親友だからじゃない
「ちょっと玲、それどういうこと!?」
終業後のロッカールーム。私は勢いよくドアを閉めると、着替え中の玲に詰め寄った。
「え……なに?どうしたの急に、涼香……?」
玲はパチパチと目を瞬かせながら、不思議そうにこちらを見上げてくる。その手には、先ほどフロントで男性客から渡された小さなメモ紙が握られたままだった。連絡先が書かれているのは一目瞭然だ。
「どうしたの、じゃないでしょ!なんでその紙、受け取ってんの!?断ればよかったじゃない!」
「えっ、でも『応対が丁寧で嬉しかったから、今度お礼にカフェでも』って……すごく親切そうな人だったよ?」
「親切なわけないでしょ、下心丸出しじゃない!だいたい、客と個人的に連絡取るなんてNGに決まってるでしょ!」
自分でも声が少し上ずっているのが分かった。胸の奥が焼き尽くされそうなほどの猛烈な焦りと嫉妬。
誰かに玲を奪われるかもしれないという恐怖で、心臓が痛いくらいに脈打っている。
「怪しい奴かもしれないんだから、絶対連絡しちゃダメ。いい?その紙、私が捨てとくから!」
私が身を乗り出してメモを奪い取ろうとすると、玲は持ち前の反射神経で、私の手を避けた。
そして、「あはは」と呑気に笑ってメモを鞄に仕舞ってしまった。
「大丈夫だよ、連絡なんてしないってば。涼香は本当に心配性だなぁ」
「心配性とかそういう問題じゃなくて……っ!」
「ふふ、でもありがとう。私のこと、そんなに心配して守ろうとしてくれて。やっぱり涼香は頼りになる”親友”だね!」
玲は眩しいくらいの笑顔を向けて、私の肩をポンポンと叩いた。
親友。
その言葉が、私の胸に重く突き刺さる。
私は心配性なお母さんでも、頼りになる親友になりたいわけでもない。
「……ほんと、鈍感……」
独占欲で狂いそうな私の気持ちなんて1ミリも届かず、玲は鼻歌交じりで着替えを再開している。
私は奪い取れなかったメモ紙の余韻と自分の惨白さに、一人で頭を抱えるしかなかった。




