84. 集結
ヤマナは自分の騎馬の前にアユミを乗せ、テリクス軍とガリア軍を率いて北に向け街道を撤退していた。
ガリアを落とされ、大軍を前に唇をかみしめて撤退したヤマナ達は、森を抜けて平原に出る。
「おお! おお! おおおお!!」
平原に出たヤマナは、目の前の信じられない光景に、言葉にならない声を上げる。
広大な草原を囲むように十重二十重に掲げられている旗!!
ガリアで見たベアダインの軍勢にも決して劣らない大軍勢!!
デルハルトの旗、ヒューレの旗、ゼノラウトの旗、
この短期間に、よくぞ、よくぞ集まってくれた!!
「「ガ、リ、ア!! ガ、リ、ア!! ガ、リ、ア!!」」
今日まで命を懸けてベアダインを抑えてきたガリアの兵達へ、草原の全軍が激励の声を上げる!
「アア、 アア、 アァア!」
ここまで俯いて歩いて来たガリアの獣人たちが、顔を上げ、涙を流す。
お館様を討たれ、故郷を後にし、悔しい、惨めな思いで退却してきた、、、
だが、援軍の声援を受け、もう一度心に誇りを取り戻す!!
平原北方の山に本陣が築かれており、各軍の指揮官が集められた。
「ここ、ゼノーデン平原は、南北10km、東西3kmほどの長細い平原です、傾斜は北から南東の方角へと下っており、南の街道から出てくるベアダイン軍に対し、我々は優位な位置を占めることができます。」
シュルトが大きな地図を広げながら地形の説明を行う。
「布陣は、この山に本陣を置くとして、平原に先鋒のテリクス軍、ガリア軍、平原西の山にデルハルト軍、平原東の山にヒューレ軍、でどうだ? 」
ヤマナが提案する。
「……問題はないでしょう」
「うむ、」
熟考して指揮官たちが同意する。
「フミオさま、」
「何だい? アユミ、」
「布陣はフミオさまの言った通りにするとして、用兵は考えてもいいですか?」
「ああ、もとよりアユミに任せるつもりだ。布陣も変えていい。頼むぞ。」
「はい!!」
アユミは、杖を取り出す。
「アズリちゃんお願い!! 『盤面把握!!』」
杖の宝石から青い光の粒が飛び出す!!
光の粒は平原を巡り、アユミに情報をもたらす。
実際の地形と自軍の兵数、種類を確認したアユミは、今度は地図に没頭する。
顔を地図の上にもっていき、目を見開き、じっと見つめている。
ここ数日、アユミにはガリアで実際の用兵を見せてきた。
今、アユミの頭の中では、幾十、幾百通りの戦いの筋が描かれているのであろう。
ヤマナはちょっといたずらのようなことを思いつく。
5つの大きな石を横陣にして南側に置く、1つ1万のベアダイン軍を想定した駒だ。
アユミは大きく開いた目のまま一度ヤマナを見る、そしてまた地図に没頭する。
「……攻略しました、、フミオさま、次の陣を」
ヤマナは今度は、石を並べて魚鱗の陣を組む。
「……攻略しました、、次を」
今度は木の枝と石を組み合わせ、鶴翼の陣を組む。
「……攻略しました、、次を」
ヤマナは知っているいろいろな陣を組む。
そのすべてに対し、アユミはシミュレーションを行い、攻略する。
「ふう、アユミ、一度休まないか?」
「はい、、あの、、フミオさま、、、」
「ああ、わかっている、
おい、食事を用意してくれ! パンでも肉でもいいが、出来れば消化のいいものを頼む!」
「はっ!!」
すぐにスープとパン、干し肉、野菜が運ばれてきた。
「よし、食いながら話そう、 トモナリ、おまえ、『ファンタジアワールド』ってゲーム知っているか?」
「うん! あれ面白いよ! あのね、特にファイブが面白くって、」
「ああ、その話は後だ、 確かあのゲーム、毎回、召喚士がいたな。 召喚獣が一撃放ってすぐ消えるやつ。」
「うん、いたよ。」
「シリーズごとに、バリエーションがあったと思うが、、 青いローブで、赤い竜を呼ぶやつ、知っているか?」
「うん! エイトの竜召喚士だね! いろんな竜を召喚できるんだ!」
「そいつだ! 詳しく聞かせろ! 今回の敵だ!!」
「ええ!! 召喚竜、強いよ!!」
「うるせぇ! あいつはダチのカタキだ! 何が何でも倒す!!」
「うーん、ストーリーから話す? 召喚獣だけ?」
「ストーリーから全部話せ、いつ何を使うかの攻略にもなる。」
「うん、エイトの召喚士はね、、」
トモナリが言うには、、
竜召喚士は旅の中で4体の竜と契約し、それを召喚するようになっていくということ、
竜は、白翼竜、黄土竜、青海竜、火炎竜がいる、
白翼竜は風属性で一番弱い、黄土竜は地属性で召喚士の盾となる亀のような大きな竜、
そして青海竜は一番大きくて大波を発生させることができ、イベントでは敵の大軍を壊滅させたこと、
火炎竜は一番強く、その炎でゲームの終盤ほとんど使い続けることになるということだった。
「そうか、よくわかった、助かる。」
「うーーん、火炎竜はヤバいなぁ、、」
ブツブツ言うトモナリ、
「お前だって、デルハルト侵攻での死闘に、クロト撃破、魔獣退治とレベル上がってるんだ、竜ぐらいでビビるな。」
「えーー、無茶いうなぁ、、」
「ところでアユミ、そろそろ作戦を伝えてくれないか?」
「作戦?」
「ああ、さっき一生懸命考えていただろ?」
「作戦なんてありません、敵の打ち筋でいくらでも変えます。」
「は? じゃあどうやって俺たちを動かすんだ?」
ヤマナはさすがに要領を得ず、アユミに詰め寄る。
「フミオさま、指揮官の方々をもう一度呼んでいただけますか?」
「あ、ああ、」
各軍の指揮官、40名が集められる。
「すみません、所属の軍と、名前、率いる兵の数と種類を教えてください。」
「デルハルトのセルンド、デルハルト軍1万5千を率いております。」
「デルハルトのピッケ、デルハルト軍 第1師団3千、軽装歩兵が中心です。」
「デルハルトのカラビン、デルハルト軍 第2師団2千、騎馬隊中心です。」
こうして40名の指揮官が名前と指揮する軍の事を話していく。
「では、ちょっとそこの開けたところへ行きましょう。」
アユミがみんなを50m四方ほどの広場に連れていく。
『盤面、、掌握!!』
「なっ!! 」
ヤマナは唖然とする。
[ デルハルトの方々は、右のほうへ集まってください ]
アユミは意識下で指令をだす、ヤマナに声は聞こえない、デルハルトの面々が右の縁に集まる。
[ ヒューレの方々は、左のほうへ集まってください ]
ヒューレの面々が左の方に集まる。
[ フミオさま、2歩前へ ]
うお、頭の中に直接聞こえた! 歩かなきゃいけない気がして2歩進む。
[ ケビンさん、ギルファングさん、トモナリさんはフミオさんの後ろへ ]
ケビンとギルとトモナリがヤマナの後ろに並ぶ!
[ ハルバルド隊はフミオさまの右を固めてください ]
[ デメトリオ隊はフミオさまの左を固めてください ]
ハルバルトがヤマナの右に、デメトリオが左に控える。
[ グドルトさんはフミオさまから5歩下がり本陣前の守備に ]
グドルトが位置に着く。
[ では始めます! フミオ隊5歩前へ! デメトリオ隊、ハルバルド隊は1歩前で防衛! ピッケ隊は1時方向へまっすぐ進め! ]
アユミが声を出さず、『盤面掌握』の力で司令官たちそれぞれの意識に直接指示を伝え、隊を動かし始める!
一通り訓練が終わった後、、、
「なあ、この広場ならともかく、、だだっ広い平原でこの能力、大丈夫か?」
ヤマナがアユミにたずねる。
「はい、大丈夫です、『以心伝心』の力は魔力消費量、多くないので、アズリちゃんも手伝ってくれてますし。」
「アユミ、、恐ろしい子、、」
ヤマナが留守のヒナコの代わりに呟く。
そこからは一度解散、各々(おのおの)自分の陣や部隊へと戻る。
「師匠! 刺されたって? 大丈夫か!!」
「ししょー、だいじょうぶ?」
ヤマナが各陣を回った後、アユミ用に用意した陣幕にいくと、獅子獣人の兄妹レオル、ルルとエルフの少女シェリーがいた。
「……なんでお前たちがここにいる? シェリー、お前もだ。」
「いや、俺たち師匠と一緒に戦うために、」「私もフミオさまと!」「わたしもー!」
「帰れ!」
「帰らない! 俺たちも戦う!」
「ふざけんな!!」
「俺たちはふざけてない!!!」
……こいつら、反抗期か?
「本当に役に立てると思っているのか?」
「……魔法なしの師匠から、三対一で一本取ったら陣に置いてくれるか?」
「いい度胸だ、、、表に出ろ、、」
「アユミ、フィオナを預かっていろ。」
「は、はい。」
ヤマナが腰の刀をアユミに預ける。
「いいのか? 師匠、まるごしだぜ?」
「フィオナ使うと手加減できんだろ、このほうが思う存分、折檻できる。」
両手の指をバキバキ鳴らすヤマナ。
レオルがヤマナの正面に木刀を中段に構えて立つ、ルルが右手に木刀、左手に短い木の棒を持って低く構え後ろに回り込む、シェリーが矢じりのない矢を構えて側面に回り込む。
ほお、、レオルの構え、なかなかのものだ、、
「鋭ッ!!」
レオルが切り込む!
ヤマナは踏み込んでレオルの右手の甲を横から左手で押し、木刀の軌道を変える!
そして顔面に掌底を打つと、、ルルが後ろから地を這うように飛び掛かり、木刀でアキレス腱を狙う!
すかさず右足を前に出してかわすヤマナ、だがルルはもう片方の手の木の棒をヤマナの顔へ投げる!
「うお!」
思わずのけぞって躱すヤマナ、そのすきにレオルとルルが一瞬で跳んで離脱!
ヒュヒュヒュッ!!
シェリーの矢が三連射される! 顔、胸、胴の三か所を狙ってだ!
右へ左へ、何とかよけきるヤマナ、冷や汗が出る。
「こいつ等、、、」
ヤマナは思わず笑みがこぼれる。
今度は布陣を変えてきた、シェリーが前、斜め後ろにレオル、その後ろにルル、斜行陣か?
「稲妻ぁ!!」
なんだと!! シェリーが放った矢は電撃を放ちながら飛んでくる!
矢の後ろからレオルが突っ込んでくる!
「ちぃ!!」
しゃがんで矢をくぐり、踏み込んで木刀をかわし、レオルにボディーブロー、
「ぐぁ!!」
レオルが体をくの字に曲げて苦悶の表情をする。
ん? ルルはどこ行った?
……上か?!
ルルはレオルの背中を踏み台にして飛び、上からヤマナに襲い掛かる!
ヤマナは右手を時計回り、左手を反時計回りに、回し受けでルルの左右の木刀をさばく!
シェリーが矢をつがえる! 雷をチャージしている!
さばいたルルをシェリーに投げ、、いや、やめた。
ドバァァン!!
おとなしくシェリーの放った矢に当たり、雷を一身に受けた後、ルルをかかえてゆっくり下ろしてやる。
「なんだよ、師匠、ルルを投げれば防げたんじゃ、、」
「おまえ、ルルを盾に出来るか?」
「……出来ない。」
「そういうことだ、何にせよ、お前たちの勝ちだ。」
「え? それじゃ!」
「ああ、この陣にいることを許す。」
「「「やったー!!」」」
「バカやろう、遊びじゃねぇんだぞ。こっちはちゃんと給料も払うんだ。」
「え? お金ももらえるのか?」
「ああ、しっかり働けよ。ああ、あとお前らの仕事は本陣でアユミの護衛だ。」
「ええ! 師匠と一緒に前線じゃないのかよ!」
「「ぶーぶー!!」」
「ばっかやろう! アユミはこの軍の軍師だ! とられたら終わりだぞ!! 一番大事で、一番危ないところだ、油断すんじゃねェ! しっかりアユミを守れ!」
「わかったよ師匠」
「ししょー了解!」
「アユミちゃんは私が守る!! キリッ!」
……いや、シェリー、そんなに男前に言わんでいいから、、
「ちょっと来い、武器を取りに行くぞ。真剣だ、気を付けて扱え。」
「「「はい!!」」」
ヤマナは武器と防具をレオルたちに与える。
「命令だ! お前たち3人で命をかけてアユミを守れ!」
「「「はい!!」」」
…ふう、まあ、その辺の兵士より、この3人のほうがよっぽど強いだろうな。 アユミも気心の知れた仲間が近くにいたほうが良いだろう。




