63. すっぴん召喚
「召喚の儀式には、キーワードの様なものを乗せることを知っているか?」
粥のお代わりをよそってやりながら、ヒナコに話しかける。
「え? そうなん?」
「そうだ、ゼノの神殿の神官に聞いたが、戦士とか剣とか魔法とか、そう言ったキーワードを召喚の儀式に乗せているとのことだ。
なにを、どうやって乗せているかは儀式の方法自体がその国家の最重要機密らしく教えてはもらえないがな。」
「へー、まぁ召喚戦士は軍事力の要だからね、私の時は何だったんだろう?」
……きっと『爆』とか『最強兵器』とか『サーチ&デストロイ』などの物騒な言葉じゃないのか?
「ああ、そして召喚の儀式を行った時、キーワードに引っかかった成仏前の魂がこの世界に引っ張り込まれる。」
「そ、そうなんだ、すごいタイミングで呼ばれたんだね、私たち。」
「そうだな、、
召喚戦士は、大半が、魂に刻まれた思い入れのあるキャラの姿で召喚される。
例えば、トモナリはもともと9歳の子供だったが、大好きなゲームの戦士のキャラの年齢、体格で召喚された。
もちろん能力も、だ。
ヒナコ、お前はどうなんだ?
むやみに話さない方がいい内容ではあるんだが。」
「……私もそうだよ、思い入れのあるキャラの姿だよ。
死んだ時の年齢は今の見た目より、ちょっと上だったけど、
ほんのちょっとね、
ちょっとだけだからね!」
……強調するところが怪しい。
「で、だ、ここにキャラでは無く、元の人物の姿と年齢で召喚された人間が二人いる。」
「「 !! 」」
「この子が俺と同じ、と言ったのはそういうことだ。
言ってみれば、すっぴんで召喚されたんだよ、俺たちは。
ゲームやアニメのキャラが持っているようなチート能力は授けられず、初期スペックも元の世界とあまり変わらない。」
「うそ、信じられない、、
だってダーリンは相当な強さだよ?
噂では他の召喚戦士も破っているよね。
私の攻撃も通用しなかったし」
「もともとの世界での戦闘技術が高かったからな、剣術と体術は有段者で指導もしていたくらいだ。
強力なスキルや武器が無ければ、ゲーマーなんぞ俺の相手にもならん。
召喚の儀式では、戦士の強力な肉体や武器やスキルを構成するために、多くの人間が膨大な魔力を注いだり魔道具を使ったりして召喚した魂に力を付与する。
いわば魂のドーピングを行っているんだ。
ここからは俺の想像だが、
俺がキャラ召喚戦士と大きく違うところは、キャラ設定に与えられた強力な技や武器が無い分、そこに使われるべきであった魂の力にまだまだ余裕がある。そして生きていた時に使っていたスキルを発動する際や、頑張って新しいスキルを覚えた際にそれらが割り振られ、より強力な技となる。
いわばまだ割り振られていないボーナスポイントを大量に保有していて、それを後付けできるんだ。
これはある意味、かなりチートかもしれない。
それに一般の召喚戦士の弱点のつき方は分かっている。
ヒナコのような圧倒的火力の前にはどうしようもないが、それは他の召喚戦士も同じだろう。
魔法の類はこの世界に来てから覚えたんだよ。
武器もこの世界のもので作ってもらった。
だから一応全部自前さ、」
「ほえ~、
何でこの人に、キュピーン! と惹かれたか分かんなかったけど、今分かった気がする☆」
「本人の前で言うかよ、、
で、アユミ」
「は、はい」
アユミがビクッとして背筋を正す。
「いや、楽にして聞いてくれ、
君は、この世界に来る前と後で同じ年齢、同じ顔なんだよね?
大きな違いがないと言う意味でなんだが。」
「は、はい、そんなに、変わってないかと、、
いえ、もとの体よりよっぽどしっかりしてるかも、、、」
「「え?」」
「わたし、ずっと入院してて、、
全く動けなくって、
病気で死んじゃったから、、」
「だから、召喚されて、
友達のみんなと同じ、ちゃんと動く手足があった時は嬉しいと思ったりしたけど、、
ずっとベッドの上に居たからうまく体を動かせなくって、、
剣を持たせられてもわからなくって、
召喚失敗だとか言われて追い出されて、、、」
アユミがポロポロ泣きだした。
やばい、こっちも泣きそうだ。
「でも何でアユミちゃんが召喚されたんだろう?」
ヒナコがアユミの頭を撫でながら首をかしげる。
「問題はそこだ、
大抵は思い入れのあるゲームや映画のキャラの姿の筈だし、俺みたいに武術が趣味だったというなら現世の姿のままというのもわかる。
闘病が戦うことだというならそういうことだったのかもしれないが、、、」
「アユミ、辛かったり話したく無いのなら答えないでくれ、
あっちの世界での趣味とか頑張っていたこととか、好きな映画やアニメ、ゲームなどがあったら教えてくれないか?」
「はい、好きなアニメは、『となりのにゃにゃにゃ』とかで、、
あとは趣味というか、習い事で将棋をずっとやってました。」
「将棋? 段位とか持っているのか?」
「はい、アマチュアですが、、
おじいちゃんが元プロの棋士で、小さいころから教えてもらっていて、、
ベッドの中でも暇なときはずっと将棋のこと考えていました。」
「そうか、そういうのが反応したのかもな。
歩兵、王将、馬、槍、龍王、確かにこの世界の連中が好みそうなキーワードが入っている、、」
「将棋! やろ、やろ☆
あたしも好きだったんだ!
小学校の頃、学校で敵なしだったんだよー!」
「あ、でも駒が、、」
「目隠しでやろーよ!
あたし目隠し指せるよ!
7六歩☆」
こいつ、いきなりだな、、
だがヒナコが初手を口にして指した瞬間、部屋の空気が変わった、、
少しぞくっとした、、
アユミだ、
先ほどまでの泣き虫はかけらも感じさせない、
アユミからそこいらの兵士など比較にもならないほどの気が出ている。
さらに『空間掌握』ほどでは無いが、空間認識系の力も発動している。
それもこの部屋の全域に、だ。
ちなみに将棋の出来ない俺は二人が何をやっているのか全くわからない。
目隠しで指せるヒナコもすげーな、ちょっと見直した。
「うぅぅ、参りましたぁ、」
ヒナコの投了まであっという間だった。
「アユミちゃんつよいねぇ、てんで叶わないや」
「お前、、、
空気とか、何か違和感とか感じなかったか?」
「え? なにが?」
…まあ、こいつの真骨頂は、超アウトレンジからの圧倒的火力による殲滅だろうから、こういうのを感じる力は必要ないんだろう。
「アユミ、将棋を指している時、どんな感じだった?」
「久しぶりだったので、、
でもあっちの世界の頃より、ずっとクリアに盤面とか打ち筋がわかったような気がします、、」
そうか、スキルの発動のことはあまり分かっていないか、
しかし先ほどの感覚、いったいどれだけの潜在能力を持っているんだろう、、
などと考え込んでいたら、
「あの、、
フミオ様」
「ん? どうした?」
「一局指したらお腹が空いて、、」
「おお、そうか!
食え、ほらお椀貸せ、今度は具沢山にしてやる。
何杯でもおかわりしろ!」
スキルを発動したんだ、魔力も消費してるだろうし、そりゃ腹が減るだろう。
もともと『健康な体』を望んで召喚されたんだ。
食べることさえできれば、回復も早いのだろう。
「ありがとうございます」
恥ずかしそうに笑いながら、椀を差し出す。
アユミがやっと笑った。それが今日のいちばんの収穫だ。
「そういや、ヒナコ、お前自分の国の宿とか陣とかないのか?
うちは俺の希望で単独行動してるんだが。」
「ないよ☆」
「は?」
「うん、わたし、国には所属してないから。
召喚された国がゲスくってねー、
女を召喚したら、襲っていうこと聞かせるようなとこでね、
わたしも神殿の手引きで国王に襲われそうになったから神殿ごと殲滅しちゃった☆
てへ☆」
うわー、マジかよ、後でどこの国か調べとこ。
よかったな、うちのゼノラウト王、召喚したのが俺で、、、
「ん? 待てよ、じゃあ今晩どこ泊まるんだ?」
「と☆め☆て☆」
「はひ?」
「だーかーらー、ダーリンの部屋に泊めて☆
ちなみに、賞金狙ってたのに負けちゃったから、あたし無一文。」
「……おかみさんに相談してもう一部屋取れないか聞いてくる。」
「ヤダ、この部屋がいい。アユミちゃんの面倒見たげるから。」
「う、分かったよ、何にせよ追加料金はいるだろう。
食器返すついでに話ししてくるよ。」
「というわけで、おかみさん、2名追加したいんだけど、、」
「もちろんいいさね。料金は大人2人分だけでいいよ。
ただ他の部屋は空いてないんでね、狭いけど今の部屋で勘弁しとくれ。」
「ありがとうございます」
「というわけで、二人はベッドで寝な、俺は床で寝るから。」
「ヤダ、一緒がいい。」
「はぁ? いや、そうは言ってもなぁ、、」
「あの、わたしも、
そのできればフミオ様と一緒に、、」
「……最初に一つだけ言っておく、俺には婚約者がいる、、」
「キャー、ロマンチック☆! いつ結婚すんの?!」
「半年後だ、、」
「ど、どんな方なんですか!フミオさま!」
「う、、、栗色の綺麗な髪をしていて、俺には勿体無い美人だ、、」
「キャー、のろけー☆」
「キャー、フミオさまったら、キャー」
う、、こういうの苦手だ、
アユミが元気になったのはいいが、枕を抱いてキャーキャー言う二人に、たじたじになる。
「わたし、2号さんでいいよ☆」
「だが、断る!!」
「ねーねー『俺、この戦いが終わったら……』って言ってみ☆」
「お、おまえ! 俺に『死ねっ!』て言ってる? なあ!!」
「「キャー、キャー」」
ヒナコとアユミが抱き合いながらベッドの上を転げまわる。
そんなドタバタを繰り返した挙句、二人とも手ぐらいつながせろと、なぜか床に3枚布団を敷いて並んで寝ることになった。
ヒナコはイビキをかいて速攻で寝た。
時々飛んでくる裏拳が鬱陶しい。
一回みぞおちに食らって、ごふっ、となった、、
アユミは俺の袖を掴んで離さない、
時々震えたりビクついたりしている。
今までの路上では安心して寝れなかったのだろう。
そっ、と右手で抱きよせてやったら、俺のわきにしがみついてきて、やっと安心したようにおとなしくなった。
そうして夜が明けた。
やべぇ、、
まじ、やべぇよ、、
これから帝国最強の勇者を相手にするのに寝不足だ、、、
『となりのにゃにゃにゃ』が気になります、、、




