↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今日も今日とて、無自覚すぎる。  作者: まこっちゃん
PR
19/30

玲への嫉妬

夜も更けた静かな厨房。私は誰もいない静寂の中で、一人黙々と新作デザートの試作に没頭していた。


(玲さんは、客室係としても本当に優秀で明るい……。冴子さんが目をかけるのも、よく分かるわ)


心の中でぽつりと呟き、溜息を飲み込む。



今日、冴子さんと玲さんがお話をされていた。


最初は業務連絡程度だったみたいだけど、玲さんの少しの髪の乱れを直してあげていたり、顔を近づけたり⋯⋯


段々と冴子さんが頬を緩ませていくのが私にはよく分かって。



玲さんに対して嫌悪感があるわけではない。むしろ仕事に対する姿勢や素直さは好ましいと思っている。


ただ、冴子さんとのあの距離感の近さに、どうしてもかすかな嫉妬と劣等感を抱いてしまうのだ。


玲さんがライバルだったら、私はきっと勝てないのが、分かってしまうから。



泡立て器を動かす音と、生地が混ざる音だけが室内に響く。ふと、視界の端の気配に気づいて顔を上げると、硝子越しに見慣れた制服姿の影があった。


「そこにいるのは……玲さん?」


声をかけると、玲はビクッと肩を揺らし、なんだか恐縮したようにゆっくりとドアを開けて入ってきた。夜間の見回り中だったらしい。


「夜遅くにすみません、百合さん。明かりが見えたから、つい……邪魔しちゃいました?」


「⋯⋯ううん、ちょうど今、焼き上がったところなの。


そうだわ、良かったら試食してくれる?」


私がそう言って差し出すと、玲は「えっ……本当にいいんですか?」と、パッと目を輝かせた。玲が、珍しく子供のように嬉しそうな、少し興奮した顔をしている。


小さなフォークで一口分すくい、口に運ぶ玲。次の瞬間、彼女の瞳が大きく見開かれた。


「……すごい……。百合さんは、本当に……天才です」


感動に震えるような、心からの称賛の言葉。その純粋な眼差しを向けられ、私は少し照れくさく思いながらも、ふと、胸の奥にしまい込んでいた澱のような感情が顔を出すのを感じた。


「……ありがとう。でも、冴子さんにも……気に入ってもらえるかしら」


食べている彼女を見ながら、我知らず、そんな言葉がぽつりと口をついて出てしまう。


ああ、まただ。無意識のうちに、私の思考の基準はいつも冴子さんになってしまっている。

玲はいつも総支配人と親しげに話しているというのに。


そんな羨ましさと、拭えない嫉妬心を、私はいつもの微笑みで必死に覆い隠した。


「玲さんはいつも総支配人と仲が良くて素敵ね。……あ、」


これ以上、冴子さんの話を続けるのが怖くて話題を変えようとした時、私はふと玲の制服の襟元に目を留めた。


「……玲さん。ボタンが外れてるわ」


「えっ……あ、ほんとだ。すみません、動き回ってたから……」


玲が慌てて自分の首元に触れようとするのを制し、私は一歩、彼女との距離を詰めた。ごく自然な手つきで、私は玲のブラウスの緩んだボタンに指を伸ばす。


外れかかった小さな白いボタンを穴に通し、キュッと丁寧に留め直していく。真剣な眼差しで手元に集中していた私だったが、不意に、ふわりと香る玲の甘い香水の匂いと、すぐ間近にある彼女の整った顔立ちに気づいた。


(……こうして間近で見ると、玲さんはやっぱり、華やかで綺麗な子ね……


……冴子さんも、こういう可愛らしさに惹かれるのかしら)


仕事の時は完璧な客室係としてテキパキと動き、冴子さんの隣で楽しそうに笑う彼女。こんな風にふと見せる無防備なところを見ると、私の中にある嫉妬や切なさは、いっそう複雑にねじれて胸を締め付ける。


「これで良し。……夜の巡回中でも、身なりはきちんとしなくちゃダメよ」


私はほんの少しの切なさを隠しながら、柔らかい笑みを浮かべ、玲からそっと手を離した。玲はなぜか顔を真っ赤に染め、息を整えるようにじっと固まっている。


(……?どうしたのかしら、そんなに熱いのかしらね)


不思議に思いつつも、私は自分の胸の奥で波打つ切なさを隠すように、再び試作品のトレイへと視線を落としたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。