87. ゼノーデン平原の戦い 箱
※文中に残酷な表現が入っています、ご注意ください。
開戦二日目の朝、ヤマナはゼノラウト本陣でアユミを抱きしめたまま、うつらうつらしていた。
空が少し明るくなったころ、アユミが目を覚ます。
「フミオさま、、」
毛布にくるまれた状態から、両手を出し、ヤマナの背中に手をまわして抱きつく。
そのまま少しの間、アユミは幸せな時間を過ごした。
「う、、あ、アユミ、、大丈夫か?」
ヤマナが目を覚ます。
「はい、もう大丈夫です、ぐっすり寝たら落ち着きました。」
「……頬がこけているぞ、食べれるようになるまでは、能力は使うな。」
「、、すみません、頑張って食べます。」
「いや、無理をするなと言っている。今日はアユミのサポートなしで戦うよう通達しておく。」
「、、わかりました、今日は回復に努めます。でも、食べれるようになったら、能力を使ってもいいですか?」
……ふう、、止めても無駄だろうな
「ああ、普通に食べれるようになって、普通に動けるようになったら、という条件付きだ。守れよ。」
「はい! 約束します!」
ヤマナは本陣をシュルトに任せ、先鋒軍の陣へと戻る。
「団長! おはようございます!」
「デメトリオ、 ベアダインの様子はどうだ?」
「はっ、敵の第1軍は完全に撤収しております。物見の報告によると、中軍、といっても敵の最前線になったわけですが、左軍、右軍ともに前進せず、防御陣を固めております!」
「ちっ、ここで固めてきたか、まあ当然か、、夜が明け、霧が晴れるとともに敵陣への進攻を開始する! 準備をさせろ!」
「はっ!!」
そして霧が晴れると、、
「ゼノラウト軍、前進! 弓隊用意しろ!」
「「「ははっ!」」」
ゼノラウト軍は敵陣の前まで近づくと、矢を射かける!
敵陣からも矢が飛んでくる。
ヤマナは『追い風』で自軍の矢を遠くまで飛ばし、敵の矢は届かないようにする。
デルハルト軍、ヒューレ軍も陣から出てきて、それぞれ敵の中軍を攻め始めた。
こうして二日目の戦闘が始まった。
ゼノラウト軍の陣地の中を、1つの大きな箱がゆっくり進んでいた。『AOMORINGO』と黒い字で大きく書かれているが、、誰も気にしない、、
「こちらブラックスネーク、潜入に成功した。指示をくれ、、」
ヘイスケがつぶやく、もちろん返事はない。
ゴンッ! 兵士が箱にぶつかる。
「誰だよ、こんなところにリンゴの箱置いたの、、、ちっ、」
ちょっとムカッとしても、すぐに存在を忘れる。
「くっくっく、箱最強、、お! 偉そうな奴見っけ。」
箱の穴から、黒い筒の先端を出すと、ゼノラウトの指揮官の額に赤い点が浮かび上がる。
そして、、
バスンッ!!
サイレンサーを付けた銃によるくぐもった破裂音が一瞬響くが、、みんな「??」といった感じで気にしない。
「師団長!!」
ゼノラウトの師団長の一人が、額から血を流して倒れていた。 兵士たちが慌てて駆け寄る、が、誰も敵を認識することはできない!
近くに怪しげな箱があっても、気にしない、いや気にできない、、 これこそがヘイスケ、いやブラックスネークのスキル『認識阻害の箱』の力であった。
ブラックスネークは、『箱』と『サイレンサー』による隠密性と『レーザーポインター』による精密射撃でゼノラウトの指揮官を次々と暗殺していった。
「なんか騒がしいな?」
レオルがつぶやく。
「大変だ! 敵が侵入している! お前たちも気を付けろ!!」
兵士たちがレオルに注意を促す。
「!! どんな敵なんだ? なぁ!」
「わからん、、誰も姿を見てないんだ! 師団長クラスの指揮官ばかり狙われている!
もう5人もやられた!! 額を正確に一撃で槍のようなもので貫かれている!」
レオルたちに緊張が走る、初めての敵との遭遇、それも見えない敵、、
「ねえ、レオルにぃ、、」
「しっ、ルル、静かにしていろ。」
レオルが太刀を抜き、シェリーが弓と矢を手にして辺りを索敵する、
「ねえ、シェリー、」
「ルルちゃん、しーー、、」
「……さっきからへんなのに、、」
「「!!」」
「なにか見つけたのか? ルル!」
「ううん、でも、、毛と石を一緒に焼いたような、いやーな匂いがするの、、」
スンスン、、レオルが匂いを嗅ぐ、
「ほんとだ、、少しだけど焦げたようなにおいがする。」
「うーん、私にはわからないな、、炊事のにおいじゃなくって?」
「ごはんのたき火とは、ちがうの、、やなにおい、、」
「どこからだ? その匂いはどこからしている?」
「うーーんとね、、」
「おい、お前たち、陣幕の中に入っていろ、敵がいるらしいぞ。」
ゼノラウト本陣を率いるシュルトが出てきて、レオルたちを気遣い、中へ入るよう促す。
シュルトの額に、赤い点のようなものが浮かび上がる。
「!!だめっ!!」
いきなりルルが叫んでシュルトに体当たりする!
シュルトがよろけたその瞬間、
バスン!
鈍い破裂音と共に、シュルトの顔から血がはじけて飛び散る!
「ぐああぁ!」
シュルトが顔を抑えて倒れる。
「「閣下!」」
近くにいた兵が駆け寄る。
「ルル! 敵なんだな!」
「うん! しゅるとかっかが出てきたら匂いが強くなったから! 今はもっと強くなってる!」
「どこだ? どこだ?」
「ルルちゃん、匂いの方向を教えて!」
「あっち!」
ルルが指さした方向には誰もいない、箱はあっても誰も気にしない、
だが、シェリーはルルを信じて矢を引き絞り、
『稲妻ぁ!!』
雷の矢を放つ!
ドバァァァアアアン!!
矢は箱にあたり、木の板がはじけ飛ぶ!
中から緑と黒の縞々の服を着て、黒い鉄の棒を持った人間が出てきた!
「敵襲!!」
兵たちが集まってくる!
盾と鎧で重武装した親衛隊たちだ!
「ちぃ! 『リロード!、徹甲弾!』」
ヘイスケはスキルを発動、銃に徹甲弾を装填し、
タタタ! タタタ! タタタ! タタタ! タタタ!
銃の連射機能を駆使して撃ちまくる。
「ぎゃ!」「ぐぅ、」「ひい!」「ぁあ!」
徹甲弾は盾や鎧など紙のように貫通し、親衛隊の兵達が短い悲鳴をあげて倒れていく!
レオルが走る!
ヘイスケが走り来るレオルに気が付き、撃つ!
レオルは緩急をつけた走りと、あたりの木をうまく遮蔽物に使い、ヘイスケのところまで駆け下りていく。重武装の親衛隊の兵士達とは違い、猫のような俊敏さでヘイスケに迫るレオル!
「ちょろちょろとよけやがって! くらえ!」
ヘイスケが黒い石のようなものを投げる!
バァアン!!
手りゅう弾の破片がレオルの足に刺さる!
「ぐう! 『ゴォァァアアア!!!!』」
一瞬うめいた後、獅子獣人のレオルが本能で咆哮を上げた!
「ッ!!」
獅子の咆哮を浴びて、一瞬ヘイスケが固まる!
『稲妻ぁ!!』
固まったヘイスケにシェリーが雷の矢を放つ!
ズガァァアアン!
「ぐっがっ!」
矢はヘイスケのぶ厚いベストに阻まれるが、電撃は通った!
動きの止まったヘイスケに、いつの間にか後ろに接近していたルルが両手の短刀で腰と背中を刺す!
「ああっ! かっ、、なっ、子供?!」
背中を刺した相手が、獣人の小さな女の子と知ってヘイスケは驚く。
「子供で悪かったな、」
レオルがヘイスケの前に姿をさらす。
「……参った、、俺の負けだ、、ゴハッ、、」
腰椎を刺され、立つことのできなくなったヘイスケが座り込む。
背中の傷も、かなり深く、せき込んだ口からは血が流れ落ちる。
「ゴホッ、ゴホゴホッ、、ヒュー、ヒュー、、、なぁ、少し話、、いいか? もう動けないし、肺をやられて長くはなさそうだ。」
「……ああ、いいよ、、」
レオルとルル、シェリーがヘイスケの前に立つ。 3人ともヤマナから教えられた『残身』を取り、油断なく立つ。 シェリーは弓を引き絞って構えたままだ。
「なぁ、ゼノラウトでは子供まで戦わせられているのか?」
「いや、ちがう、、俺たちは3人とも孤児だったところを、師匠に拾われて、、 一緒に戦いたくって勝手に来たんだ。 ここに来たときは師匠に本気で怒られたけどな。」
「そうか、、、ゴホッ、、無理やりでなくて良かった。」
「あんたも師匠と同じ、召喚戦士なのか?」
「師匠と同じ? ああ、俺は召喚戦士だが、、お前たちの、ゴホッ、、師匠は誰なんだ?」
「「「フミオ ゼン ヤマナ!」」」
3人が声をそろえて答える。
「ははは、、はっはグホッゴホッ、、そうか、ヤマナの弟子か! 日本刀なんて持ってると思ったら! そうか、流石だ! 本当に、、、ああ、お前たちと、立派な戦士たちと戦えて、、本当に、悔いは、、無い!」
ヘイスケは笑って天を見上げる。
「俺はヘイスケ、お前たちは?」
「レオル」「ルル」「シェリー」
「おい、レオル、、俺の左胸のナイフ、取ってくれるか?」
「……ああ、」
「レオル気を付けて。」
シェリーが弓を構えたまま注意を促す。
レオルがヘイスケの左胸から大きなナイフを鞘ごと外す。
「ガンホーナイフだ、やるよ、、、使い方は、師匠に聞きな、ゴホッ、、」
「ああ、ありがとう。」
「そろそろお別れだ、、ゴホッ、
ああ、クソみたいな国でクソみたいな仕事してたが、最期にお前たちと戦えてよかった、、
離れてくれないか、、自爆する、ゴホッ、、」
「「「!!」」」
3人が急いで離れると、、ヘイスケは両手に握った手りゅう弾を放ち、、
ドンッ!!
ヘイスケは跡形もなく吹き飛んだ。
「……アユミのところへ戻ろう、、また敵が来るかもしれない」
「ええ、」「うん」
3人は本陣のアユミの元へと戻っていった。




