58. 隣町の領主
テリクスをゼノラウト王国の一団が出発した。先頭は10騎のテリクス騎馬隊、そして騎乗したヤマナ、その後ろは王国親衛隊に囲まれた国王、王妃の馬車が続く。ヤマナは皮鎧の武装の上から、紺色のコートを羽織っている。
一団がレガト砦を通る時、ハルバルト始めとした砦の守備隊が国境の門の左右に、剣を捧げながら整列していた。
「「「団長!!ご武運を!!」」」
「ありがとうお前達! 最高の餞け(はなむけ)だ!」
一団が通り過ぎると兵の一人が言った。
「ハルバルト隊長、団長なら楽勝でしょう! 顔も明るかったし!」
「……そうか、お前にはそう見えたか、この数ヶ月、団長は死にものぐるいで稽古をしていた。剣だけでなく、魔法や新しい技も試していたようだ。
帝国闘技大会は甘いもんじゃない、帝国の勇者を始め、とんでもない連中が大陸中から集まるんだ。それこそクロトやトモナリを簡単にあしらうような連中だ。
団長はサバサバした感じだったが、あれこそがこれから死地に赴く勇士の姿だ。」
「そ、そうなのですか。」
遠ざかる一団の背中を見ながらハルバルトはつぶやく。
「ご武運を、、」
一団はデルハルト領内に入り、草原を抜け、森を抜け、最初の都市、ツェルペに入る。都市に入る時、先頭の騎士が旗を掲げた。紺の暗い生地に、鮮やかなオレンジの太陽が昇る姿を描いた旗、テレシア騎士団の旗だ!
旗を見た民衆が色めき立つ!
男達が旗の後ろの騎士に気がつき、野太い声で叫ぶ!
「ウォォオ!団長ー!!」
「男の中の男!ヤマナ団長オ!」
「団長オオ!!団長オオ!!」
女性達が馬車のゼノラウト王家の紋章を見て黄色い声で叫ぶ!
「テレシア様万歳!」
「キャー、テレシア様ー!」
「テレシア騎士団万歳!!」
手を挙げながらもヤマナがつぶやく、
「俺のファンてゴツイのしかいねぇ、、納得いかねぇ、、」
一団は都市の中心にあるこの地方の領主の館についた。馬車からテレシアが出てくると、
「「キャーーテレシア様ー!」」
黄色い声がますます激しく沸き起こる。
「ようこそおいで下さいました、ゼノラウト8世陛下、テレシア王妃様、ツェルペの領主、セルンドでございます。」
「おお、世話になるぞ、セルンド。」
「よろしくお願いしますわ、セルンドさん。」
「はい、誠に光栄の極み、どうぞお入り下さい。」
王と王妃が侍女と親衛隊の数名と共に屋敷に入っていく。
ヤマナは自分の配下と共に屋敷周辺を見回っていた。時々、『空間把握』で周辺に怪しい者が隠れていないか索敵する。
ぐるっと回って屋敷の正面に帰ってくると、玄関の前に帽子をかぶった子供がいた。じっとヤマナの顔を見つめてくる。
「ん? どうした? ボウズ、」
「ボウズじゃないやい! リリアだい!」
「そ、そうか、すまんリリア、、」
女の子だったらしい、、ヤマナは気まずそうな顔をして頭をポリポリかく。
「団長さん?」
「おお、俺を知ってるのか? そうだ、ヤマナ団長だ。」
「ギルさま元気?」
「お、ギルファングを知ってるのか?」
「うん、森の中を逃げていて迷子になって泣いてたら助けてくれたんだ。」
「そうか、あいつは元気だぞ。会いたいか?」
「うん!」
「わかった、この旅が終わって、ゼノラウトに帰ったら、ギルファングをよこすよ、リリア、きっとだ!」
「うん! 約束だよ!」
「リリア、ヤマナ様と話してたのか?」
「あ、お父さん!」
セルンドだ。
「ヤマナ様、中に入られませんか? お茶を用意させていただきます。」
「ああ、ありがとうセルンド殿、では入らせて頂きます。」
ヤマナは陛下達とは別の部屋に通された。ヤマナはセルンド、リリアと向かい合ってソファに座る。
「デルハルトとこの子リリアを助けていただき、誠にありがとうございました。テリクスでいただいた暖かい食事は一生忘れられません。
私はあの時、デルハルト王付きの騎士として、陛下と共にテリクスに逃げておりました。妻とリリアが逃げて来ていないとわかった時、本当に絶望しました。
後で聞いたのですが、妻は、、リリアを逃がすためにオトリとなってクロトに、、、」
セルンドが大きく息を吸い、涙を流す。
「ヤマナ様がトモナリ様と民を助けてテリクスに戻られ、その中にリリアを見つけた時、私はもう一度希望を取り戻しました。
そしてあの草原での騎士の誓い、ヤマナ様の暁の光を見て私は確信しました。ヤマナ様ならあの絶望的に残酷で強力な大軍を破ってくれると。
レガト砦前の戦いもです、私はトモナリ様についておりました。
クロトを倒したのはトモナリ様ですが、そこに至るまで導き、最後はデルハルトのためにトモナリ様にお譲りになられた事はデルハルト兵は皆分かっております。
あなた様こそがこの国のそして私たち親子の恩人です。」
「買い被りすぎさ、なんとかうまく回せただけだよ。クロトもトモナリの必殺技じゃなきゃ倒せてないさ。
あと、同じ領主なんだから、様づけで呼ぶのはやめてくれ、セルンド殿」
「ならば、 ならば団長とお呼びするならば良いでしょうか?
私もテレシア騎士団の一騎士です!」
「……分かった、セルンド、我が団員として誇りに思うぞ。」
「はっ、ありがとうございます! 団長!」
「時にセルンド殿、頼みがある。すでにデルハルト王とも話していることなのだが、」
「はい、聞き及んでおります、街道及び宿場町の整備ですね。」
「そうだ、これからは、住んでる人のためにも、旅人のためにも、街道を整備し、安心して商売や旅が出来るようにしたい。そのためにもセルンド殿の方でも動いてもらいたい。」
「こちらこそありがたいです! このツェルペが街道の拠点となり、栄えるのは間違いないでしょうから!
もうすでに宿場町を作る土地の候補は考えております。 よろしくお願いします、団長!」
「ああ、帝都から帰ったら、是非とも案内してくれ。」
ヤマナとセルンドは、街を発展させるための意見を出し合い、夜遅くまで話し合った。
セルンドの膝には、大人たちの話に疲れてしまい、スヤスヤ眠る愛娘リリアの姿があった。




