125. ノミニケーション
「ふう、帰るぞ。セントレオンが氷を待ってるしな。」
「はい!」「うん!」
『堕ちた翼』との戦闘(?)後、氷河から、出来るだけ綺麗な氷の塊を探してナイフで切り出し、袋に入れた。
それにしても、あいつは何だったんだ?
それなりに強い魔族なのに小手調べだけかよ、やはり偵察か?
「帰ったぞ、ただいまー」
大神殿に帰った頃にはもう日が暮れかかっていた。
「遅い! 何時間かかっているんだ!」
「いや、山頂まで結構あるし、、魔族出て来たし。」
「知ってるよ、あんなんただの小者だ、当てどころ間違えなきゃ一撃で倒せるぞ。」
「ここにも来たのか?」
「ああ、離れたところから、この神殿の入り口を伺ってやがった。門に近づいたら一撃かましてやったんだがな。」
「そうか、、あ、ところで、入り口の門の上に、『Welcom』って書いてあるけど、『e』が足りないんじゃ無いのか?」
「え?!」
「いや、だから白い門の上にだな、『Welcom』と彫ってあるって、、」
「……ノォォオオ!! マジか?!」
「マジだ、、なあヒナコ。」
「うん☆ 中学生のとき英語どーだったの?」
「……真ん中くらい、だったと思う、数百年、間違えたままだったのか、、」
そう言って両手と両膝を床についてうなだれるセントレオン。
「頼む! 直してきてくれ!」
「あの石、強化の魔法かけてないか? 門の周りに結構落石が転がっていたけど、傷一つなかったし。」
「…そうだった、時間止める魔法で最強に硬くしてあるんだった、俺以外には無理だ、そして俺は出られない、、、」
ますます落ち込むセントレオン。
「大丈夫だって、この世界の人たちには読めないんだから。」
「そ、そうだな。」
「そうそう、それに、あたしたちみたいなのがやって来て気付いた時に楽しーじゃん☆」
アクマかヒナコ、
さらに落ち込むセントレオン、
「まあ、氷取ってきたし、飲むか?」
「お、おう、、」
そう言って、持ってきた金属製のカップに氷河の氷を入れて、ウィスキーを注ぐ。
「「かんぱーい!」」
「英語なんて大っ嫌いだー!」
こいつ、召喚された時、何歳だったんだろう?
「フミオ、ゼンの神殿で、石板や祭壇に関する言い伝えは聞いてきたか?」
「ああ、妻が神官でね、関係ありそうな事を選んで教えてくれたよ。」
「ちっ、自慢かよ。」
「ああ、自慢の妻だ、俺にはもったいないぐらいできた妻だ。」
「爆発しやがれ、、まあいい、じゃあこっち側の石板の説明だ、国が魔族の脅威にさらされた時、祭壇に祈りを捧げるのは知っているな。」
「ああ、聞いた。」
「その時、捧げる祈りは、石板を通り、対となるこちらの石板を赤く光らせる。」
「そうなのか。」
「ああ、最近は魔族と関係ない場合でも祈りを捧げる連中もいたな、当然無視するがな。」
「ん? そう言うのわかるのか?」
「ああ、石板に手を当てて向こうの様子を伺うことができるのさ、いずれ習得してもらう。」
「ああ、よろしく頼む。」
「セントレオン、ところで、過去の魔族との戦いについて教えてくれないか?」
「構わんぞ、ただ最初に言っておくが、俺の話から先入観は持つなよ。あいつらは性格も個性もバラバラだ、マジで何をしてくるかわからん、初見殺しのような奴もいた。そのつもりで備えなければいけないと思え。」
「ああ、分かった。確かに『名前持ち』の奴らは確かに個性的だったな。」
「そうだな、、俺の戦った中で厄介だったのは『完食する胃袋』だな。街も人も、土地ごと飲み込むとんでもない奴で、ただひたすらに食ってやがった。こちらの攻撃も食いやがって、仲間も何人も食われたな、、」
「どうやって倒したんだ?」
「ん? もちろんぶん殴って。」
「…先生、全く参考にならないんですが、、」
「まあ聞け、
何百発、何千発全力でぶん殴っても山より大きい奴の巨体には蚊が刺したほどの効果もなかったが、奴が『胃袋』だと言うことに気づいてな、『ストマックブロー』と叫んで胃袋破裂させるイメージでボディにぶち込んだら見る見る弱っていってだな、、こう言うのが有効打になるって事、分かるか?」
「ああ、そうか、一番最初に魔族と交戦した時、居合の『悪魔祓い』を使ったら一瞬で4体倒せたが、それか。」
「何? そんな技があるのか、ずるいな、それ。」
「俺もチートだと思うよ。ただし努力して習得した上でのチートだけどね。セントレオンの『ストマックブロー』も同じだろ?」
「そうだな。『ピー』の魔族とかいれば『ローブロー』なんかもあったんだがな、はっはっは。」
そう言って戦闘談義をしながら2人で酒を酌み交わした。ヒナコは自分も飲みながら、俺とセントレオンの飲み物を作ってくれ、アユミはつまみに持っててきたドライフルーツや干し魚をポリポリ食べていた。
「ふう、飲んだ。楽しい酒だったよ、セントレオン。」
「ああ、俺もだ、フミオ。」
「少し、仮眠して酔いを醒ます、寝室借りるぞ。」
「ああ、おやすみ。」
5時間ほど仮眠して酔いを醒ますことにした。
「ふわぁ〜あ、どれ酒は抜けたかな?」
「大丈夫です、フミオ様、『酔い』状態が外れています。」
「そうか、ありがとう、流石だなアユミ。」
『力読み』でアルコールチェッカーまで出来るとは、、
アユミ、恐ろしい子、、
「じゃあ、セントレオン、世話になった。3日後、この石板をテリクスに設置したら、また修行の続きをやりにくるよ。」
数分後、俺は1枚の石板を抱えて、ゼンの神殿への転送の石板に乗っていた。
「ああ、待ってるぞフミオ、修行の日程はまだ残っているからな。」
「はい、よろしくお願いします。」
「アユミ、君はこの先、自分の体を鍛える事を忘れるな、いくら非戦闘職でも、弱くて良いわけじゃない。せめて普通の兵士レベルまでは頑張れ。この先苦労するだろうが挫けるんじゃないぞ。」
「はい、分かりました。」
「ヒナコはとにかく魂の強化に努めろ。」
「うん、分かったよ☆」
「昔な、巨大ロボを呼ぶキャラの召喚戦士が居たんだがな、、」
「マジか?!」「ロボ☆!!」
「ああ、やめとけって言ったんだが、魂の力が足りないのにロボ呼びやがってな、、」
「…でどうなったんだ?」
「ロボの右足だけ現れた時点で、そいつ消滅しやがった。
召喚戦士のスキルは確かに強力だが、剣と魔法が主体のこの世界から外れた力ほど、自分の魂を消費するんだ。先日ここにきたユウキやトモナリはこの世界に合ったキャラで、技を使う際もこの世界の魔力などの恩恵を受けることが出来る。
だけどヒナコ、君は、、
分かっているようだけど十分気をつけるんだよ。」
「…分かった、ありがとう、センちゃん☆」
「はっは、センちゃんと呼ばれたの初めてだ。2人とも元気でな、たまには遊びに来い。」
「「はい!」」
転送の石板を起動し、光に包まれる俺とヒナコ、アユミ。
セントレオンは笑いながら手を振って見送ってくれた。
ゼンの神殿に着くと、すっかり深夜だった。祭壇の周りには4本のロウソクが灯されており、薄暗い神殿の中でふと前を見ると、毛布を羽織ったエリスが、眠ったロイスを抱き寄せるようにして長椅子に座ったまま眠っていた。
「フミオ様、、」
暗がりの中から声をかけて来たのは、シェリーだった。エリスをずっと守ってくれていたんだろう。
「シェリー、ありがとう。」
「フミオ様の命令ですから。」
祭壇から降りる俺に、片膝をついて答えるシェリー
「エリスは、ずっと待っていたのか?」
「はい、長椅子に座ったまま待っておられました。」
「そうか、、セントレオンと酒飲んで、帰り遅くなって、カミさん待たせて、、、悪い亭主だな、俺は。」
長椅子に近づき、俺はそっとエリスの隣に座った。
「ふふっ、ちゃんと埋め合わせしてあげて下さいね。」
そう言って、ロイスを抱きかかえてエリスから離すシェリー。
「アユミちゃん、ヒナコさん、行きましょう、神殿の仮眠室お借りしてますので。」
眠ったままのロイスを抱え、アユミとヒナコを連れて行くシェリー、
気を使わせたな、、
「ごめんな、待たせてばかりで、
明日はテリクスに帰ろう、、
エリス、、」
「んん、、、」
神殿の中で2人きり、
俺は眠ったままのエリスを毛布の上からそっと抱き寄せ、その温もりを感じながら、朝まで過ごすことにした。




