114. 大神殿
「『セントレオンの大神殿』ですか。」
魔族による大陸軍への襲撃を撃退した翌朝、俺はフリード殿下と朝食を取りながら話をしていた。
「うむ、大陸東部、帝国とゼノラウトの間にあるアルパウト山脈の麓にある、不思議な神殿だ。かつてセントレオンが作ったと言われているが、中に入れたものは誰もおらぬ。」
そう語って飲み物を口にするフリード殿下。
「入れない? 入り口がふさがれているのですか?」
「うむ、ふさがれているというか、、誰も通れない光に包まれているのだよ。ヤマナならあるいは、と思うのだが、どうだ、行ってもらえぬか?」
「……殿下が口にされるということは、行くことが決定してるかと思うのですが、、」
「おお! そうか! わかってくれるか!!」
わからいでか!!
殿下には、これまで何度ハメられたか、、
「はぁ、、テリクスに帰るのがまた遅くなるなぁ、、」
「ん? なんだ、領地の事を気にしているのか? むしろヤマナにはこの大陸全体の事を考えてもらわないといけないのだが、、」
「殿下、、私はそんなに大きな人間じゃないですよ、、この子たちが、飢えず、ご飯を食べられるように、、その位の事しか考えていませんから、、、」
そう言って左右に座っているアユミとルルを撫でる。
「その心が大事なのだよ、きっと。残念ながら私には、飢えとか暴力を受けるなどの体験はなくてな、、」
いやいや、あんたが飢えたり暴力を受ける状況って帝国終わるから。
あ、、でも昨日はヒナコが本陣にいなかったらやばかったかも、
「はぁ、、しょうがないですね、、それで、『セントレオンの大神殿』までは何日ほどですか?」
「そうだな、ここから馬で10日ほどだ。」
「……結構ありますね、、」
また帰るのが遅くなるなぁ、、いつになったら愛しのエリスと家でゴロゴロできるんだろう、、
「それで、いつ出発の予定ですか?」
「うむ、午後にはここを発とうと思う、よいか?」
「うーん、ベアダインの後の事が気になるのですが、、」
「問題ない、帝国の文官、武官を派遣しよう。ゼノラウト軍への言伝があるなら午前中に済ませてくれ。」
「はあ、それでは朝食後に言伝と命令書を託させていただきます。」
「うむ、先発隊はすでに出発させてある、昼食前までによろしくな。」
朝食を食べた後、すぐにゼノラウトの陣に戻り、ベアダイン首都、ベアディアに残してきたゼノラウト軍への命令書の作成に取り掛かった。
内容は、ベアダインの復興に関して帝国の文官武官に引き継ぐこと、
引き継ぎ後、『クイーンテレシア号』一隻を残して、ゼノラウトへ引き上げ、陛下へ報告書を渡すこと、が主な内容だった。
「やっべーー、書ききれねーー、間に合わねーー!!」
焦って命令書を書く俺、、
「ダーリン☆ 手伝うよー!」
「おお、ヒナコ!! 頼む! 陛下への報告書は俺の筆跡でないとまずいから、命令書頼む!
ええと、
1.帝国の文官武官へのベアダイン復興業務の引継ぎについて
2.ゼノラウトへの引き上げについて
3.陛下への報告について
で、こうこう、こういった感じで、頼む!」
「わかった☆ 任せて!!」
おお! 流石ヒナコ! 文武両道!! 即戦力!
「師匠、なんか手伝うか?」
「ない! ルルたちと表でおとなしく待ってろ! このテントから離れるなよ!」
スマン、レオル、今はおまえらにかまってられんのだ、、
2時間後、、、
「ふう、、やっとでけたーー、、」
「ダーリン乙~☆ こっちの確認お願い~、」
「おう、どれどれ、、いつも通り完璧です! ヒショコさん。」
「わーーい☆」
やっぱり敵にしろ、書類にしろ、最高の殲滅力だな、
味方でよかった、ヒナコ
書類仕事でぐったりしているところへ、
「ヤマナ様、伝令です!!」
「ぉぅ、、、」
「フリード殿下が本陣でお呼びです!」
「ぉぅ、、わかった、すぐ行く。」
まったく、、人使いの荒い殿下だ、、
「殿下、お呼びですか?」
丘の上の本陣のサーカスの様なテントの中のフリード殿下の控室を訪れた。
「おお! ヤマナ、いやな、ヤマナが昼にもここを発つことを話したら、『名前持ち』の魔族を倒したそなたと、ぜひ交流したいと各国の文官武官が騒ぎ出してな、ちょっと会ってやってくれないか?」
「はぁ、かまいませんが、、」
「おお! 良かった! ではこっちだ!」
そう言っていくつかの間仕切りを通り、巨大なテントの中央にある大きな空間に通された。
「おお! ヤマナ様! 私はシンガットの武官、XXXXです。」「ヤマナ様! こんにちは! タキアの大使、〇〇と申します、」「初めましてヤマナ殿! 某はミヤシロの将軍、△△、、」
各国の文官武官が挨拶をしてくる。俺は適当に挨拶をかわしていた。
「ヤマナ様! お久しぶりでございます! テイヤマの将校、イシュナです!」
おお、この青年は覚えているぞ、闘技大会で優勝した時、一番最初に握手した青年貴族だ。
「おお、イシュナさん、闘技大会ぶりですね!」
そう言って握手を交わす。
「は、はい! またヤマナ様と握手できるなんて! 感激です!」
「ん? ヤマナ、イシュナ王女と知り合いなのか?」
「は? 王女?」
「ああ、イシュナはテイヤマの王女だぞ、将校として派遣されているがな。」
……線が細くてやたらイケメンだと思ったら、、男装の令嬢というやつか?
なんか、そう言われてみれば、、やたら目がキラキラしてるし、髪艶いいし、、女性だと言われればやたら美人に見えてきた。
いやいや、俺にはエリスたんがいる!
「ヤマナ、セントレオンには妻が12名、、」
「いや殿下、その話はもういらんですから。」
「あの、、皆さんにお願いがあります。」
各国の文官武官を前に口を開く。
俺はこの話をしたいがために、大陸中の文官武官が集まっているところに来たんだ。
「魔族の脅威もありますが、今はベアダインの国民を救ってやっていただけないでしょうか?
場違いな話だということは重々承知しております。
独裁政治で民を苦しめていたトウセ・ジウマは倒しました。
でも、ベアダインでは、今も飢えて苦しむ人々がたくさんいます。
皆さんの国の、国民の負担にならない程度でいいので、、食料を分けてやってください。
お願いします!」
そう言って腰を折り、深々と頭を下げる。
「ヤマナ様、ヤマナ様はなぜ貴方を傷つけたベアダインのために頭を下げるのですか?
私は、、尊敬するヤマナ様が刺されたと聞き、テイヤマの軍を率いてベアダインに攻め込む事も考えました。」
イシュナ王女だ。
「ありがとう、イシュナ様。今回の戦争は、独裁者トウセ・ジウマが起こしたものであり、ベアダインの国民に罪はない。むしろ、刺された俺より、もっともっと辛い目にあわされているんだ。それに俺は、理屈じゃなくこの人たちを助けたいんだ。どうか、どうか皆さんの力で救ってやって欲しい、そして今ベアダインの人々を救うことは、、、必ずこの大陸の為になると俺は信じている。」
そう言ってまっすぐイシュナ王女を見つめ返す。
イシュナ王女はにっこり笑い
「わかりました、テイヤマは穀倉地帯、すぐにベアダインに食料を送りましょう。復興のための人員もです。活動場所や割り振りなんかは、帝国の方でうまくやってくれるんでしょ? フリード殿下。」
「ああ、もちろんだ、イシュナ、心配することはない。」
「シンガットも穀倉地帯だ! 国王に上奏してすぐに食料を送ろう!」
「セイシンは果物が採れるころだ! 運んでる間に熟成してうまくなるぞ!」
「フクトーは何でもうまいぞ! ゼノラウト経由で南へ運ばせてもらう!」
各国が口々に援助を申し入れてくれる。
連れてきたベアダインの3人の将校たちを見ると、涙を流し言葉も出ないようだ。
「ありがとう、皆さん、本当にありがとう。」
「うむ、各国の援助でベアダインを再興しようではないか。外務卿、調整頼むぞ。」
「は、殿下、承りました。」
「さて、そろそろ出発の準備をするか、ヤマナよ。」
フリード殿下と共に本陣のテントを後にする。
「はい、殿下、それにしてもありがたいものですね。」
「うむ、この演習は大陸中の国々の結束を高めるために実施したのだが、ベアダイン救済もあって思った以上に結束を高めることができたな。ヤマナのおかげでまったく有意義なものであったよ。」
「本当は、全部殿下の計算ずくなのでは?」
「いやいや、こうなればいいな、といった考えではあったがな。まさか『名前持ち』の魔族が出てくるとは思わなかった。ヤマナがいなかったら危ないところだったな、はっはっは!」
「……えーと、あまり笑えないんですが、、」
俺は頬をひくつかせ、引きつった笑いで答えた。
「よおーし! 『セントレオンの大神殿』に向けて出発するぞ! 次も頼んだぞ、ヤマナ!!」
「は、はぁ、、、」
テキトーなんだか緻密なんだか、
この先も嫌な予感しかしねぇよ、、まったく。




