百合の恋敵②
「……その反応……当たりかしら。」
「……い、いいえ私は……」
「冴子と違って私は仕事一本で生きてきたわけじゃないから、貴女が私と冴子を見る目で直ぐに分かった。貴女わかり易すぎよ。」
彼女は私の言葉を遮り、冷ややかな確信に満ちた声でそう言い放った。
否定しようと動いた私の唇は、そのまま引きつったように凍りついた。
目の前にある沙織さんの瞳には、嘲笑うような、けれどどこか冷酷なほど冷ややかな愉悦が浮かんでいる。
「……違、います……私は、ただ……」
「言い逃れなんてしなくていいわ。乙女みたいな顔して冴子を見つめるその目……吐き気がするほど一目瞭然よ」
耳元で囁かれる言葉の一つひとつが、まるで鋭い針となって私の心臓を突き刺していく。
「貴女整った顔してるわね……ホントは怯えてる癖に虚勢を張ったその顔も……確かに可愛いと思うわ。」
沙織さんは突き出していた片手をそっと壁から離すと、私の顎に細い指先をかけ、無理やり上を向かせた。指先から伝わる冷たい体温に、私は小さく身震いする。
「……だけど、冴子のタイプじゃあないわね。」
心臓が冷えていく。血の気が引き、視界がじんわりと滲んでいくような感覚。
「……どうせ貴女じゃ私の相手にもならないけど……冴子を私のホテルに呼ぼうと思ってるの。だから、貴女は諦めて?」
彼女は私の頭を、まるで出来の悪い子供をあやすかのように、愛おしさと蔑みが混ざり合った手つきで優しく撫でる。
「冴子にはね、もっと広い世界が似合うの。私と一緒に海外のホテルを巡って、二人でトップを目指す……それが昔からの約束だったのよ。貴女みたいな温室のパティシエに、あの人の翼を折らせるわけにはいかないの」
顎を掴む力は強くないのに、私は金縛りにあいたいかのように指一本動かすことができなかった。
言葉が出ない。喉の奥がカラカラに乾き、否定の言葉すら掠れて消えてしまう。
20年の月日を超えて舞い戻ってきた、冴子さんの「過去」であり「対等なライバル」。
その圧倒的な存在感を前に、自分が積み重ねてきた20年間の想いが、あまりにもちっぽけで無力なものに思えてしまった。
「ふふ、いいお返事ね」
私の絶望しきった表情に満足したのか、沙織さんはふっと手を離すと、何事もなかったかのようにすっと背筋を伸ばした。
そして、私の頬を指の背で優しく撫で撫でると、艶やかな笑みを残して立ち去ろうとする。
「じゃあ、仕込み頑張ってね。百合さん」
背中を見送りながら、私は膝から崩れ落ちそうになるのを必死で耐えていた。
壁に背中を預けたまま、震える手で自分の胸元を強く握りしめる。
(冴子さんを……連れて行く……?)
引き抜かれるかもしれないという恐怖と、見透かされた恋心への恥ずかしさ。
静かな厨房で、私の心は跡形もなく打ち砕かれ、深い暗闇の中へと沈んでいくのだった。




