132. 緊急動議
通商関係の議論を行なっている中、紛争担当のカルバオーレが会議室に入り、小走りで議長席にやって来て俺に耳打ちをした。
「新たな紛争の発生です! 議長!」
「紛争?! どこで発生した? 規模は?」
「そ、それが、、かなり高強度の紛争でして、、
攻めてきたのは北部諸国のさらに北にある島、ビスラ公国です。
今回の会議には参加しておりません。
海を渡り、シンガット王国とテイヤマ王国に攻め込みました。」
「侵略戦争か?!」
「いえ、集まってきた情報からですと、侵略というより、殲滅に近く、、」
「何だと!!!」
ひそひそ声で話していたが、思わず立ち上がって大きな声を出してしまった。
いままで通商関係の会議を大声でやり取りしていた各国の代表たちが静まり返り、議長席を見る。
「すみません、大きな声を出してしまいまして。
たった今、新たな紛争の知らせが入ってまいりましたので、報告いたします。」
「「「「 !!!! 」」」」
この大陸会議で扱っていた紛争はどれも小規模なもので、国境線を巡った領主同士の小競り合いのようなばかりだったが、、この件はそれらとは明らかに危険度が違う。
「カルバオーレ、報告を。」
「はっ!!
5日前、ヤマネコ座の月の14日、大陸北方にある島のビスラ公国がシンガット王国、テイヤマ王国の沿岸に上陸、攻め込んでまいりました。」
「何だと!!」
「そんな!」
声を荒げるシンガットの代表と、口元を抑えて驚くテイヤマの代表イシュナ王女。
「報告を続けろ。」
俺はカルバオーレに続けるよう促す。
「はっ! ビスラ公国の兵力は、シンガットに千、テイヤマに千と共に多くないように見えますが、多数の魔獣を使役し、極めて危険な軍です。
そして、彼らの進軍は、、民衆の殲滅戦です!
占領して民や土地を手に入れようとする風には全く見えず、ひたすら人々を襲い村を焼き払っているとのことです!!」
「何だと!!」「そんなこと許されるものか!!」「ビスラめ!!」
「シンガットの沿岸部は山が多く、侵攻速度も遅いようですが、、
テイヤマは平野部が広く、道も発達しており、町を次々と滅ぼしながら進んでいるようです!!」
「ああ、ああ、、テイヤマが、、」
フラフラと倒れそうになるイシュナ王女。
テレシア王妃が席を立って駆け寄り、脇を支える。
「大丈夫よ、イシュナ、まずは座って」
「ああ、テレシア様、、」
テレシアにすがるようにして座るイシュナ王女。
「議長、で? どうするの?」
イシュナを支えながらテレシアが質問してきた。
「…紛争に対してはまず、非難に値するか議論の上その決議をとり、、」
「そんな暇、あると思っているの?!!」
大陸会議のマニュアル通りの回答をした俺を叱責するようにテレシア王妃が叫ぶ。
「言葉の通じない相手に、非難決議などなんの意味もなさないわ。
いいわ、ヤマナもフリード殿下も、大陸会議の運営側だから中々言いにくい事もあるでしょうから私が言ってあげるわ!
議長! 本件に関する緊急動議を求めます!」
ふう、テレシア様もなかなかやるようになったもんだ。
「ビスラ公国侵攻に関する緊急動議の要求を認めます。意義のある方は?」
まあ、いるはずもないか。
「では本件に関し、意見のある方は挙手を願います。」
数名、手を上げようとする代表たちがいたが、、まっすぐ天を突くように上げられたテレシア王妃の手を見て、みんな手を引っ込めた。
「では、ゼノラウト代表、テレシア様、お願いします。」
「はい、では、
提案は3つあります。
1.アルストア大陸軍の出動要請
2.民衆を救うための各国からなる義勇軍の編成許可
3.防備を固め、シンガット、テイヤマから逃げてくる民衆を受け入れて守るよう周辺諸国へ要請
この3点についてこの大陸会議が活動していただくようお願いします。」
「大陸軍だと? 小国の戦闘に、対魔族の大規模軍を動かすわけには、、」
「理由はありますわ、フリード殿下」
大陸軍の出動要請に難色を示すフリード殿下の声を遮るテレシア。
「ほう、、理由とやらを聞かせてもらおうか?」
「女のカンですわ」
「なんだと?」
フリード殿下の声に怒気がこもる。
「ふふ、カン、といいましたが根拠はありますわ、
普通の人間に魔獣を何頭も使役できるものなのですか?」
「 !! 」
「『英雄たちの時代』において、魔族を信仰し人と戦うことを選んだ人族は、魔獣を使役する者たちがいたと文献にありましたわ、
帝国闘技大会においても、数多くの魔獣を使役したあの女魔道士は魔族と繋がりがあったでしょう!
また魔族にも非常に多数の魔獣を使役するものがいると、
でしょ? ヤマナ議長?」
「……半年前に交戦した翼の魔族は、確かに数百匹の魔獣を使役していましたが、、」
意外と鋭いかもな、、テレシアさま。
「でしょう? ビスラ公国軍は明らかに人の軍とは異質なものです。魔族とは言いませんが、、後ろには何か異質なものがいるというのが私のカンなのですわ」
「わかった、カンとは言え確かに検討するに値する。アルストア大陸軍の出動をすぐに検討しよう」
「ええ、おねがいしますわ、フリード殿下。
それで2番の義勇軍ですけど、軍を出してくださる国は?」
テレシアが会議室を見回す。
「うちの国も防備を固めねば、、」「なかなかテイヤマまでは遠いし、、」
二の足を踏む各国代表たち。
「いいわ、皆さん、義勇軍の進軍や兵站だけでもお願いできないかしら?
可能な国は挙手をお願いします。」
そう言って手を前に組み、各国の代表に頭を下げるテレシア。
「軍の通過や援助なら、、」「それならうちも国王に掛け合って、」
テレシアのお願いに、手をあげる各国代表。
「ありがとうございます、みなさん」
「セルンド、リカード陛下、」
「はっ!!」「ああ!!」
テレシアがデルハルト代表セルンドとヒューレ王リカードの方に振り返ると二人が意気盛んに返す。
「テレシア騎士団、出陣よ、
目的はシンガット、テイヤマの人達を守ること。
いい?」
「テレシア様の意のままに!」「もちろんだ!」
「ああ、テレシア様、、ありがとうございます、ありがとうございます、」
イシュナがテレシアに縋り付くようにして礼を言い、涙を流す。
「礼なら今のうちに議長に言っときなさい。私は提案して、決めただけ。
転移の石板を使っての各国への伝令に、アルストア大陸軍の指揮、義勇軍であるテレシア騎士団の指揮、万一強力な敵が出た時の対応、どうみてもこれから一番忙しくなるのはあの議長よ。」
よく分かってらっしゃる、、さすが我が主君、、
「人使いの荒い事ですね、、まったく、、」
「そうね、テレシア騎士団はこっちで面倒をみるわ。団長代行はハルバルトでいいかしら?」
「ええ、彼なら任せられますね。お願いします。」
「じゃあ、団長代行は決まりね。ヤマナは転移の石板でテイヤマ、シンガットの周辺国に伝令の文を届けたら、護衛とイシュナを連れてテイヤマに飛んでちょうだい。」
「わかりました、それがよさそうですね。」
「フリード殿下は各国への要請を出しつつ、大陸軍を編成、勇者ユウキと共に大陸軍を北のシンガット、テイヤマへ進める、というのでいかがかしら?」
「……了解した」
テレシア様の提案に了承するフリード殿下。
「では、、シンガット代表のシエル伯、テイヤマのイシュナ王女、みなさんへ一言ずつ。」
テレシアが二人に促すと、シエル伯とイシュナ王女は各国の代表に頭を下げた。
「シンガットのシエル伯だ。どうか、どうか我が国と、我が国の民を助けて欲しい。」
「テイヤマのイシュナです。お願いします、テイヤマの人々を助けてください、お願いします、お願いします。」
何度も頭を下げて、その度にポロポロこぼれるイシュナの涙、、
代表たちの心を動かすには十分だった。
「テイヤマとシンガットにすぐに食料、武器を送る! がんばってくれ!」
「うちも食料を送る!」「うちは武器と軍資金だ! 遠慮なく使え!」
「では皆さん、各国の活動や支援はこの後、カルバオーレに申し出てください。
緊急事態の為、このような形になりましたが、第1回アルストア大陸会議は閉会いたします。
この危機を乗り越え、各国の団結が強まり、人々の生活に安寧が訪れることを願います。」
そう言って一度会議は閉会された。
テイヤマ、シンガットの周辺諸国の神殿に、紛争の状況と大陸会議の状況をしたためた親書を転移の石板を使って送った後、
「フリード殿下、大陸軍はお任せします。」
「ああ、急いで編成する、今回は急ぎであり兵力は1万程度になるだろう。だがユウキを中心とした精兵だ。軍が着くのは早くても5日後、何とか持ちこたえろよ。」
「はい、わかりました。では」
フリード殿下とアルストア大陸軍の編成の打ち合わせを行い、互いに分かれる。
神殿の祭壇へ行くと、テレシア王妃とセルンド、リカード王が待っていた。
「おそい!」
「う、すみません、テレシア様」
「イシュナ、、援軍が来るまでガンバルのよ、」
「はい、ありがとうございます、テレシア姉さま」
姉さま?? いつからそんな関係になったのだ? この二人は。
「でも姉さまに1か月近くの道のりを歩かせるなんて、、」
「大丈夫! ゼノラウトもヒューレもデルハルトも、船があるから!
2週間ほどで海からテイヤマに行くわ!!」
「ああ、姉さま、ありがとうございます」
いや、もうちょっとかかるだろう、、
海図を見たところでは3週間はかかりそうなのだが、、
「さあ、私たちを国まで送ってちょうだい!」
「はいはい、」
そうして、テレシア王妃とセルンド、リカード王を国まで送った。
「ケビン、レパーラ、すまんが一緒にテイヤマに来てくれ」
「もちろんです! 先生!」「了解ニャ!!」
「イシュナ王女、ではテイヤマに行きましょう。」
「はい、ヤマナ様、ありがとうございます。」
軍服を着たイシュナ王女と一番弟子のケビン、そして部下のヒョウ獣人のレパーラを連れ、帝国の神殿の転移の石板から『セントレオンの大神殿』へ飛ぶ。
さらにそこからテイヤマへ飛ぼうとしたところ、
「フミオ、ちょっと待て」
いままで姿を現さなかったセントレオンが現れ、声をかけてきた。




