! この『ベアジン』を寄せろ! 乗り込んだ敵はそれほど多くなさそうだ! 加勢するぞ!!」
「「ははっ!!」」
「おい! 『ベアダン』が襲われているぞ! 『ベアジン』が加勢にいったぞ! この『ベアデン』も寄せろ!!」
「「はは!!」」
2隻の大型船がケビン達の乗った大型船をはさむように横付けする!
「おい! 固定しろ!!」
2隻の船がロープを投げ入れる!
「助かった! ありがとう!」
と言って投げ込まれたロープを船に固定するベアダイン兵に扮したゼノラウト兵。
3隻がしっかり固定されると、左右の船からベアダイン兵が乗り込んでくる!!
迎え撃つケビン達、そこに船内に隠れていたヤマナの弟子をはじめとした精鋭たちが躍り出てくる!!
レオルとルルがコンビネーションで敵を倒していく!
シェリーがマストの上から弓で狙い撃つ!
ヤマナの弟子たちが敵兵を次々に討ち果たす!
「つ、強い! なんだコイツ等!!」
強いのも当然、ヤマナがいつも鍛えている連中だ!
それに加え、敵陣に乗り込んだ時点で、アユミの『歩成金』で強化されている。
手も足も出ず制圧されるベアダイン兵達。
さらに続々とゼノラウト兵達も乗り込んできて船内を制圧していく。
「こ、降伏する、、」
こうして大型船3隻はゼノラウトの手に落ちた。
「うおらぁぁああ!!!」
俺は中型船を飛び移りながら、敵の船団の中で戦っていた。
どうやら大型船3隻の制圧には成功したようだ。
俺の近くには、別の大型船が近づいて来た。一番でかいやつだ。
「弓隊! 放て!!!」
ザァァァアアアアアアア!!
大型船の甲板から、雨のように矢が降ってくる!
味方ごと討つ気か!!
矢ぐらい、龍王の気で身体強化し、弾いてもいいが、、
試してみるか、、
緩やかに『無形の位』で立ち集中、、
自分の周りを、流れる透明な気で包む。
空間を埋め尽くした矢が、ぬるり、ぬるりと俺をよけていく、、
「ぎゃぁぁあああ!」「うあぁあぁああ!」
俺の周りで、全身に矢を受け、針鼠のようになりながら苦しむベアダイン兵達、だが俺には一本たりとも当たっていない。
「!! あれだけの量の矢が! 一本も当たっていないだと! 奴は、、神か悪魔か!」
ゴッ!
大型船が揺れた。
潮が引き、船底が当たったようだ。
「ヤマナ様!!」
ナギだ。
「おい、ここは危ないぞ、おまえは引き返せ。」
「おれに、おれにヤマナ様を、あのでっけえ船まで運ばせて下さい!」
「……頼めるか?」
「はいっ!!」
俺はナギの船に乗り、仁王立ちする。
「いいか、俺の体の影からはみ出るなよ。」
「はいっ! ヤマナ様!」
大型船からは次々に矢が飛んでくる、がすべて、ぬるり、ぬるりと俺をさけて飛んでいく。
ナギは俺の影に隠れて櫓を漕ぐ!
敵船の真横まで来た!!
ザザン!!
敵船の腹を斬り、ひし形の穴を空ける!
「おまえはすぐ隠れろ。」
「はいっ!」
ナギに隠れるよう指示し、船内に乗り込む!!
一気に階段を駆け上がり、甲板に出た!
「かかれ! かかれぇ!」
指揮官が船の後部の一段高い艦橋から、必死になって命令を出す!
「おおお!! 『龍王雷撃破ァア!!』」
足元の甲板を、左拳で打ち、艦内に雷撃を放つ!!
ゴッバァァアアアアアアアン!!
雷龍は船内で暴れ、あちこちから船体を食い破る!
ギィィイイイイイイィィ
大きく破損した船体が傾き始めた。
「ひぃっ! し、沈む!」「に、逃げろお!」「退艦! 退艦!!」
船から逃げ出すベアダイン兵達。
「ば、ばかな! 何たる不条理!!!
単騎にこの『グレートベアダイン』が沈められる事など、、あってたまるものか!!」
勲章をジャラジャラ胸に下げた艦隊指揮官が叫ぶ。
「……不条理?
無辜の民がテメェらに殺される事以上の不条理があってたまるかあ!!!
こんな船、ぶっ潰してやる!!
うぉぉぉおおおお!!!」
ゴッ!!!!!
全力の横一文字を放つ!
艦隊指揮官は、吹き飛ばされバラバラになった艦橋と共に、暗い海へと飛んで行った。
「おっかぁ、、、
ヤマナ様が仇を取ってくれたよ、、
なあ、
おっかぁ、俺が戦いに行こうとすると心底嫌がって止めたけど、、
ヤマナ様ならついていってもいいよな?
なぁ、おっかぁ、、」
空を見上げるナギの頬には、いつまでもいつまでも涙が流れ続けていた。




