51. 峠の名所
フリード殿下がテリクスを立ち、帝国へ帰る日が来た。
デルハルト側の草原までお見送りをすることにした。
峠へと登る山道を殿下と馬を並べて話をする。
「テリクスの屋台は良いな、また来たいものだ。」
すっかり屋台村が気に入ったらしい。
「ありがとうございます、殿下にそう言って頂けて、街の連中も喜びますよ。」
「それにしてもここは要害の地だな、ここを力攻めする奴の気が知れん。」
「はい、おかげでこちらは助かりましたよ。半分の軍で迎え撃っても、損害は軽微でしたから。」
「うーむ、ヤマナにはもっと大きな軍を率いさせて見たいな。帝国に来ぬか?」
「お誘い、ありがとうございます。ですがあの街の住人を見捨てることは出来なくて。
殿下が必要とするときは一軍を率いて馳せ参じますゆえご容赦を。」
「おお、そうか! その時は頼むぞ!」
やがてレガト砦に到着する。
「ううむ、なるほど、最後はここで暗黒剣士クロトと雌雄を決したのだな。」
「はい、あの岩壁のくぼみをご覧ください。岩肌と地面に無数の大きな切り跡があるでしょう、あそこでトモナリがクロトを討ち取りました。」
「ほお! どれ。」
殿下が馬を降りられた。
殿下の親衛隊が、見学していた6、7人の旅人たちを追い払おうとする。
「よい! 私も1人の見学者だ。無粋な真似をするでない!
そなたたちはどこから来たのだ?」
「わたし達はデルハルトです。」
「わ、わわわ、わたしは、てて、帝都からです、ここ、こ皇太子殿下、、」
かわいそうに、帝国からの旅人がチワワのようにプルプルしてる、、
「そうか! 私も帝都からだ! こんなところまでよく来たな!」
そう言って旅人の肩をバンバン叩く。
もうやめたげてよお、旅人のライフはそろそろゼロよ、
「おい、トモナリ!」
「はい、でんか!」
「この人たちと握手してやれ!」
トモナリが馬を降りてニッコリ笑い、旅人達に手のひらを広げて両手を差し出す。
旅人達は滂沱の涙を流しながら我先にとトモナリの指を握る。
手がでかいから、1人につき指一本握る様な感じだ。
「「「トモナリ様、ああトモナリ様、トモナリ様」」」
流行ってんのか? それ?
「はっはっは! ファンは大事にしろよ! トモナリ。」
「はい、でんか!」
峠のちょっと広くなったところに、出店が出ていた。
「どうだ? 儲かっているか?」
「こ、これは領主さま! す、すみません! こんな所に店を開いてしまって!」
店主はバツの悪そうな顔をする。
「いや、とがめるつもりは無いんだ。何を売っているんだい?」
「は、はい、お茶と、ふかした芋を串に刺して焼いたものを売っております!」
「1つ貰えるか? いくらだ?」
「2つだ。」
殿下が横から出て来た。
「は、はい、2つで銅貨18枚です。」
銅貨10枚で百円ぐらいだ。
ちなみに銅貨百枚で銀貨1枚だ。
「ほう、安いな、どれ。」
あ、殿下、イキナリですか?
先に毒見させてくださいよ。
「ほふほふ、おお、甘くて熱くて美味い!
これはテリクスの芋か?」
「はい! テリクスの西にある、私の村で取れる芋です! 自慢の芋です!」
「ううむ、美味いな、、ヤマナよ、この芋を帝都に送れるか?」
「殿下がおっしゃるということはそんなに美味しいのですか? この芋は?」
「ああ、私が今まで食べた中で一番美味い芋だ!」
「そうですか。わかりました、定期的に殿下宛で帝都へ送りましょう!」
「おお、ありがとう。」
「デメトリオ、紙とインクはあるか?」
「はい、こちらに!」
俺は紙に、『レガト砦横での営業許可、フミオ ゼン ヤマナ』と書いて店主に渡してやった。
「これからも、この峠で旅人達に、安くて美味いものを出してやってくれ。
ここにちゃんとした店を建てても構わん。
あと、後日、村に案内してくれ。芋の購入について話がしたい。」
「はい! ありがとうございます! 領主さま!!」
峠の道を下っていく、
「この山道に連なるクロト軍を横の山から急襲したわけだな、なるほど。山賊などは出てこないだろうな?」
「殿下の軍を襲う無謀な賊などいないでしょうが、
ちょっと待ってくださいね。
『おーい! ハルバルト!!』」
「はっ!!」
右手の山の上からハルバルトが顔を見せる。
「このように山の中の警備も万全です。」
「おお! なるほど! さすがだな!」
「あれはレガト砦の指揮官、ハルバルト、山の中の戦闘では右に出るものはおりません。
先の防衛戦の、地形を生かした戦術は彼の提案を採用したものです。
この右手の山の中は広大な戦場となっており、誘われた敵軍は帰ってくることはできません。」
「ほう! 是非とも彼と近くで会ってみたいな!」
「わかりました。
おい! ハルバルト! 殿下がお呼びだ!
そこに部隊ごと降りてこい!」
「はっ!!」
ドドドドド!
急峻な崖を雪崩のように部隊が降りてくる!
「皇太子殿下! 参上つかまつりました!」
ハルバルトと30名ほどの隊員が、皇太子殿下の前に整列し、膝をつく。
「おお! これがクロト軍を崖下に叩き落とした部隊の突撃か! 素晴らしい! 良いものを見れた。
よし! 褒美に私の短剣をやろう!」
そう言って殿下が腰の宝剣を差し出す。
「えっ?!」
ハルバルトがびっくりして俺の顔を見る。
「頂戴しろ、この上ない名誉だぞ、ハルバルト。殿下はクロトの軍を撃破したお前の武勇に、とても感心されておられる。」
「ははーっ!」
ハルバルトはうやうやしく宝剣を受け取った。
そして坂を降り、やがてデルハルトの草原に着く。
「皇太子殿下、ゼノラウトに来ていただき、誠にありがとうございました。
また、私の配下の者へのお気遣い、そして我が友リカードの件、この恩は忘れません。」
「ヤマナよ、私も楽しかったぞ!
テリクスの町も良かった!
美味いものも食えた!
ヤマナのおかげでリカードにも会えた!
勇士達にも会えた!
実に楽しいゼノラウト訪問であった!
また、親衛隊長のケビンを弟子にしてもらい、面倒も見てもらった!
こちらこそ礼を言うぞ、ありがとう!」
「はい、名残り惜しゅうございますが、半年後、またお会いいたしましょう!」
「ああ! 帝国闘技大会は帝国を挙げての催しだ!
ちなみにこの大会期間中に、戦士を出している国に攻め込む国があった場合、帝国がきっちり潰すことになっているので安心して来てくれ。」
「そ、それは安心ですね。
恥ずかしくない闘いが出来るよう、鍛え直してまいります。」
「おお、期待しておるぞ!ヤマナよ!」
「はい、殿下!」
「先生!」
「ケビン!」
「名残惜しいですが、帝都に帰ります。」
「ああ、しっかり殿下にお仕えしろよ。基本の足さばきと剣の振りはもう使いこなしている。稽古を怠るなよ。地道な稽古こそ、上達への近道だ。」
「はい! 先生!」
「ニホントウは手入れを怠るなよ、斬撃においては右に出るものはないが、いたみやすい。」
「はい! 先生!」
「頑張れよ、次は型を教える! 帝都でまた会おう!」
「はい! 先生!」
ケビンの頬を涙がつたう、
一番弟子との別れは本当に名残惜しく、俺もあやうく涙をこぼしそうになってしまった。




