115. 深淵から覗く者
「『指』、がやられたか、、」
アルストア大陸の西にあるエルフの島のさらに西、『深い黒の大陸』と呼ばれる大きな大陸の中央にある山の様に巨大な城の庭園で、紫の髪、白い肌の優男がティーカップを傾けながら呟いた。
男の目は瞑ったまま、開かれることはない。
「『牙』と『翼』、『爪』それに『脚』を呼べ。」
「「ハハッ!」」
配下の者らしき、黒い肌、額から後ろに流れる太い角を持った者たちが応え、走って行く。
「ふむ、、アルストア大陸か、、さほど重要な土地ではないが、どうするかな?」
カップに残った紅茶を飲み干しながら、男は呟く。
数刻後、
「めんどくせーなぁ! 何だってんだ!! おい、『目』ェ!」
怒鳴りながら大柄な1人の男が入って来た。
男は耳の下まで裂けた大きな口から、数十本の鋭利な歯をむき出しにしていた。
「無礼ですよ、『牙』殿、我らの『深淵の中の瞳』に対して。」
遅れて入ってきた、痩せた黒いマントのような物でミノムシのように全身を包んだ男が『牙』と呼ばれる男に話しかける。
「ああん?! その翼、咬み裂くぞ『翼』ァ!!」
またも叫ぶ『牙』と呼ばれる男。
「まあ座れ、2人とも、、」
『深淵の中の瞳』と呼ばれた男が、話しながらごく薄く目を開くと、赤紫の光が目より溢れる。
「お、おう、、わかった、、で、何の話が有るってんだ?」
赤紫の光を見て大人しくなる『牙』と呼ばれた男。
『深淵の中の瞳』のまぶたからの光に照らされたティーカップは、ボロボロと灰になって崩れていた。
「あとは『爪』と『脚』か、まあ待て、この城に居る我が同胞が全て揃ってからだ。」
「ちい、『爪』のやつ、、咬み裂くぞ!!」
「ほーい! 『瞳』ぃ、呼んだぁ?!」
遅れて入ってくる、赤紫の肌、黒字に金色の瞳、そして頭の左右に大きな巻角を持った少女。
「よく来た、『麗しの爪』」
「てめェ遅せェんだよ! 咬み砕くぞ、ゴラァ!!」
「ああ! なにイキッてんだ『牙』ァ!! テメえこそ5枚にオロすぞ!」
両手の爪を剣の様に伸ばす少女、それに対抗し、ビキビキと音を立ててアゴを大きく変形させ、牙を剥きだす男。
「……二人とも、、座れ、、」
「ああ、、」「はーーい!」
静かながらも、怒気を含んだ『深淵の中の瞳』の言葉に、おとなしく席に着く二人。
最後に大柄で足が異常に太くて長い、漆黒の肌の男が入ってくる。
「私が最後か、遅れてすまない。」
「いや『地を砕く脚』よ、問題ない、座ってくれ。」
『地を砕く脚』と呼ばれた男は、その足の長さもあり、椅子ではなく庭園にある高い塀の上に腰かけた。
「では、話を始めるか、、先ほどアルストア大陸で『枯れた指』がやられた。」
「はあ? 別にいいんじゃねぇの? あのヒョロ助がやられたところで。」
『牙』がどーでもいいよ、といった感じで手をひらひら振る。
「……いや、弱いとはいえ、我らが神に使える同胞だ、由々しき事態なのでは?」
『翼』が黒いマントでミノムシのように体を包んだまま口をひらく。
「おもろそうな奴がいるの?」
『爪』がワクワクしながら答える。
「他の大陸で戦っている別の同胞たちの事もあるしな、遠方でさほど重要度も高くないアルストアなど放っていお手も良いのだろうが、、、
『深淵の中の瞳』様、あなたはどのようにお考えか?」
塀に腰かけた『脚』が上の方から話しかける。
「うむ、、皆の意見はすべてもっともだと思う。他の大陸の戦況の事もある今、アルストアなど放っておいても構わんかもしれんが、後々の禍根ともなりかねないのでは? という思いもある。ゆえに迷っておるのだ、、
私はこの城から出ることが出来んので、『指』を倒した者を調べたいと思っても叶わないのでな、、」
困ったような顔をする『深淵の中の瞳』。
「はーい! じゃああたしが見に行ってあげる!」
手をあげる『爪』と呼ばれる少女、
「面白そうな奴がいたら、、オロシてきていいよね。」
そう言った少女の5本の爪がビキビキと音を立て、剣のように変化する。
(……『爪』は偵察向きではない、敵と出会ったら必ず交戦するだろう。
未知の敵を相手に、万が一にも彼女を失う事は避けたい、、他に誰か手をあげる者はいないものか、、)
『麗しの爪』を心配して挙手をスルーする『深淵の中の瞳』
ムッツリなのかも知れない。
「俺はメンドくせーから行かねーぞ。近くの島には『角』の奴がいるんじゃねーのか? あいつに行かせろよ。」
椅子にふんぞり返りながら、『牙』が口を開く。
「いや、、『角』はあの島で大事な仕事がある、動かすことはできん。」
「……私が行きましょう、偵察だけで良いのですね。」
『翼』が口を開く。
「おお、行ってくれるか? 『堕ちた翼』よ。もちろんだ、偵察だけ頼む。交戦より、調査と情報の持ち帰りに専念してほしいのだ。」
顔を上げ、喜んだ表情で答える『深淵の中の瞳』
「はっは! ピッタリでいいじゃねぇか! パシリの仕事だな!」
「 …… 」
憎まれ口を叩く『牙』と、押し黙る『翼』
「『牙』、、キサマいい加減にしろ、、」
薄く目を開く『深淵の中の瞳』
「うおっと、冗談じゃねーか、本気にすんなよ。」
あわてる『牙』
「ちぇ、行きたかったけどしゃーねーか。『翼』、がんばってね!」
「はい、ありがとうございます『麗しの爪』様。」
「ちっ、、、」
二人のやり取りが気に食わない『牙』、こいつもムッツリか?
「では、『深淵の中の瞳』様、行ってまいります。」
『堕ちた翼』が体を覆っていたマントを広げると、、左右4~5mほどの大きな翼が展開された。
「ああ、頼んだぞ、『堕ちた翼』よ、戻ってきたら私の宝玉のうち一つをやろう。」
「はい、ありがとうございます。」
そう言って、『堕ちた翼』は漆黒の翼を広げ、真っ黒な城より飛び立つ。
「なんだよ、、宝玉くれんなら先に言えよ、俺がアルストアごと皆殺しにしてきたのに、、」
『牙』の物騒なつぶやきは全員に無視された。




