126. テリクスへの帰還
翌朝、ゼノラウト王都城門前に、ベアダイン戦役を終えて帰還するテリクス軍が集結していた。参謀のデメトリオに勇将ハルバルト、親衛隊のドットにジョバス、テリクスに就任してからずっと俺を支えてくれた連中が久しぶりに集まった。
帰還するテリクス軍を見送るためにゼノラウト8世陛下とテレシア王妃が王国軍を率いて城外に出てきてくれていた。
「陛下、王妃様、これよりテリクスに帰還させていただきます。」
「おお、ヤマナよ、今度はいつ王都に来てくれるのかの?」
「はい、陛下、『転送の石板』もありますし、各国との連携もありますので、これからは頻繁に王都に通わせていただきますよ。」
「エリス、ヤマナさんいつもどこか行っちゃうから苦労するでしょうけど、頑張ってね。」
「はい、王妃様、ありがとうございます、頑張ります!」
「テリクス軍、陛下に、 敬礼!!」
ザザッ!!
テリクス軍4千がそろって敬礼をする。
「これより、テリクスに帰還する! 第一陣、前進!!」
第一陣はハルバルト、第二陣は俺の率いるテリクス軍本陣、第三陣はデメトリオが殿を務める。王都からテリクスへ延びる街道沿いには、数キロにわたって市民が道の左右に分かれ、手を振って見送ってくれた。
2日後、4千の兵士たちと共にテリクスにたどり着いた。
住民たちが花束を持って出迎えてくれる、兵士の家族が父親を、息子を、夫を、恋人を見つけ、列についてくる。
「多少列が乱れても構わん、家族も列に加えてやれ!」
騎馬上からそう伝えると、家族たちがどんどん列に加わってきた。兵達は家族と手をつないで楽しそうに歩く。
ときどき身内の兵士を必死に探す家族たちを見て、胸が締め付けられる思いになる。
テリクス軍は俺と共に常に前線に身を置いていた、被害も少なくない、
……もしあの家族の身内を戦死させていたら、、、
「あなた、、、笑顔で答えてあげてくださいな。」
エリスが馬車の窓から身をのり出して、騎馬の俺に声をかけてくれた。
「……そんなにひどい顔をしていたか?」
「ええ、顔が土気色になっていたわよ。今は胸を張ってくださいな。」
「ああ、すまない、そうだな。」
市民の歓声を受けながら、城塞都市テリクスの中に入り、砦前の広場へと進む。
整列した4千の兵達と市民を前に、感謝の意を伝えるべく、壇上に上がる。
「みんな、あの激しい戦いの中、良くついてきてくれた。このテリクスを、ゼノラウトを守って共に戦ってくれたこと、本当に感謝する。そしてこの国を、民を守るために犠牲となった者たちに、感謝と哀悼の意を、、、、」
そう言って、全軍で黙祷する。
「点呼が完了し、報告が終了した班から解散してもいい、久しぶりの家族との再会を楽しんでくれ。」
そう言って壇上を下りる。
「ヤマナ様万歳!」「団長万歳!」「大神官万歳!」
皆が俺の事を称えて声をあげてくれるが、つくり笑顔で手を振って答えつつも、心は晴れなかった。
砦の執務室の椅子に座り、大きくため息をつく。
「「失礼します!!」」
デメトリオとハルバルトが入ってきた。
「ああ、ご苦労だったな、二人とも。
……デメトリオ、教えてくれ、何人出陣して、今日までに何人帰ってきた?」
「はい、ヤマナ様、テリクス方面軍は、6135名が出陣、そして今日までにテリクスに帰還したものは4049名、王都で治療中のものが619名です。」
「……そうか、、」
「団長、そんな苦しそうな顔をしないで下さい、皆団長と共に、この国のために、民のために、家族のために、誇りを胸に戦い抜いたのです。犠牲になった者たちも、今の団長の悲しそうな顔は見たくないでしょう。」
「ああ、すまん、ハルバルト、、そうだな。」
そうして深呼吸を2つする。
「よし、もう大丈夫だ! 戦も終わった! 今日から平常運転に戻し、テリクスのために働くぞ!」
「「はい!!」」
「失礼します。」
エリスだ、
テリクスに来た時から、エリスには教会や病院といった施設を任せている。
「報告します、領主直轄の施設についてです、教会、学校、病院は特に問題ありません、神官のヘレンと、見習のリンがしっかり守ってくれました。
孤児院については、現在、ベアダインからの子供たち50名を受け入れる準備を進めております。」
「おお、ヘレンさんとリンに、ありがとうと言っていたと伝えておいてくれ。あと、ベアダインの子供達には、保護者がいるはずだが。」
「はい、話に聞いていたソウジさんがついています。」
「そうか、ソウジには後から会いに行くと伝えてくれ。安心してくれ、あいつはベアダイン軍だったが、優しすぎるぐらい優しい奴だ。」
「ふふ、貴方がそこまで言うなんて、、安心しましたわ。それではこれから教会に行きますので失礼します。」
「ああ、エリス、よろしく頼む。」
「失礼します☆」
ヒショコモードのヒナコが入ってきた。その黒のレディススーツにメガネはどこから用意した?
「報告します☆ ベアダイン戦役が始まってから今日までの領内の経済についてです。兵士による労働力の不足はあったはずですが、残った者が一丸となって頑張ったようで、農業は予定の収穫通りで減産なし、食品加工と工業製品はかえって増産していたほどです。」
「そうか、、戦場の後方でも、みんな必死になって頑張ってくれていたんだな。ありがたいことだ。」
「ところで、、決裁を控えた案件が526件あります。あとで必ずオフィスに来てくださいね。」
「ぐ、、、わかった。一仕事してからオフィスに行く。」
「デメトリオ、砦の1Fで一番頑丈な部屋はどこだ?」
「そうですね、軍議を行う大会議室と、その隣の小会議室でしょうか?」
「そうか、では小会議室に『転移の石板』を設置し、小会議改め『転移の間』にする。」
「はっ!」
俺とデメトリオは小会議室に行き、床の赤いカーペットをはぎとる。
下から現れた、石の床の上に、『転移の石板』を置くと、俺はその上に両手を置き、床と一体化させて固定するイメージで魔力を注ぐ。
ズ、ズズズズズ、、
『転移の石板』が床の石に沈み込むように融合していき、しっかりと固定された。
「よし、ちょっとセントレオンのところへ行ってくる。」
「セ、セントレオン様のところへですか!」
「ああ、お前も来るか?」
「は、はい!!」
デメトリオを連れて、『セントレオンの大神殿』へ転移する。
「よお、フミオ、石板の設置ができたようだな?」
「ああ、うまく設置できたよ。ありがとうセントレオン。」
「それで今日は誰を連れてきたんだい? 見たところ、エルフのようだが。」
「ああ、俺の片腕のような奴だ。怠け者の俺を支えてくれる大事な存在だ。
デメトリオ、セントレオンに自己紹介しろ。」
「はっ! デメトリオと申します! セントレオン様に会えて大変光栄です。エルフの島出身で、150年ほど前にこの大陸に渡り、放浪しておりました。今はゼノラウトで仕官し、ヤマナ様の元で副官を務めさせていただいております!」
なんと、、エルフは長命というが、そんなに年上だったのか。
「そうか、頑張れよ。」
「はっ!」
「今回は石板の動作確認だけだからすぐ帰るよ。明日の朝また来るよ。」
「ああ、明日はしっかり修行して行けよ。」
「わかった、よろしく頼む、セントレオン。」
砦に戻ると、帰還を聞きつけた新ヴィエラ村の村長リュカが来てくれていた。
「りょーしゅさま! お疲れさまでした!」
「おお、リュカちゃん、ありがとう。デルハルトとヒューレの行軍を支援してくれたんだってね。本当に助かったよ。」
「えへへー」
うん、この子の笑顔には本当に癒される。
「村の運営で困ったことなど無いかい?」
「うーん、あのね、村に住む人がたくさん増えてね、最初に作った柵の内側はもういっぱいなの、、」
「な、なんと! そんなに発展したのか?」
「うん、今はデルハルトやパトナから来た人たちも住み着いて、1000人を超えてるよ。」
もう村じゃなくて町になりつつあるな、凄いな、、
「学校には通っているのか?」
「うん、毎日村のみんなで集まって、テリクスの学校に登校してるよ!」
「そうか、えらいな。」
リュカの頭を撫でる。
「リュカちゃん、新ヴィエラ村やテリクスのためにいろいろ動いてくれて、本当にありがとう。村の柵に関しては、すぐに拡張工事を行うよう指示しておくよ。」
「はい、ありがとうございます! りょーしゅさま!」
うん、みんな頑張ってくれている。
さて、俺もオフィス行って働くかぁ、ヒショコと大量の決裁案件が待っていることだしな。




