玲の恋バナ
「ねえねえ、みんなはどんな人がタイプなの?」
遅めの昼休憩。バックヤードの食堂で、他部署のスタッフ数人と雑談に花を咲かせていた玲が、思い出したようにそんな話題を出した。
(えっ……!?)
向かいの席で黙々と弁当を食べていた私は、思わず持っていた箸を止めそうになった。
玲からそんな恋バナみたいなテーマが飛び出すなんて珍しい。心臓が嫌な跳ね方をするのを必死で抑えながら、私は平静を装ってペットボトルの茶を口に含んだ。
「ムキムキで私のこと守ってくれそうな人かな〜」
「それ、あんたの旦那と真逆じゃん。」
「ちょっと、それどういう意味?」
他愛のない会話。
しかし、とうとう玲にも順番が回ってきた。
「玲ちゃんは?やっぱりフロントで色んな人見てるから、目が高かったりするの?」
同僚の問いかけに、玲は「うーん」と顎に手を当てて、天井を見上げた。
「私はね……やっぱり、優しくて包容力のある人がいいな〜」
「へえ〜、包容力!」
「うん。頼りがいがあって、ちょっとお兄ちゃんみたいな人。私がドジしても『しょうがないな』って笑って包み込んでくれるような、落ち着いた大人の男性が理想かな。」
……はい、撃沈。
口に含んだお茶が、変なところに入りそうになった。
必死で咳き込むのを耐えながら、私は心の中で涙を流していた。
優しくて包容力?お兄ちゃんみたいな頼りがい?落ち着いた大人の男性?
……私、1ミリもかすってない。
同性であることは言わずもがな。年齢もタメ口の同期だし、包容力どころか、いつだって玲の行動ひとつに一喜一憂して、勝手に焦って勝手に嫉妬している不器用な奴だ。お兄ちゃんどころか、世話焼きの苦労人ポジションである。
「涼香はどう?どんな人がタイプ?」
無邪気な瞳が、まっすぐに私を射抜く。
その瞳には、私の心の中の荒波なんて露ほども映っていない。純粋に「友達の好きなタイプ」に興味津々なだけの、とびきりの笑顔。
「……私は別に。好きになった人がタイプ。」
「なにそれ〜、一番かっこつけた回答!」
玲は「あはは!」と楽しそうに笑って、また自分の弁当に手を伸ばした。
(かっこつけてなんかいないっつの……)
私の「好きになった人」は、目の前で自分の真反対のタイプを嬉しそうに語っている、この鈍感すぎる同期だけなのだから。
届くはずもない片思いの重さに、私は一人、深い溜め息を飲み込んだ。




