百合の恋敵の本性
20年ぶりに再開したあの人は、昔より格好良くなっていて、驚いたと同時に———
幾年ぶりかの、恋に落ちていた。
冴子にこんな感情が浮かんだのは、人生で初めてだった。
「———ねえ、貴方⋯⋯⋯冴子のこと、好きなんでしょ?」
耳元でそう囁いた瞬間、壁と私の腕の間に閉じ込められた百合の体が、分かりやすく跳ね上がった。
(ふふ、やっぱりね)
瞳孔が小さくなり、息を呑む音まで聞こえてきそう。
唇を罠にかかった小動物みたいに引きつらせて、必死に動揺を隠そうとしているけれど、完全な無駄骨。
「……その反応……当たりかしら。」
「……い、いいえ私は……」
「冴子と違って私は仕事一本で生きてきたわけじゃないから、貴女が私と冴子を見る目で直ぐに分かった。貴女わかり易すぎよ。」
言葉を途中で遮ってあげると、彼女の完璧だったはずの表情がガラガラと崩れ落ちていく。
あんな風に「冴子の忠実で優秀な部下です」という顔をしておきながら、私と冴子が仲良く話しているのを見た途端、殺気立ったような、それでいて切ない視線を向けてくるのだから笑ってしまう。
「……違、います……私は、ただ……」
「言い逃れなんてしなくていいわ。乙女みたいな顔して冴子を見つめるその目……吐き気がするほど一目瞭然よ」
追い詰めるたび、彼女の綺麗な瞳が絶望で揺れる。その怯えた顔を見るのが、なんだか少し楽しくなってきた。
「貴女整った顔してるわね……ホントは怯えてるくせに虚勢を張ったその顔も……確かに可愛いと思うわ。」
私は突き出していた片手を壁から離し、その華奢で細い顎をそっと指先ですくい上げた。
無理やり上を向かせると、指先から彼女の心臓の鼓動まで伝わってきそうなくらい、小さく震えている。
「……だけど、冴子のタイプじゃあないわね。」
(──まあ、あいつが男だろうと女だろうと恋愛したところなんて一度も見たこと無いから、実際のタイプなんて私も知らないんだけどね)
心の中でそう呟きながら、意地悪く口角を上げる。嘘でも何でもいい。この初心なパティシエさんの心をポッキリ折るのに、一番効果的な言葉ならなんだって使う。
「……どうせ貴女じゃ私の相手にもならないけど……冴子を私のホテルに呼ぼうと思ってるの。だから、貴女は諦めて?」
頭を優しく撫でてやると、彼女はもはや声すら出せないご様子。
完璧な絶望に染まった顔を見届けて、私は満足して指を離した。
(さて……20年ぶりに再会した冴子を、どうやって連れ出そうかしら)
背を向けて歩き出しながら、私はクスクスと胸の中で嘲笑った。
あんなおとなしい子に指一本触れさせないまま、冴子も、仕事も、全部私が奪っていってあげるわ。




