62. アユミ
ヒナコに勝った(?) 俺は医務室でぼんやりしていた。
闘技場で倒れ、運び込まれてしばらく寝ていたらしい。
「ぐおー、ぐおー」
ん? 隣のベッドでトモナリが寝てる?
医務官がトモナリが負けて運び込まれてきたことを教えてくれた。
第2試合の勝者は帝国の勇者、ユウキだ。
速射系の攻撃で、あっさりとトモナリをボコって勝ったとか。
トモナリは何の技も出させてもらえなかったらしい、、、
トモナリ、早くて正確な動きの相手には弱いからなあ、、
まあ、生きていて何よりだ。
次の相手は勇者か、
強そうだなぁ、雷系の魔法、バンバン撃ってくるとか聞いた。
でもヒナコほど、強いのかなぁ?
ヒナコより、強い奴が想像できん、、
「ダーリン☆ リンゴ食べるぅーー?☆」
うお! ヒナコだ! 医務室に押しかけてきた。
「このリンゴ、おいしーよ☆」
と言いながらナイフでリンゴの皮をむくが、身より皮の方が厚い、、
「貸せよ」
と言って、リンゴとナイフを受け取る。
スッスッと薄く、細く、長く、皮をむく。
「うわぁーダーリン凄い! さすがウチの主夫☆」
プチっ、あ、2mほど続けていたのに切れた。
「ごめんね、集中してるのに話しかけて、、」
「いや、いいよ、暇だったから助かるよ」
「ほんと! ダーリン嬉しい!」
「…ヒナコ、なんで俺のことダーリンて呼ぶの? 俺の名前知ってる?」
「…ごめんなさい、、闘技場で呼ばれた名前、覚えてないの、、、
でも、私より強いの、ダーリンしかいないから…
ごめんなさい、、」
ヒナコがうつむく。
「俺はヤマナ フミオ、
こっちではフミオ ゼン ヤマナ、
よろしくな、ヒナコ、
ダーリンでもいいけど名前は覚えてくれよ。」
「!! フミオ、、
ありがとうダーリン☆ はい、あーん!」
ヒナコがリンゴを手で持って近づけてくる。
リンゴ、蜜が入っていて甘いなあ、、
何とか回復して、宿への道を歩いて帰る、
ヒナコがついてくるので日本にいた頃の雑談をしながら歩く。
「へー、ダーリン雪国出身なんだ〜☆、私は九州だよ」
「ぁ、、す、すみません、、」
擦り切れたようなかぼそい声が後ろから聞こえた。
話しかけられた事もわからないぐらいの小さな声だ。
振り返るとボロボロの服に穴の空いた靴、ボサボサの髪の子供が立っていた。
10歳とちょっとぐらいの年齢だろうか?
明らかに栄養失調、見える腕と脛は骨と皮ばかり、
目は虚ろで、見えているかあやしいほどだ。
「あ、あの、、
すみません、、
何か、
食べ物を、、
分けて、
いただけ、
ない、でしょうか?」
ふるえながら、ひとこと、ひとことを必死で絞り出している。
顔には殴られた様なあざがある。
話しかけられて殴る輩もいたのだろう。
「私も、、
召喚、
されて、、」
先ほどの俺たちの会話で、召喚戦士とわかったのだろう。
「ヒナコ、リンゴまだあるか?」
ヒナコがリンゴを出してくれた。
道の端に座らせ、俺は片膝をついてリンゴを渡す。
「食えるか?」
リンゴを両手で受け取り、かじろうとするが、噛む力もない。
歯を当てるだけで精一杯、歯も、リンゴを持つ腕も震えている。
「小さく切ってやるから、貸しな。」
「ぁ、、、」
歯型のついたリンゴを受け取り、皮をむいて、ナイフで指の頭ぐらいの大きさのかけらにしてから口に入れてやる、
「あわてるな、ゆっくり噛むんだぞ」
少しずつ噛む、またひとかけら、口に入れてやる。
少し上を向いて、目を閉じてゆっくり噛む、
コクンと飲み込む、
少しずつ、ひとつずつ、口に入れてやる、、
子供の目から涙が溢れてくる。
やがて、リンゴを1個食べ終わる頃、
「ーーーーぁ、わあぁぁぁあん」
俺のコートにすがって号泣し始めた。
さっきまでは泣くだけの力もなかったんだろう。
「ずいぶんその子に肩入れするんだね、、」
「この子は、たぶん、、
いや間違いなく俺と同じなんだよ、見てすぐに分かった。」
「同じ?
召喚者って事?」
「それだけじゃない、
いや、後で説明するよ、」
「俺は、フミオ ゼン ヤマナ、
ゼノラウト王国の召喚戦士だ。きみの名前は?」
俺のコートにすがりついたまま、嗚咽する子供の背中をさすりながら質問する。
「アユミ、、
サトウ、アユミです、、」
「わかった、アユミ、一人きりなのだったら、、一緒に来るかい?」
「え?」
と目を丸くしたアユミが俺の顔を見上げると、
懸命に首を縦に2回、振った。
「顔、見せてごらん。」
殴られた跡のアザにそっと手を添え、
『ヒール、、』
ゆっくりとヒールをかけて治してやった。
今のアユミは普通に歩くことが出来ないので、俺のコートでくるんで、左手で抱きかかえて運んでいる。
アユミは震える両手を、俺の首に回してしがみついていた。
俺の宿の、らんぷ亭へ戻ると、
「あれ、まぁ、何を拾って来たんだね? この人は?」
とおかみさんが訝しげな顔で言う。
ビクッとしたアユミがギュッと俺の首にしがみついて震える。
「すまない、この子は俺の関係者なんだ。
悪いがこの子が着れそうな古着があれば売ってくれないか?
後はお湯とバケツとタオルを貸してくれ。」
「お湯? すぐ沸かすからちょっと待ってな、
服は娘が子供の頃着てたのがあるからあげるさね。」
「ありがとう、恩にきる」
「いいさね、帝国闘技大会の戦士がうちに泊まっているだけでも鼻が高いんだ、
しかもあんた今日勝ったんだって?
今日の試合見てた泊まり客が、教えてくれたのさ。
このまま優勝しちまってくれよ!」
おかみさんが力こぶを作ってウインクする。
「そうでーす!
ダーリンは最強の召喚戦闘機であるこの私、ヒナコを破ったのです!
私の爆撃に耐え、機銃掃射も魔法でかわして勝ったのです!
優勝候補筆頭なのです! キラッ☆」
「あんれまぁ、今日カミナリや地震があったのかと思ったら、あんただったのかぇ?」
おかみさんが呆れている。
召喚戦闘機ってなんだ?
お前みたいのが何機もいてたまるか。
それに俺は試合には勝ったけど勝負は完敗してるし。
「ヒナコ、すまん、アユミのことお願いできるか?」
「いいよ~」
お湯の入ったバケツとタオルを俺の部屋に運び、ヒナコにアユミの事を頼む。
アユミはヒナコに体を拭いてもらい、おかみさんから貰った服を着せてもらう。
俺はその間に宿の厨房を借りて粥を作っていた。
薄めの粥だ、塩加減に気をつける。
粥を俺の部屋に持って行きヒナコとアユミと3人で食べる。
「ゆっくり食べるんだぞ」とアユミに言う。
俺は普段、メシはかっ込むタイプだが、この時はアユミに合わせてゆっくりとスプーンを口に運んだ。
粥だけだが、暖かい食事は久しぶりだったのだろう、食べながらアユミはボロボロ泣いていた。
「ギブミーカロリー!」とか言ってる大飯食らいの戦闘機は無視だ、無視。




