71. シェリーの弓
ガタゴトガタゴト、、
ゼノラウトとデルハルトの一行が馬車と騎馬で進んで行く。
前方に大きな森が見えてきた。
森の入り口で一行は一旦止まる。
ヤマナはアユミの乗った馬車に馬を寄せた。
「アユミ、この先に森がある、索敵を頼めるか?」
「はい! フミオさま!」
「よし、こっちにおいで。」
ヤマナは騎馬にアユミを引っ張りあげ、自分の前に座らせ、馬を森の方に向けた。
「アユミ、頼む。」
「はい!『盤面把握』、、」
前方の森に向かってアユミが能力を発動する。
アユミは100m四方1マスの領域を次々に展開していく、その数81個。
「すごい、、アユミちゃん、、、」
アユミの非常に大きな、それでいてきれいに整えられた魔法を感じ、シェリーがつぶやく。
「森の中には2組の猟師さんがいました。どちらも街道から離れているので、待ち伏せするような位置ではないです。」
「装備は?」
「弓とナイフだけです。鎧のようなものは着ておらず、皮や布の服を着ていました。」
「ありがとう、アユミ」
ヤマナはアユミの頭を撫でてやる。
「あの、、、森を抜けるまで、一緒に乗ってて良いですか?」
アユミはヤマナを見上げてご褒美をねだる。
「ああ、いいぞ、じゃあ進もうか!」
テリクス軍の騎馬を先頭に、一行は森の中の道を進み始めた。
2時間ほどして、森の中のちょっと開けたところで一行は休憩する。
「『盤面把握』、、」
アユミが周囲を索敵する。
81マスの展開を9x9で1回、さらに形を変えて3x27で街道沿いの前方と後方に1回ずつ、計3回行う。
アユミはすでに自分の能力を応用し始めるまでに至っていた。
すさまじい成長力だ。
「ふう、、」
「無理はするなよ、どうだ?」
「はい、2kmほど先の東の方から旅人が5人きます。特に武装はしていないようです。
あとは、、北東1kmほどのところに黒い大きな動物が、、強そう、少し気をつけたほうが良いかも、、」
「わかった、ありがとう。たまにで良いから北東に向けて索敵頼む。
あと、魔力を使った分はしっかり食事をとれよ。」
「はい! フミオさま!」
「はー、アユミちゃんすごいねぇ、昨日習った魔法でもう大活躍してるよ。」
ヒナコが感心する。
「いえ、そんな、、私は戦えませんので。」
「いや、実際アユミの『盤面把握』は軍同士の戦いにおいては反則に近い。
相手にとっては作戦が全部バレてしまう。伏兵や罠が全く意味を成さないからな。
アユミはすごいよ。」
「そんなことないですー」
アユミが頬を両手で抑えて照れる。
「あの、、フミオさま、私にも魔法を教えていただけませんか?」
シェリーがフミオに相談する。
同じ年頃のアユミが能力を使い始め焦っているのかもしれない。
「なぜだい? 今は心配要らないよ。テリクス軍に皇太子の親衛隊、ガルストの精兵、今は大丈夫だよ。」
「私も、私も戦えるようになりたいんです!」
しっかりした眼差しでヤマナを見つめる。まだ幼さは残っているが、金髪のエルフの少女の美貌に、ひるみそうになる。
「そうか、、だが魔法というものは『何か魔法を』では覚えられないよ。
アユミはみんなの安全のために索敵したい、という強い思いがあったから覚えることが出来たし、俺よりも強力な能力に目覚めたんだよ。
シェリーは魔法を使って何がしたいんだい?」
一瞬シェリーは言葉にすることをためらうが、グッと奥歯を噛みしめてから答える。
「私は、私は故郷を取り戻したい!
魔族に奪われたあの島を、森を取り戻したい!!」
シェリーは強い眼差しでヤマナを見つめる。その目からは涙が溢れていた。
ヤバイなー、美少女の涙には敵わんなー
「わかった、、魔法と言ってもどんなのが良い?
回復、支援、攻撃、色々あるぞ?」
「フミオさまのように、武器につける魔法が欲しいです。出来れば聖属性が。」
魔法剣みたいなやつか、意外と過激な子だな、、
「武器は何か使えるのか?」
「弓なら少し習った事があります。」
「弓かあ、、ちょっとやってみるか。」
そう言ってヤマナは馬車の荷台から適当な弓を取り出す。
「ちょっとあの木に向けて射ってみて。」
「はい!」
ピュン!
カッ!
なかなか見事な腕前にヤマナは感心する。
「誰かに習っていたのかい?」
「はい、幼い頃、母に。あと、父には短剣を教えてもらいました。」
「そうか、じゃあもう一回構えて。」
「はい!」
シェリーが弓を引きしぼる。
ヤマナはシェリーの後ろから、シェリーの手の甲にそっと自分の手を添える。
そして少しずつ聖の気をシェリーの手を通して矢に注ぐ。
「射て、」
ピュン!
カッ!
今度も命中した、が今度は木の幹が矢の刺さっているところを中心に輝いてキラキラ光の粉が散っている。
「フミオさま! これは!」
「うん、矢に聖の気を注いで射ってみた。
気の練り方はまた教えてあげるから、焦らないで。」
「はい!」
ヤマナの弟子となったガルストやアルカナの兵達がそれを見て真剣な表情になる。
一番欲しい魔族と戦う為の力の一辺を、目の前で見せられたのだ。
それもヤマナ自身の武器ではなく、他人が扱う武器で。
ヤマナも彼等の思いに気づく。
「すまん、お前達、
今は俺自身、どうやって教えれば良いか試行錯誤中なんだ。
必ずお前達に伝えて見せるから、テリクスに着くまで待ってくれ。」
「「「はい! 先生!!」」」
「フミオさま!」
アユミが走り寄ってくる。
「大変です! さっきの大きな動物が、街道を歩く旅人の方に向かってます!!」
「わかった! 俺が行こう!
親衛隊とテリクス兵は王たちや子供達を真ん中に方陣を組んで待機!
トモナリとヒナコは中にいて何かあった時みんなを守れ!
アユミは真ん中で引き続き索敵!
ケビンとガルスト兵は騎乗しろ!
俺と共に旅人を助けに行く!」
「わかったよ!」「らじゃ!☆」
「はい! フミオさま!!」
「「「ははっ!」」」
さすがに訓練された兵達だ、速やかに方陣を組む。
ヤマナは10騎程の手勢を率いて進もうとする。
「私も!!」
シェリーが弓矢を持って無理やりヤマナの馬に乗り上がろうとする!
落ちれば怪我をする、そう思ったヤマナは引っ張りあげてやった。
「あんまり無茶するなよ、、」
ヤマナは自分の前にシェリーを座らせて言う。
「すみません、でも、お願いします!」
「時間がない! 行くぞ!」
ヤマナは騎兵達を『追い風』の魔法で包み、街道を東へと駆けて行った。
<ゴアァァアア!>
3mは有る魔獣が旅人たちの前に姿を現した時、
ドガガッ! ドガガッ!
ヤマナ率いる騎兵たちが西から突進してきた!
旅人たちは魔獣の襲撃に腰を抜かして地面にへたりこんでいる。
「よく狙えよ、」
「はい!!」
シェリーが弓を引きしぼる!
ヤマナは左手で手綱を握り、右手をシェリーの手にそっと添えて、矢に雷の魔力をながしこむ!
ヒョウッ!
ドバァァアアン!
雷の矢は魔獣に刺さる!!
<グギャ! アァァアア!!>
魔獣が苦しみ、体を大の字にして立ったまま硬直する。
スパンッ!
横をヤマナの騎馬がすり抜け、フィオナで魔獣の首を飛ばした。
「良くやったぞ、シェリー!」
「はい! ありがとうございます!」
初陣としては上出来だ。
ヤマナは周囲を『空間把握』で索敵し、旅人たちを気遣う。
「フミオ ゼン ヤマナだ! 怪我はないか!」
「ヤ、ヤマナ団長! た、助かった!! ありがとうございます!!」
旅人たちが感謝の言葉を述べる。
「この先にテレシア様が陣を張っている! そこまで一緒に行こう!」
「テレシア騎士団が!! はい! ありがとうございます!!」
そうしてヤマナたちは簡易の陣へと帰って行った。
後に帝都では、テレシア騎士団には金色の髪の美しきエルフの射手がいるという噂が広まっていったのだった。




