93. ヒナコの帰還
「さあ! 遠慮せず食え! 好きなだけ食っていいぞ!」
パン、野菜、果物、干し肉やチーズの乗った荷車を前に、戸惑うベアダインの少年兵達。つばをゴクリと飲む音があちこちから聞こえる。
「ああ、こいつら、いつも渡された、硬いパンを一つしか食べる事しか許可されてないから、戸惑っているんだ。好きなものを好きなだけ食っていいビュッフェ形式なんか、生まれて初めてだろうな。」
変身を解いて、ボサボサ頭のソウジが頭をボリボリかきながら言う。
「そうか、わかった。」
俺はパンを一つ取り、ナイフで切れ目を入れ、野菜と肉、チーズを挟んで、一番小さな子に渡してやる。
「ほら、」
「あ、ありがとうございます、、」
ガブリ、
「あ、、」
子供は大きく目を見開き、ポロポロ涙をこぼしながら、懸命に食べ始めた。
「うまいか? 良かったな。
糧食班! パンに切れ目を入れて、たくさん具を挟んでこの子達に渡してやれ!」
「「「ははっ!!」」」
少年兵達が列を作って、サンドイッチを受け取る。
「何回並んでもいいからな、お代わりしろよ!」
「「「はい!」」」
よし、怖いおじさんのイメージは少しは薄れたかな?
俺はソウジとサンドイッチを食べながら話す。
「紹介したい奴らがいる。おう、お前らちょっと来い、ケビンもだ。」
「「「はい!」」」
「この子はアユミ、召喚戦士だ。俺と同じくすっぴんで召喚されている。」
「アユミです、よろしくお願いします。」
アユミが丁寧にお辞儀をする。
「そうか、俺はソウジだ、よろしくアユミ、きみのお辞儀をみると、生徒達を思い出すよ。」
「先生だったのですか?!」
「ああ、中学校のね。」
「私は、、入院してから学校に通えなかったから、、よろしくお願いします!!」
「ああ、採用試験に受かれば、テリクスの学校の先生になれるからな。頑張るよ。」
「はい!」
「で、こちらが、獅子獣人の兄妹レオルとルル、そしてエルフのシェリー、三人とも孤児で俺が引き取った。武術の弟子にしたのはいいのだが、戦場に押しかけて来やがった。
緑色の戦士と戦ったのはこいつらだ。」
心なしかレオル達の顔が硬い。怒られると思っているのか?
「そうか、ヘイスケと戦ったのか。あいつの最期を聞かせてくれないか?」
「は、はい! 『悔いはない』と、『クソみたいな国でクソみたいな仕事してたが、最期にお前たちと戦えてよかった』と言ってこれを俺にくれました。」
そう言ってガンホーナイフを見せる。
「そうか、、あいつは満足して逝ったか。あいつは暗殺の仕事を本当に嫌がっていたんだ。いつも酒を飲みながら愚痴をこぼしていたよ。仕事中は切り替えていたみたいだがな、、
そのナイフ、ヘイスケの魂で出来ているんだ、大事にしてやってくれ。」
「はい!」
「で、こちらが帝国の親衛隊長で、今は俺のところで修行中のケビン、俺の一番弟子だ。」
「ソウジ様、ケビンと申します!よろしくお願いします!」
ケビンが礼をする。
「ああ、よろしく頼む。そうか、帝国はヤマナの所に兵を修行に出しているのか。」
「ああ、ガルストもだ。ここに並んだ20名は、フリード殿下とガルスト陛下から預かった大事な兵達だ。
彼らは魔族と戦うべく、俺の弟子となって修行をしている。」
「そうか、、帝国、ガルスト、ゼノラウトがこの大陸のために動いている時に、ベアダインは、、、
まったく、、」
キイイイィィィン
お! この音は!
「もう1人、紹介したい奴がいる、ちょっと待ってろ。」
そう言ってケビンからフィオナを受け取り、刀を抜いて空に掲げ、白い光を放つ。
空を飛ぶ飛行機が、弧を描き、俺の元へと降り立ってくる。
キイイイィィィンンンンン、
ギュキュッ!
ヒナコが着陸し、俺の胸に飛び込んでくる!
「おかえり! ヒナコ!!」
「ダーリン☆!!」
ヒナコが俺の胸に顔を埋める。
「あー! ヒナコさんズルい!!」
アユミが叫ぶ。
「ん?」
ヒナコを見ると、キラキラした目で見上げてくる、ちょっとドキッとした。
「ちょ、ちょっとフミオさま! ヒナコさん、横から見ると邪悪な『ぐへへ』顔になってますよ!」
「ん? そんなことないぞ。」
ヒナコがキラキラアイで見つめてくる。
そしてまた俺の胸に顔をうずめる。
……ぐへへ、ダーリン半裸だ、生胸肉味わうチャーンス、キスしちゃえ、チュッ!チュッ!!
おいしーー! 星三つ☆☆☆!
「ん? なんか言ったか? ヒナコ?」
「ううん、何にも、ダーリン☆」
「ああ、よく帰って来てくれた。急報がないなら後で陣幕の中で聞く。」
「うん、わかった。」
「まずは紹介したい人がいる、ベアダインの戦士、ソウジだ。トモナリを打ち破って俺と引き分けた。今は意気投合して一緒に飯を食っている。」
「初めまして、ヒナコです☆ よろしくお願いします☆」
「……ソウジです。」
「見ての通り、ヒナコは戦闘機娘だ、一度戦ったが、当然手も足も出なかった。生前は優秀な税理士で、今はテリクスで事務秘書やってくれている。」
「何でベアダインは勝てると思ったんだ? 情報が捻じ曲げられていたとしか思えんな、、、」
「さあ、飯にしよう! ソウジ、俺の弟子達と話ししてやってくれ。
ヒナコ、陣幕の中で飯を食いながら話を聞こうか、デメトリオ、ディーエ、アユミも来い。」
「「ははっ!!」」「はい、フミオさま!」
「ダーリンの作ったサンドイッチがいい!」
「はいはい、」
俺はヒナコの言うがままに、パンに野菜と大盛りの肉を挟んで渡してやる。
アユミがジト目で見てるので、もう一つ作って、
「はい、アユミ。」
アユミに渡してやる。
「ありがとうございます!!」
アユミがぱあっと明るい顔でサンドイッチを受け取る。
「それで、どうだった?」
「ほふはひひへんは☆ へひほ、、」
「……いや、すまん、、それ食ってからでいい。」
もぐもぐ、、
「皇太子殿下、激怒していたよ、ゼノラウト王の手紙読んで。」
「そういや陛下の親書、やけに分厚かったな。何を書いたんだ、陛下は、、」
「ダーリンが書かなすぎだよ。ベアダインと戦うとしか書いてないんだもん。
陛下の親書には、ダーリンが刺された様子とか、ベアダインの宣戦布告の内容とか詳細に書かれていたよ。
あと、ダーリンの『力読みの石』の証明書もつけられていたよ。『大神官』はゼノラウトに居るべきでは無いとも言っていた。」
「あちゃー、いずれはバレるとおもったが、早速かぁ。」
「うん、それでこれが帝国からダーリンへの親書☆」
「ああ、ありがとう、」
親書を開くと、帝国としてはベアダインとの戦争は不干渉であるとの事が書いてあった。それとは別に、大神官は帝国に居るべきで、高待遇で迎える用意があるとの書面も入っていた。
「親書はタテマエね☆
帝国の中には大国のベアダインを支持する勢力もあって軍における不干渉が精一杯だったみたい。ベアダインは帝国の重臣に相当贈り物をして居るみたい。」
「そうか、」
「でね、ここからは本題☆
フリード殿下が兵を率いてベアダインに向け南下するって。」
「おい! まずくないか? それ。
フリード殿下が帝国議会に逆らうと言う事だろ?」
「うん、だから国境付近で大規模軍事演習を行うって。ベアダインにとってみれば、警戒して兵をそちらに割かなければいけなくって、その隙にベアダインの首都を制圧しろって。
『形ばかりの民主主義で民を苦しめる独裁国家なんぞ滅ぼしてしまえ!』
と言っていた。」
「マジかよ、、、」
「最後に、『ヤマナなら、犠牲を最小限にして、ベアダインの民を救うと信じている』と言ってたよ。」
「そうか、、よくやってくれた、ヒナコ。」
そう言ってお代わりのサンドイッチをヒナコに渡してやる。
「国境の警備のめどがついたら、王都に戻って対応を協議しないとな、、」
そう言っていたら、、
「伝令! 急報です!! 団長!」
伝令が入ってきた!
「ベアダインの大型船が5隻、王都に近い漁村に姿を現しました! 現在、ゼノラウト海軍、ヒューレ海軍と交戦中! 昨日昼間の事です!」
く、1日前か!
怪我したシュルトの軍を先に王都に向かわせてはいるが、
「デメトリオ! ディーエ! 飯の後、すぐ軍が動けるよう準備させろ!」
「「ははっ!!」」
俺は陣幕を飛び出し、ガリアへの進軍準備をしていたハルバルト、ギルファング、セルンドの元へと走る。
「セルンド! やはり3千でなく、デルハルト全軍でガリアへ向かってくれ! トモナリも行け! 国境に完全に蓋をしたい!」
「ははっ!! デルハルト1万3千で向かいます!」
「ああ頼む! ギルファング! ガリア近辺の敵の伝令を刈り取れ!」
「了解した!」
「ハルバルト! ガリアではお前がこの2万の軍の指揮を取れ!」
「ははっ!!」
「お前ら3人ちょっと来い、、」
「「「はっ!!」」」
4人で肩を組んで円になる。
「ベアダインの海軍が王都近くの漁村に現れた。」
「「「!!!」」」
「敵はヒューレ海軍と交戦中、昨日の昼間の事だ。俺はこれからヒューレ軍と共に迎撃に向かう。南へ引くベアダイン軍は大軍でまだまだ脅威だ、いつこちらに向きを変えるかわからない。
出来るだけ交戦せず、そっと国境の向こうへ帰して蓋をするのがベストだが、、万一戦闘になったら判断は任せる。総大将はハルバルト、お前だ。」
「ははっ!!」
「ギルファング、セルンド、頼んだぞ。」
「「ははっ!!」」
こうして俺は軍を二手に分け、王都にとって返す事となった。




