134. おいてけぼり
「おいて、、、かれた、、」
テリクスのヤマナの屋敷で、暖炉の前のソファーに座り、呆けた顔で呟くアユミ、
髪はぴよーんと何本かアホ毛が飛び出しており、だらしなく脱力して口を半開きにして座っている。水色のワンピースの裾がはだけて右足の太ももがあらわになっており、実にだらしない、、
「デメトリオさん! どういう事だよ! 俺たちをみんな置いて師匠は戦いに行ったのかよ!」
レオルがテーブル越しにテリクスの副官であるデメトリオに向かって叫ぶ。
ぴょーーん、
レオルが叫ぶとソファーに座っているアユミのアホ毛がさらに一本はねた。
テーブルにはエルフのデメトリオとその向かいに4人の子供たち、獅子獣人のレオル、ルル兄妹、エルフのシェリー、ロイス姉弟が座っていた。
子供とは言ってもレオルとシェリーは随分と成長し、獅子獣人のレオルは青年と言っても差し支えないほど大きくなっていた。顔の横から顎にかけての毛が伸びてきておりこれがいずれタテガミになる事を感じさせる。
「ああ、そういう事だ。ヤマナ様の命令書によると、テリクス領軍は速やかに精鋭を選抜し、ゼノラウト王都に近い軍港で、旗艦『クイーンテレシア』に乗れとの事だ。
テリクス領軍はテレシア騎士団の中央軍としてゼノラウト軍、ヒューレ軍、デルハルト軍と合流し大陸東部の航路を使ってテイヤマの救援に来い、と書いてある。
テレシア騎士団の総指揮官には団長代行としてハルバルトが任命され、テレシア様を支えるべく、ヒナコと共にすでに王都に向かった。」
「で、私たちの事は?」
すでに精霊ビリディエットのアームカバーを装備したエルフの少女、シェリーが尋ねる。シェリーは、エリスにもうすぐ届くほど身長が伸びており、少女から大人の境目を感じさせる容姿に成長していた。
「それは命令書ではなく、私への手紙の中で書かれている。『出来れば子供たちを戦場に連れてくるのは避けてほしい。なんとか説得してくれないか?』との事だ。」
「それ、言っちゃっていいのかしら?
デメトリオさん。」
「どうせ説得されるお前たちじゃないんだろ?」
「あったり前さ! 船を奪ってでも行くさ!」
拳を握りしめてレオルが叫んだ。
「はあ、ヤマナ様、すみません、こいつらの説得はやっぱり無理ですな、、」
「可愛い生徒たちが行くなら、引率の教師が必要だろう?」
ガチャリと広間のドアを開けて、首に白いスカーフを巻いたボサボサ頭の長身の男が入ってきた。
「「「ソウジ先生!!」」」
アユミ以外の子供達が立ち上がる。
「やった! 師匠と互角に戦えるソウジ先生がいれば百人力だ!!」
ベアダイン戦役の後、元ベアダインの召喚戦士ソウジはテリクスの学校の教師となっていた。体育と高学年向けの数学を教えており、体育の授業においてはその身体能力の高さから床での宙返りや鉄棒での大車輪など様々な体操の技を見せ、子供達から大人気であった。
数学の方は、高学年に税の計算から測量に使うような計算まで、役に立つが難解なものを教えており、一部の脳筋な子供達からは授業そのものが嫌われていた。
「あ、遠征組は俺が船の上で授業するから。」
「げええぇぇ!」
ぴょーーん、
レオルが叫ぶとアユミのアホ毛がまた一本はねた。半開きの口からはヨダレも垂れそうになっている。
「あら、授業はソウジ先生からのだけじゃないわよ。」
「「「「エリスせんせー!」」」」
ソウジの後ろから広間に入ってきたエリスに、子供達が飛び上がるようにして叫ぶ。
「帰りが遅くなってごめんなさいね、デメトリオさん。私とソウジさんの授業を他の先生に引き継ぐのに時間がかかっちゃって。」
「いえ! 奥様! 問題ございません!」
「エリスせんせーもいくの?」
「エリスせんせー!」
ルルとロイスが大はしゃぎだ。この2人も成長し、身長はすでにアユミを抜いている。というか、アユミの外見が全く成長していないだけなのだが。
「困ったわね、ロイス君も行くつもりなの?」
「うん! 魔法でどかーん、ずごーん、とやってみんなを守るんだ!」
「じゃあ道中、ロイス君は私と魔法のコントロールの練習ね。あと、回復魔法も勉強しましょう。」
「うん! お願いします!」
「さ、みんな、明日は朝早くに王都に向けて出発よ! 馬車や食料は手配してあるから、今夜のうちに各自の旅支度を整えて頂戴!」
「「「「はい!!」」」」
元気な声で応えるレオル、ルル、シェリー、ロイス。
4人の返事の影響か、ソファーのアユミの口からヨダレがツーーっと垂れる。
「ど、どうしちゃったのかしら? アユミちゃん?」
「エリス様、放っておいても大丈夫です、今までずっとフミオ様に付いていたので、自分が特別だと思っていたところに、置いてきぼりをされたものだから、ショック受けてるだけです。」
シェリーがアユミを横目で見ながら応えた。
「そう、、
アユミちゃん、テイヤマまでの航路とテイヤマの地図を持ってきたわよ。
籠城しているあの人の救出作戦とか練りましょうか?」
エリスが呼びかけると、
ギギギギギ、、、
虚ろな目、半開きの口、跳ねまくったアホ毛のまま、ソファーの肩越しに首だけで振り向くアユミ、、
((怖っ!!))
ドン引きするレオルとシェリーの兄、姉組、
「すご〜い!」「どうやってやるの?」
人外の動きに喜ぶルルとロイスの妹、弟組、
テーブルの上に広げられた地図にガバッと覆い被さり、血走った目で凝視するアユミ、、
「うふふ、、うふ、うふふふふ、、
フミオ様、今助けてあげますからね、、
まずは囮にレオルを突っ込ませて『獅子咆哮』で敵の注意を引きつけて、やられている間に、、、」
「怖っ! 俺、囮かよ!」
「……放っておきましょう、こうなったら何も目に入らないわ。ロイス、おいで、遠征の準備するわよ。」
「うん! おねーちゃん!」
「レオルにぃ、私たちも準備しよう。」
「あ、ああ、そうだな。」
「レパーラねぇの荷物も持って行ってあげよう。」
「お前、気がきくな。」
「だってレオルにぃとレパーラねぇ、いつも何か抜けてるんだもん、、」
「そうか、スマン、、」
「じゃあアユミちゃんの着替えは、、」
「あ、私が用意します。エリス様の手を煩わせる事もないので。」
「そお? じゃあシェリーちゃんお願いね。」
「はい、エリス様!」
「ぐふふ、ここでこう、騎馬隊が敵をかすめるように突っ込んで、
離脱後、追ってきた敵を窪地に誘い込んで殲滅して、、
フミオ様への道が開けたら、重装歩兵と共に進んで、、
『フミオ様! 救出に参りました!』
『おお! アユミ! 助かった、愛してる!』
うふ、うふふ、、うふふふふふ、、」
ヤマナがソファーで寝るときに枕にしているクッションを抱きしめながら、アユミの妄想は続くのであった。




