113. 名前持ち
『枯レタ指』と名乗る魔族との戦闘が始まった。
ビギギガギ、ギィギ、グギギ、、
軋むような不快な音を出して、節くれだった指を伸ばしたり、突いたり、薙ぎ払ったり、10本の指がそれぞれ別の生き物のように襲いかかってくる!
「うおっとぅ!」
危ねえ、背中からの薙ぎ払いの回避が遅れ、大きく避けたところに突きが来た!
避け損ねて、肩の防具をこするように黒い指が通り過ぎて行く。
バサササ、、
なっ! 皮鎧の肩当てが、黒く変色し、バサバサと枯れ葉のように崩れ落ちる。
「危ねえな、これ、、」
《ドウシタ、ヨケルダケカ?》
「ご心配、どーもっ!」
フィオナに雷をまとわせて切ってみる。
ボロボロと崩れる黒い指、だが効果は全く伝わらず、また新しく生えて次々に襲いかかってくる。
「全く、、随分と元気に枯れてんなぁ!」
近づく指を斬りはらいながら、憎まれ口を叩く。
次は聖気をまとわせて斬ってみる、白い光の粉となって崩れる指、だが、その先には伝わらず、4~5cmほどの所で黒い粉になって崩れ、また再生する。
「やっぱり、本体を斬らんとダメか、、」
『枯レタ指』と戦闘しながら、周りの状況の把握にも努める。俺に向かってきた手下の魔族どもは、ユウキとレパーラが飛び出して抑えた。トモナリも戦闘に入ったか。
なっ、レオル達も戦闘に入った?
おいおい、大丈夫か?
雑魚の1匹ぐらい、襲って来た所で俺の盾になってもらうだけなんだが。
生き残れよ、、お前ら、、
《ナカマガ、キニナルカ? ウゴキガ、ワルク、ナッテルゾ》
「……まぁ信じているからな、あいつらも強いし。」
黒い指を避けながら話す。
そういや、俺の師匠は、道場で俺と稽古しながら、周りで稽古している弟子ども20人余りの一挙手一投足を把握していたっけ、、、
お、ユウキが勝った。
なんだあの技、魔族相手にはほぼ無敵じゃねーか、流石は勇者だ。
何? レパーラが分身しただと?!
アユミの新技か!
おお! やるなぁ、、
それに比べて、、俺の弟子どもは鍛え直しだな。技を放った後、集中力が切れて敵の攻撃受けるなんざ、論外だ。
《……ナメテルノカ、キサマ、、コッチヲ、ミロ!》
「ん? いや全力でやってるさ、いっぱいいっぱいだよ。」
《……マアイイ、ソロソロ、、シネ!》
ザザァァアア!!
おお! 指が増えた!
と言うか、指が幾筋にも先別れした!!
数千の針が、全方位から襲いくる!!
バシュッ!!
とっさに『空間掌握』を発動、聖の気の白い雷で迎え撃つ。領域に入り込もうとした細い数千の針が消滅した。
「お前こそなめてんの? 攻撃力分散させて上手いことやったつもりか? 『枯レタ頭』」
《ッ! キサマ!!》
今度は指を2本、束ねて突きに来る!
ズバッ!
事も無げに切り裂く。
「なあ、飽きたし、そろそろ終わらせていいか?」
《!! ヤッテミロ!!》
やっすい挑発に乗るねぇ、、
枯れてるくせに以外と熱い奴だ。
『空間掌握』を発動したまま『枯レタ指』に向かい真っ直ぐ歩いていく。
前後左右上から襲いかかる黒い指は切り捨て、時折襲いくる針の束は聖の気を元に作った白い雷で吹き飛ばす。
《……キサマ、ホンモノ、ナノカ?》
「本物? 何のことだ? 俺は正真正銘、フミオ ゼン ヤマナだよ!」
ヒュカッ!
『枯レタ指』に接近した俺は、奴の腕を切り落とす!!
《ッ! ガッ! アア!!》
やっとダメージ通ったかよ、、
そのまま斬りつけようとすると、奴は体をバラバラにほぐして避ける!
そして10本の枯れた木が俺を囲むように現れ、一斉に尖った枝で攻撃して来た!!
フィオナはゆるく構えたまま、『空間掌握』の領域に触れた枝を次々に切り落とす!
足元から反応、地中からか?! 地面にフィオナを突き刺す!
《グガガ!》
『枯レタ指』が苦しんだような反応をする。なるほど、根、か。一本の木に近づき、白く光るフィオナで根元を突き刺す。
カッ!
《!! ッ!》
バサバサと崩れ落ちる一本の黒い木、なるほど、、
2本目の木に近づく、こいつは、、ちょっと上に逃げたな。 ヘソのあたりの高さの木の幹を突き刺す。
《!!》
またバサバサと崩れ落ちる黒い木。
《キッ、キサマッ! ナゼワカル?!》
「んー、何でだろうなぁ? ま、いいや、早くやられろ。」
3本目、4本目の木の幹や根を連続で突き刺す。 少しやりあったから、何となく感じるんだよなぁ、、
お前がそこに居るって!!
フィオナに貫かれ、次々に崩れていく黒い木。
《ウ、ウアァァァア!!》
あと3本になって『枯れた指』の抵抗が激しくなる、が、7割削られた後じゃ遅いよ。
良かったな、恐怖はお前の好物だろ?
『多敵刀!』
一瞬で三方向への突きと斬撃を放つ!
《………》
『枯レタ指』は崩れ落ち、チリとなって消えていった。
お、トモナリとレオル達も勝ったようだ。レパーラは自分の相手を倒した後、俺に加勢しようとしたが、必要ないことを感じたのか、レオル達の守りと、辺りの警戒に当たってくれていた。
出来る奴だ、レパーラの評価改めなきゃな、よし、給料はずんでやる。
ドゥルルルル!
皇太子殿下の天幕からはヒナコのバルカンの音が響き、バラバラにされた魔族が数体、叩き出された。流石ヒナコ、あっちも大丈夫そうだな。
「よし、トモナリ、お前まだ余裕あるな! 先鋒の陣はユウキが当たって居るから、お前、左翼の陣に行け、レパーラは俺と一緒に右翼の陣だ、その後、後衛の陣に行く! 油断するなよ!」
「うん、わかった!」「了解ニャ!」
[ ちょっと待って、レパーラ。」
アユミの『以心伝心』だ。俺にも聞こえるように伝えて来た。
「なんニャ?」
[ これを!]
レパーラの目の前に光が集まり、短めだが立派な剣が現れる。アユミの次元魔法による転送能力か。
[ フリード殿下の宝剣です! 事情を説明したら、これを使ってくれって!]
「ありがたいニャ!」
レパーラが宝剣を受け取る。
「よし! 行くぞレパーラ!」
「はいニャ!!」
右翼の陣の中を走り抜け、魔族の元へ、小さい巻角を頭の両側に生やした魔族だ、俺が近づいてくるのを見て恐怖の表情を浮かべる。
《ヒィイィェエァア》
魔族なりの悲鳴だろうか? 逃げようとするが、その先にはレパーラが回り込んでいる。
ヒヒュン!
レパーラが宝剣で魔族の足首と翼を切り落とす! おお、なかなかいい剣だな。
《ァアヴァア!》
ドドン、ドンドン!
倒れたまま両手から火炎弾をメチャクチャな方向に撃つ魔族。 俺に向かって来た数発の火炎弾をフィオナで切り消す。
《ヒ、》
ヒュッ!
魔族の首を飛ばす。 驚いた顔のまま、砂のように崩れて行く魔族。
「よし! 次だ!」「はいニャ!」
こうして俺とレパーラは各所で暴れている魔族を始末して回った。
数刻後、、全ての陣で魔族は倒され、喧騒は収まった。 俺はレパーラを連れて皇太子殿下の元へと丘を登る。 レオルたちは丘の下の陣で休ませることにした。
「殿下! ご無事ですか?」
「ああ、アユミとヒナコのおかげで無事だ。外はどうだ? 魔族は全て倒したか?」
「はい 全て倒しました。兵達の損害は、、決して小さくは無いと思います。」
「うむ、、だがこの軍は、魔族と戦うための軍だ。ここで戦い、倒すことができてよかった。兵達の犠牲は決して無駄ではなかった。」
「……そういうものなのでしょうか、、」
「うむ、あれだけの連中が都市を襲ったことを考えてみろ。」
「確かに、、それにしても無謀です。私達が来る前に殿下を襲うことを魔族たちが選択していたら、、」
「その時は私の仇を取ってくれ、わが友よ。確かに今回は賭けであったことは否めんがな、はっは。」
苦笑いしか出てこんな、、まったく。 それだけ殿下も命がけということか。
ヒナコとアユミを抱き寄せて、頭を撫でてやる。
「ヒナコ、アユミ、よくやった。」
「「わーい!」」
二人ともご満悦だ。
「レパーラもよくやったぞ!」
「はいニャ! ご主人様のために頑張ったニャ!!」
「殿下、助かりましたニャ、剣をお返ししますニャ。」
うやうやしく殿下に剣を差し出すレパーラ。
「レパーラ、良かったらその剣は受け取ってくれ。本当はその剣で私と『騎士の誓い』を交わして欲しいものなのだがなぁ、、」
「殿下、ありがとうございますニャ、でもレパーラのご主人様はご主人様だけですニャ。」
「うむ、ヤマナの元での活躍、期待しておるぞ。」
「はいニャ。」
「殿下、ただいま戻りました!」
ユウキが帰ってきた。
「おお、ユウキ、よくやった! 何体倒した?」
「はっ! 5体です。」
「うむ、よくやった。」
「『指』を名乗る『名前持ち』は私の手には余るゆえ、フミオさんにお任せしましたが。」
「そうか、ヤマナと激戦を繰り広げていたのは『名前持ち』であったか。」
フリード殿下がこちらを向いて、納得したように頷く。
「うむ、ではヤマナ達は陣に戻るがよい。ここはユウキが守っているゆえな。」
「はい、殿下、私たちはこれで下がらせていただきます。」
「うむ、明日は日が昇ってから会議があるからよろしく頼むぞ。」
「はっ」
暗い中、アユミとヒナコを連れて丘を下る。 途中、アユミが転びそうになったので、おぶってやる。
レパーラは、2メートルほど後方から俺の周辺を警戒しながらついてきていた、うむ、出来るやつだ、、
「よう、おまえら、怪我はないか?」
ゼノラウトの陣に戻ると、全員戻っていた。弟子達も、負傷者のみ、死んだものはいないようでちょっとホッとした。
「師匠!」「ししょー!」「フミオ様!」「おじちゃん!」
「レオルは、、ガス欠か、早く食って寝ろ、回復にはそれが一番だ。」
「師匠、おれ、、」
「ああ、ちゃんと見てたから話さんでいい。明日からそのナイフ使いこなす特訓だ。」
「はい!」
「ルルとシェリーは、、レディーなのに傷だらけじゃないか、まったく、、」
「「えへへ、、」」
俺は膝をついて、撫でながら褒めてやる。
「だがよくやった、、ちゃんと手当てしておけよ。」
「「はい!」」
「トモナリ、おまえ、何かふっきれたか? あいつ、強かっただろ?」
「うん! おじちゃん! 僕勝ったよ! あと、バスターソードとも会話できるようになったんだ!」
「そうか! 剣と会話できたか! それは良かった!」
「よし、じゃあみんな寝るぞ。 レパーラ、疲れているところスマンが、俺と交代で見張りを頼む。」
「はいニャ! ご主人様!」
ふう、、それにしても長い一日だったなぁ。 みんなしっかり休めよ。




