95. 海
王都を襲ったベアダイン軍を撃退した翌日、午前中は軍の編成と、ここまで強行軍をしてきた兵達の休息に当てていた。
東の海岸方面へは斥候を出してある。ヒナコにはガリアの様子を見に行ってもらった。
昼食を食べ、兵の英気も養えたころ、
「伝令! 敵軍は海岸まで引いたようです! 軍船と合流し、迎え撃つつもりかと!」
「よし! 全軍、進め!」
ゼノラウト軍、ヒューレ軍は王都より東へ向かう。
夕方には海が見える丘にたどり付ける算段だ。
「海が見えたぞーー!」
先頭の部隊で誰かが叫ぶ。
「うみ! みたい!」
ルルが興奮した様子で話す。
「ルルは初めてか? 海を見るのは。」
「うん!」
「そうか、よし、ルルこっちへ来い!!」
ルルは乗せてもらっていた親衛隊の馬の上から、俺の懐にぴょんと飛び移ってきた。
「ハッ!!」
馬に鞭を入れ、丘の上へと駆けあがる。
「わあーー!」「うみだー!!」
俺の前のルルと、背中のアユミが声を上げる。
俺もこの世界に来て初めて海を見た、水平線の向こうまでつづく海、あっちの世界と同じだ。
2キロほど先の入り江には、漁村らしきものが見えたが、数日前に焼かれてしまったようだ、、
ベアダイン軍は海に近いところに陣を張り、また、その近くには5隻の大型船と、無数の中型船があった。
「大型船5隻は聞いていたが、それよりもすごい数の船だな、、これで1万人の人員を運んだのか、、」
海に逃げられれば、手も足も出ないな、、さてどうするか、、
ゼノラウト軍とヒューレ軍はその夜、丘の上に陣取ることにする。
たとえ攻められても、こちらが高所を取った形になるように、だ。
翌朝、水平線から朝日が昇るころ、、
「しまった!!」
海を見て俺は自分の失敗に気が付いた。
敵はそのほとんどが船に乗り、移動を開始しようとしている!!
「ちい! こちらの軍が迫っていることを知り、上陸地点を変えるつもりか! どっちだ? 北か、南か?」
「フミオさま!!」
「アユミ! 敵がどちらへ行くかわかるか?」
「少し待ってください! 『盤面掌握!!』」
「…………」
アユミが敵の動向を探る。
「見つけました! 一人だけ戦闘力が高い敵! 『一枚乃栞!!』」
アユミが左手の栞を投げて敵の召喚戦士のマーキングをする!
「今は入り江から沖に出ようとしているため、北か南かは、わかりません。ですが沖に出て方向を変えればわかります!
フミオさま、足の遅い歩兵部隊や工作部隊を二手に分け、南北へ移動を開始させてください!
足の速い騎兵部隊は待機! 方向が分かれば騎兵はすべてそちらへ向けます!」
「わかった! さすがだアユミ!!
よし、ゼノラウトの歩兵隊、工兵隊は南へ、
ヒューレの歩兵隊、工兵隊は北へ向かえ!
騎兵隊はこの場に待機!!」
「「「ははっ!!!」」」
約1時間後、、
「…………うごいた、北? 間違いない、北です! 今風を受けてぐんぐん北へ向かっています!」
「よし! 北へ向かうぞ!
ドット! お前の部隊は南へ向かったゼノラウト軍の歩兵部隊のところへ行き、北へ転進させろ!!」
「了解しました! 団長!!」
そのころ、海上ではひと際立派な船の上で、
「ひゃっはぁ! さあ次の町へ行って奪うぜェ! 海賊たのしー!!」
「……ナミヒラ殿、、我々は規律あるベアダイン海軍、海賊ではない、、」
「なーに言ってんの、結局村を焼き討ちして、食料奪って、なんか違うのかぁ?」
「……これも大陸を王制から解放するための、、」
「バァーーーッかじゃねぇのぉ? 理屈つけりゃいいってもんじゃないでしょ。殺されたモンにとっちゃあ、主義や理屈なんてどぉーーっでもいいわけよ。なぁ!」
「くっ、、」
「まあ同じことやんなら、楽しまなきゃねーー、ふんふーん、シャッシャー、」
ツバを大きく上に曲げた帽子をかぶったドレッドヘアーの男、ナミヒラは鼻歌まじりで楽しそうに、曲刀を棒状の砥石で磨いていた。
「…………」
「どうした? アユミ?」
背中にしがみついているアユミから怒りのようなものを感じ、声をかけてみた。
「この敵、、、村を襲うことを楽しんでいます、、」
「わかるのか?」
「はい、、『一枚乃栞』が伝えてくれます、、
フミオさまに比べたらゴミみたいな戦闘力のくせに、、 民間人相手の略奪時には強くなるスキルを持ったクズヤローです、、」
「……アユミ、、すまん、ゴミとかクズとか、俺の口調はマネしなくて良いから。」
「はっ、、す、すみません!」
うーーん、どうやら俺の言動は子供の教育に大変よろしくないらしい、、、
「フミオさま! 敵が陸側へ進路を変えました!」
「そうか! 間に合いそうか?」
「土地を読みます! 『盤面把握!!』」
アユミが盤面把握で、海岸方面の地形を読む!
「……距離は遠くないのですが、、道が!!
ここから漁村までは急な坂になっていて、馬でまっすぐはいけません! 大きく北へ迂回しないと!」
「動物はいるか?」
「鹿が何匹か、ウサギなどもいます。」
「じゃあ行ける! いくぞ!!」
「「「オオォーー!!」」」
そのころ、海岸ではベアダイン軍が数百人規模で上陸し、漁村を襲っていた。
「ひぃぃーおたすけー!」「うわぁぁあ!」
「はやく! はやく逃げなさい! あんたたち!!」「おっかぁ!!」
「ギャハハハハ! ほーらほら! やっちまうぞぉ!」
「畜生! このやろう!」
「ん? ふんっ!」
バシュ!!
漁船の櫂で殴り掛かった漁師がナミヒラの曲刀に斬られる。
「はっはっはー、海賊はやめれんなぁ! ん?」
ドガガッ ドガガッ ドガガッ!
「どこだ?」
左右を見回すナミヒラ、
「??」
『歩 成 金!!』
頭上から女の子の叫び声がした!!
「「「「ヴォォォォオオオオ!!!」」」」
ヤマナ率いる騎馬隊の面々が、金色の光をまとって崖の上から現れ、ベアダイン軍の頭上から襲い掛かる!!
『稲妻ぁ!!』
ドバァン!
今にも子供に斬りかかろうとしていたベアダイン兵を、シェリーが雷の矢で撃つ!
女性を蹴倒し、乱暴しようとしていたベアダイン兵の喉を、踊るように走るルルの刃が切り裂く!
『ヴォォオオウ!!!』
レオルが獅子の咆哮をあげると、ベアダインの部隊が全員硬直した!
ヤマナの騎馬隊が、あっけにとられているベアダイン軍を蹂躙していく!
「ひぇぇぇえ、なんで? なんで? どっから出てきたわけ? 崖降りてきた?」
「ああ、そうだよ。」
「!!!」
俺の答えに凍り付く海賊もどき。
「義経かっ!」
海賊もどきがツッコミを入れる。
「まあな、『一の谷の合戦』真似してみた。」
「!! 日本史、知っているってことは、、
あのーーー、ヤマナさんですか?」
目じりを思いっきり下げて、だらだら汗を流しながら揉み手すり手で聞いてくる海賊もどき。
「アタリだ、おめでとう、ご褒美は雷撃と斬撃、どっちがいい?」
「こりゃまた御見それしました! よっ、さすが大陸一の戦士! ぜひともこのナミヒラめを戦列の端に加えていただ、、、、へ?」
俺は馬を降り、近くにあった10mほどの長さの船の先端を握り、船を気でコーティングして垂直に持ち上げた。
今の俺はアユミの『飛成龍王』で既に強化済だ。
「ちょ、ちょ、おやめになって! あ、ちょっと!」
「正解のご褒美だ。」
ブンッ! ベシャ!!!
フライパンで潰される虫のように、海賊もどきは船の下で平らになった。
「あ、栞が外れました、害虫退治完了です。」
アユミ、、、恐ろしい子、、
「なあ、アユミ、どうにかしてあの大型船、落とせないか?」
「そうですねえ、、フミオさまなら横に大穴空けることができるんじゃ?」
「うーん、横一文字じゃ難しいな、相当近づかないと。」
「船の上、、弓兵がいますねぇ、、厄介です。」
「そうかぁ、いいなぁ船、、、アユミとクルージング、、」
ボソッと呟いてみる。
「!!! 何か考えます!!」
長考に入るアユミ、 俺って悪い人だよなぁ、やっぱり、、




