54. さんすう
その日、俺は砦の執務室でテリクスの人口、生産力、食料の備蓄、難民の数、などの大量の情報と格闘していた。
本当に修行どころではない、一気に膨れる人口に見合うための仕事と収入や住居などを用意するのに頭を悩ませていた。
幸い、テリクスは田舎で、土地と水はある。
大学のころ、工学部で数学は得意だったし、この世界ではスキルの『高度情報処理』で脳の処理能力にブーストがかかっているのは助かるが、、
くそ、こんなことなら政治学や経済学も受講しとくんだった!!
「師匠! 剣を教えてくれ! 」
レオルだ、、
「お前、、、学校はどうした? 」
「勉強なんてつまんないよ! 」
「お前、今、俺が何をやっているように見える? 」
「紙たくさん読んでて楽しいか? 師匠? 」
ゴンッ!!
レオルの頭にゲンコツを落としてやった。
「楽しいわけねーだろ! このアホ!
お前らを1年食わせるための計算してたんだよ!
だいたいここは領主の執務室だ!
どうやって入って来た! 」
「いってーー、
入り口は入れてくんなかったから2階の窓から、、」
ゴンッ!
「いってーー! 」
「お前、文字は読めるか? 」
「少しなら、、」
「ちょっと待ってろ」
[ もんだい
レオルくんはいちにちに、パンを4つたべます。
ルルちゃんはいちにちに、パンを3つたべます。
なかのいい2人は、これからいっしゅうかんのたびにでることになりました。
さて、パンはいくつ、よういしなければいけないでしょうか? ]
「わかった! 7つだ! 」
ガゴンッ!!
「いってーーーーー!! 」
「アホか! このバカ弟子! ルルを殺す気か!
学校へ行って先生に教えてもらってこい!
理解できるまで稽古はつけてやらん! 」
「わかった! 」
そう言ってレオルは問題用紙をつかんで窓から飛び降りた!
ここ、3階だぞ!
うお、ヒラリと4つ足で着地し、学校の方へ駆けていく。
あいつ、獅子獣人とか言ってたけど、ただの猫なんじゃ、、
「エリスせんせー! 答え、教えてくれ! 」
「あら、どうしたの? レオルくん」
パトナから来たレオルくんだ。
いまはヘレンが教室で『読み書き』を教えてるので、別室でお茶を飲んで休んでたら飛び込んで来た。
レオルくんは妹のルルちゃんと一緒に先週、孤児院に入った。
フミオさんは彼を弟子にしたと話してくれたわ。
「これの答えが知りたいんだ! 」
……あの人の字だ!
なんてかわいい問題!!
しかも、レオルくんとルルちゃんの似顔絵付きだ!
「ぷっ、クスクス、、」
「なんだよ、何がおかしいんだよ、先生!」
「ご、ごめんなさい、 あ、あの人がこっ、このかわいい問題を、 クスクス、おかしくって。」
「なんだよ、まったく。早く答え教えてくれよ。」
「ダメよ、あの人があなたのために一生懸命考えた問題なんだから。
あなたが考えないとダ~メ。」
「ちえ、わかったよ。どう考えればいいか教えてくれよ。」
「そうね、あなた達2人が、1日で食べるパンはいくつ?」
「7つだろ、そう答えたら、『ルルを殺す気か!』 と言ってぶん殴られた。」
「ぷっ、くっくっく、 あっははは!!
もうダメ!!!
なんて面白い師匠と弟子なの! 」
「なんだよ、、もう、」
「ちゃんと読みなさい、旅は何日かかるの? 」
「いっしゅうかん、と書いてある。」
「ちょっとおもてへ行って、小さい石をたくさん拾ってらっしゃい。」
「?? わかったよ、」
そう言ってレオルくんは小石を拾いに行ったわ。
「拾ってきたぞ! 」
「じゃあそこから、1日目に食べるパンと同じだけの石を出してちょうだい。」
「ええと、ひとつ、ふたつ、、、 はい、ななつ。」
「旅は何日?」
「いっしゅうかんだから、ななにちだ! 」
「2日目に食べるパンと同じだけの石を出してちょうだい。」
「ええと、ひとつ、ふたつ、、」
「3日目と、4日目と、5日目と6日目と、7日目のぶんも出してちょうだい。」
「ええと、3日目をひとつ、ふたつ、、、」
そうしてレオルくんは1週間分のパンと同じだけの石を並べたわ。
「はい、1週間分のパンは全部でいくつかな? 数えてみて。」
「いち、にい、さん、、、、
よんじゅういち、よんじゅうに、、
よんじゅうきゅう!
49だ! 」
「正解よ! これでルルちゃんが旅の間、お腹を空かせずに済んだわ!」
「あ、、、」
レオル君が一瞬、はっとしたかと思うと、ポロポロ泣き出した、、
「どうしたの? レオルくん? 」
「あ、、あぁ、、わかった、、
俺が、、
バカだから、、
だからルルは今までひもじい思いをしてたんだ、、
今まで、それもわかんなかったよ、、
ごめん、ルル、ごめん、、
うわあぁぁあん、、わあぁぁ、、」
私は泣いているレオルくんを抱きしめながら頭をなでる、
「優しい子ね、レオルくんは。
フミオさんは、あの人はね、優しさを大事にしてるし、強さも必要だとわかっている、
でもそれだけじゃ助けられないことを一番わかっている人なの。
今も執務室で頑張っているはずだわ。」
「うん、、 何十枚の紙を見ながら、ウンウンうなってた、、」
「あら、見て来たのね。
何千人も何万人もの人達を、何百日も何年も、パンだけじゃなく、肉も野菜もお魚も、そしてお金も、、、
みんなを守るための兵隊さんの数も、武器も、訓練の時間も、とにかくすごくたくさんのことを考えてるの。
先生にも、とてもとても考えられないような、とっても複雑で、とっても難しい問題、
あの人は、その問題に対して、誰よりも優しい答えを出そうとしているの。
だからわかってあげて、
あなたに勉強しろというのは、いじわるじゃないのよ。」
「うん、わかった。おれ、勉強するよ、ルルをつらい目に合わせたくないから。」
「いい子ね。じゃあ次の授業はさんすうよ、
そろそろ前の授業が終わるわ、教室にいらっしゃい。」
「うん、わかった、せんせー」
本当にいい子だ、教えがいがあるわー




