53. 難民
デルハルト王から俺宛に書簡が届いた。
帝国の介入を前にパトナでは内乱が起き、争いを避けるために民が流出しているとのことであった。
さらに、2千人規模の難民の集団が、比較的豊かとされるゼノラウト目指してデルハルト国内を南下しているらしい。
デルハルトは先の戦の事もあり、パトナ国民を受け入れるつもりは無いようだ。互いの国民感情も有るのだろう。
後1週間ほどで国境の峠に着くのでは無いか、という事であった。
難民対応のために、国境を越えてデルハルト領内の草原まで出ても良いか? と手紙を送った所、
『いついかなる時でも、ヤマナとその軍はデルハルト領内のどこでどう活動しても良い』
という内容のお墨付きを貰った。
少々行き過ぎのような気はするが、ありがたく頂いて置こう。
1週間後、俺は300名程度の軍を率いて国境の峠に近いデルハルト領内の草原にいた。
前には2千人、いや、もっと多いのでは? と思われる、難民たちがいた。
人々はテリクス軍を見て怯え、足を止めていた。
「お前達の中で、代表者はいるのか?!」
副官のデメトリオが呼びかける。
が、人々は顔を見合わせるばかりで、誰も出て来ようとしない。
「あの、この中には特に代表などいません、みんなで逃げて来たんです。」
と子供を背負った女性が、おそるおそる言う。
「そうか、では答えられるものが答えれば良い。
私はテリクス軍の副官、デメトリオ。
お前達の目的を知りたい!
お前達はどこへ向かっている?」
「みんなテリクスへ行きたいと思っていました、、
テリクスの領主様なら何とかしてくれるかもと、、」
また別の女性が答える。
よく見ると、若い男がほとんど居ない、、
戦争で死んだのか、、
デメトリオが俺の顔を見る。
しょうがないな、先ほど答えてくれた女性に俺から問いかける。
「聞かせてくれ、なぜテリクスなんだ?
テリクス軍はパトナ軍を壊滅させた。あなた方の父や夫、息子のカタキでは無いのか?」
「カタキだなんて、誰もそんな事は思っておりません、逆に申し訳ない気持ちでいっぱいです、、
テリクスの領主様は民のために命をかける優しい方だと聞きました。
パトナはデルハルトで酷いことをし、ゼノラウトにも攻め込もうとしました。
テリクスの領主様はパトナ軍を外道の軍と呼んで討ちました。
こんな私たちでも許して頂けるのか不安で、、」
「もう許してるよ。」
「え?!」
「それに元々あなた方には何の罪もないよ。
もう問答は良いだろう。
こんな遠くまで私を頼って来たんだ、
よく頑張ったな。
私がテリクスの領主、ヤマナだ!
テリクスはあなた方を受け入れる! 」
わっ! と上がる歓声、人々は安心してその場に座り込む。
よっぽど疲れて居たんだろう。
座り込んだまま泣きだす人も少なからずいる。
「みんな、座って聞いてほしい。
もう夕暮れだ。夜に峠を越えるのは危険だし山の上はかなり冷える。今夜はここで野宿してもらう。
毛布を持って来たから後で受け取ってくれ。今夜は寄り添いあって夜露を凌いでくれ。
食料も少しだが持ってきた、今から夕食のパンとりんごを配る、1人1つずつ受け取ってくれ。
それからけが人はいるか?
いたら俺がヒールをかけるから遠慮なく言ってくれ。」
そう言って兵士たちにパンとりんごを配らせる。
「ありがとー! 兵隊さん!」
「ありがとうございます、ありがとうございます。」
夜、軍を6隊に分け、人々が魔獣などに襲われないよう囲むように布陣する。
翌朝、
「さあ、この山さえ越えればテリクスだ! もう少しだけ頑張れ!
小さい子供や、怪我しているものは遠慮なく荷車に乗れ。
さあ行こう!」
「「「はい!!」」」
こうして3千人弱の難民を連れて峠を上り始める。
ふと見ると、金色の毛の獣人の少年が、小さな妹を背負って山道を上っていた。
周りには知人もいなさそうなので気になって話しかけた。
「お前たち、二人だけか? 」
「父ちゃんは戦争で死んだ、母ちゃんはパトナの町で、国の兵士に殺された。
だから、俺がルルを守るんだ!」
「そうか、えらいな。」
「なあ、あんた強いんだろ?
トモナリもケンタもクロトもあんたがやっつけたんだろ?
俺に、戦い方を教えてくれよ! 」
「おまえ、名前は? 」
「レオル! 獅子獣人のレオル! 」
「そうか、レオル、お前は何のために強くなりたいんだ?
敵をやっつけるためか? 」
「ちがう! ルルを守るためだ! 」
「そうか、でも強いだけじゃルルは守れんぞ。」
「え? 」
「ルルがお腹を空かせていたらお前はどうするんだ? 」
「ええと、、それは、、」
「その強さで誰かから食べ物を奪って、ルルに食わせるのか? 」
「そんなことしない! 」
「でも、このままじゃ、ルルはひもじくてつらい思いをするぞ? 」
「ええと、ええと、、どうすればいいんだ? 教えてくれよ! 」
「誰も教えてくれないさ、自分で考えるんだ。
現に今、俺は、お前たちみんなをどうやって救おうか、どうやって食べさせようか、そればかり考えている。
十分な食料がテリクスにあるわけじゃない。
でも、俺はお前たちを救うと決めたんだ。
まずはゼノラウトの国のみんなに、お願いして回るつもりだ。
『お願いします、食べ物を分けてください。』 そう言って頭をさげてね。
幸い、俺にはこんなとき助けてくれる仲間がいる。
つぎにお前たちがどうやって食べ物を作れるか、なんの仕事ができるか、どうやってお金を稼げるようになるか、どうやって自分たちで食べていけるようになるか、考えるんだ。
そうしなければ、いずれお前たちは食べられなくって死んでしまうからな。
俺は救うと決めたんだ、だから考え続けるんだ。」
「考えれば、、何とかなるのか? 」
「はっはっは、おまえが考えても無理だろうよ。」
「じゃあ、どうすればいいんだ! 」
「まずは勉強しろ。
例えば、おまえとルルの2人が、1日にパンを1人3つ食べるとする、
10日間食べるのにパンはいくつ必要だ?」
「ええと、ええと、、、」
「60個だよ、結構必要だろ?」
「……勉強を教えてくれるのか?」
「ああ、まずは勉強しろ、テリクスには学校がある、そこで先生に学べ。
ルルと一緒に通えるぞ。
ルルを守るには仲間も必要だ、友達もたくさん作れ。
いざというとき助けてくれるのは仲間だ。
もちろん強さも必要だぞ、剣を習いたいなら俺の道場に通え。
忙しいぞ、テリクスについたら。」
「!! よろしくお願いします! ええと、、」
「師匠と呼んで構わんぞ。」
「よろしくお願いします! 師匠! 」
「はっはっは、任せろ、我が弟子よ。」
「師匠、戦士たちとの戦いの話を聞きたい! です。」
「いいだろう、じゃあまず、トモナリと戦った時の話からな。
俺はトモナリとの決闘のわずか3日前に召喚されてだな……」
「レオルにぃ、たのしそう、」
「あ、ルル、すまん起こしちまったか?」
「ううん、いいの、たのしそうなレオルにぃ、ひさしぶりにみた。 よかった。」
「そ、そうか、おれ、そんなに楽しそうだったか、、」
「ししょーのはなし、わたしももっとききたい。」
「いいぞ、じゃあ次は、テリクスのおいしい食べものの話をしてやろうか?
お腹すいちゃうかもしれないけどな~ 」
「あはははは、おねがい。」
そんな会話をレオルやルルとしながら、昼にレガト砦の横を抜け、夕方頃、テリクス湖畔に辿り着いた。
ここにはすでに難民キャンプとしてテントを500張、張って用意していた。
そして、あらかじめ協力を頼んでいた屋台村による炊き出しが民達を待っていた。
「よく頑張った! テリクスへようこそ!
テリクスの人達の好意の炊き出しだ、1人1杯ずつもらいなさい。」
炊き出しに並ぶ長い列、寒くなろうとする季節に、暖かい食べ物を食べる人達の嬉しそうな顔。
領主としてこの笑顔を守りたいと、心底思った。




