70. アユミの盤面
帝都を発って3日目の夜、ゼノラウト、デルハルトの一行は草原で野営していた。
護衛の兵と、俺と弟子たちは交代で見張りをしている。
俺はたまに広範囲の『空間把握』を使い、敵となりそうなものが潜んでないかを確認する。
王たちや子供達がすっかり寝静まった頃、
「フミオさま、、」
アユミだ。
「どうした? 明日に備えて寝てなきゃダメだぞ。」
「あの、私も役に立ちたくって、、
時々使っているあの魔法、教えて下さい。」
「!! お前、俺が索敵していたの分かるのか?」
そうか、趣味の将棋で召喚されたアユミはこの手の能力に適性があるのかもしれない、
らんぷ亭ですでに空間魔法の片鱗も見せている。
「おいで、
夜風に当たっていると良くない。」
アユミを後ろからそっと抱きしめ、上から俺のマントで包んでやる。
「行くぞ、『空間把握』、、」
意識を外に広げる。半径50m以内の情報が入ってくる。
ん? 野犬か? こっちを伺った後、去って行く。
範囲内には他にウサギが8匹、ネズミの類の小動物多数、、敵や脅威となるような動物はいないようだ。
「どうだ? 出来そうか?」
「はい、やってみます、、『空間把握』」
アユミが目をつむる、、
アユミからぶわっと魔力が出て拡散する。
「あ、、
散ってしまって上手く行かなかったです、、
もう一回。」
「ん? ちょっとだけまて、
今のは質は悪くなかったぞ。量も十分だ。
すごいぞアユミ、初めてでここまで出来るのは。
あとは、、多分、空間をつかむイメージだな。
俺は剣をやるから、周囲を円で捉えるのが得意だ。
お前の得意なものはなんだ?」
「将棋です。」
「そうだな、一つずつやってみようか。
今、俺たちは王将だ、だから、左右前方81マスをイメージしてみろ。
どうだ?」
「はい、そのほうがイメージしやすいです。
やってみます、 『空間把握』」
おお! アユミの魔力が、きれいに展開されて行く!
「どうだった?」
「はい、わかりました! 出来ました! フミオさま!」
「シー、みんな寝てるからな、静かに。
で、どこまでわかった?」
「一辺を10mぐらいにイメージしてみたら、あの大きな木のところまでわかりました。」
ん? だいぶ遠いぞ!
あそこまでは俺も相当頑張らないと無理だぞ。
「あと、テントの中でヒナコさんが転げ回ってました、、」
相変わらず寝相の悪いやつだな、、
ん? テントの中?
「おいおい、テントの中の人の判別や行動とか俺も無理だぞ、大体の人数とかはわかるが。
それ、『空間把握』どころか『空間掌握』に近いぞ。
じゃあもう一回やってみようか、今度は、5五飛車にでもなったつもりで。
あと、『空間把握』じゃなく『盤面把握』と言ってごらん。」
「はい! 『盤面把握!』」
うお! なんだこの魔力の質と量は!
すでに俺を超えているぞ!
範囲も俺が認識出来ないほど遠くまで行ってしまっている。
「ふう、あそこの木に大きな鳥が5羽います、7九にある、後ろの山には鹿の親子が居ました。
近くに私たち以外の人は居ません。」
「……すごいな、俺もあの山までは無理だぞ、」
振り返ってみると、山は1kmほど先だった。
「あの、、フミオさま、
お腹すいてしまいました、、」
アユミがマントを握りしめながら、恥ずかしそうに言う。
「はっはっは、そうか、夜食にしようか。
とんでもない範囲だったからな。次からは燃費考えて使うようにな。」
「はい、フミオさま!」
やっぱりアユミは空間系の魔法に適性があるようだ。
たき火で干し肉をあぶり、パンにはさんでアユミに渡してやる。
アユミは夜食を食べた後もずっと俺のマントから出ようとしなかった、
カンガルーの親子みたいだな、俺たち。




