19. 領主の屋敷
ゼノラウト王国の北部は山地が広がっている。このうち、テリクスの北から東そして南東にかけては、険しい山脈があり、それは海まで続いている。
ゼノラウトの北東にある、ヒューレ王国とは、この山脈の稜線上を国境としていた。海側は俺の領地ではないが、それでもテリクス地方はかなりの距離の国境線を持っている。
俺は3日間かけてこの国境線を見回りに来ていた。警備に穴はないか、攻め込まれやすいところはないか、などを見るためでもあったが、ある情報の確認のためというのが一番だった。
途中、村々を周り、色々と村の状況を聞いたり、子供達にお菓子を配ったりした。どこの村でも歓迎してくれ、山で取れる山菜や、果物を干したものや、干し肉、チーズなどをお土産としてもらった。
孤児院の子供達、喜ぶだろうな、お土産の袋を馬の両側に下げて、テリクスに帰った。
「エリス! 帰ったぞ! お土産あるんだ! 子供達と食べよう!」
馬上の俺を見上げるエリスは、、
泣いていた。
「どうした! 何があった! エリス。」
慌てて馬をおり、エリスに駆け寄る。
エリスは、何も言わず、俺を見て泣いている、
訳がわからない、、
「はぁ、やっぱりそういうことですか、、、」
声がした方を向くと、見慣れない、若い女性の神官が立っていた。
「初めまして、領主さまですね、エリスさんの後任としてゼノの神殿より派遣されました、ヘレンと申します、よろしくお願いします。」
「後任?」
「はい、その様子ではエリスさんは何も言っていなかったようですが、、 エリスさんは王都に帰還するよう神殿から命令が出ています。私が来たのはどうやらお邪魔だったようなのですが、、」
「エリス、王都に帰る話は本当なのか?」
「……ごめんなさい、、言い出せなくって」
エリスがポロポロ泣きながら話す。
「いいんだ、、いいんだ、、
それで、いつ出発するんだ?」
「……今日にでも、」
「こんな時間に出るつもりか? すぐに夜になるぞ。明日にしろ、俺も一緒に王都に行く。」
「え?!」
「安心しろ、任務放棄じゃない。ちょうど陛下に報告しなければいけない件がある、ちょっと予定を早めるだけだ。」
「でも、教会の私の部屋はもう引き払って、、」
「領主の屋敷がある。普段砦に寝泊まりしているから、あんまり使ってないが、部屋はたくさんある。土産もあるんだ、晩御飯は屋敷で食べよう。」
兵士たちが遅れてやって来た、
「王都行きの予定を早めて、明日出発とする! 陛下への謁見願いの早馬を直ぐに王都へ出せ。あと、明日の朝までに馬車を一台用意しろ!」
「「はっ!」」
「あいさつが遅れて申し訳ない、ヘレンさん、テリクス地方の領主、フミオ ゼン ヤマナです。よろしくお願いします。」
「は、はい、よろしくお願いします。」
「よろしければ、今日は屋敷で夕食をとりませんか?」
「おやしきー」「いいなー」
「おう、お前たちも来い、ヘレンさんの歓迎会だ。お泊まりの用意して来いよ、俺んちに泊まっていけ。」
「「わー!」」「おとまりー!」
屋敷の隣にある砦の食堂からパンとスープ、野菜を分けてもらい、運び込む。土産にもらって来た果物とチーズ、炙った干し肉、珍しい木の実などをみんなで囲んで夕食にする。子供達は11名、みんな教会の孤児院の子達だ。
エリスは、泣き止んだが、うつむいたままだ。
「さ、今は食べよう、エリス。このヤギのチーズは美味しかったからもらって来たんだよ。広い高原で放牧しててな、水と緑が美しい村だったよ。」
そういってカットしたパンに野菜とチーズ、干し肉を挟み、エリスに渡す。
「……はい、」
やっとエリスが食べてくれた。
「このワインは士官用のいいやつだ。さ、乾杯しよう、子供達は温めたミルクな、
ヘレンさん、テリクスへようこそ!」
「「「かんぱーい!」」」
「ありがとうございます、領主様! 赴任地でこんなに歓迎してもらったの初めてです!」
「ヘレンさん、テリクスをよろしくお願いしますね、」
やっとエリスも少し笑った。
賑やかな夕食になった。
結構な身分の人間を泊める事もあるので、屋敷の客間はかなり豪華で広さもあった。こんな部屋に泊まって良いの? とヘレンさんは戸惑っていたが、子供達と一緒にいてやってくれ、と言って泊まってもらった。
ちなみに屋敷での俺の寝床は、暖炉の前のボロソファだ。豪華な寝床は合わないのだ。
ソファに腰掛けて、瓶に残ったワインを飲んでたら、エリスが来た。
少し右に寄って、エリスが座る場所を空け、微笑む。
「ごめんなさい、、」
座ってうつむき、謝るエリス、
肩に手を回して抱きしめた。
「いいんだ、、
俺も、ごめん、
ちゃんと言えてなかったね、
あのさ、俺、こんなに年上だし、見てくれもおじさん全開だし、、
だけど、、
俺の彼女になってよ、エリスが好きなんだ。」
……ずっと、言えなかったことを口に出す。
「はい、、
はい、 」
と言ってエリスは泣きながら、俺の肩に顔をうずめた。




