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迷子の男の子
仕込みを終え、ほっと一息つきながら静かな廊下を歩いていた時だった。
くいっ、くいっ。
「……え?」
コックコートの裾を、誰かに不意に引っぱられた。
振り返ってみるものの、そこには誰もいない。あれ、気のせいかしら……と思いながら、ふと視線を落とした瞬間だった。
「……あ」
そこにいたのは、大きな目をパチパチさせて私を見上げる、小さな男の子だった。
歳はたぶん3歳か4歳くらい。小さな手で、一生懸命に私のエプロンの裾をギュッと握りしめている。
「……どうしたの、僕?迷子さんかな?」
かがみ込んで目を合わせると、男の子はコックコートを着た私をじーっと見つめ、ぽつりと一言。
「……ケーキのおねえさん?」
「ふふ、そうだよ。ケーキを作ってるお姉さん⋯というよりはおばさんよ。お父さんとお母さんはどこかな?」
よしよしと頭を撫でてあげると、男の子は急に表情を和らげ、そのまま私の膝に「ぎゅっ」と抱きついてきた。
「おねえさん、ついてきて!」
「えっ、あ、ちょっと……!?」
ちいさな手で私の指をしっかりと握りしめ、てくてくと歩き出す男の子。
困惑しつつも、手を引かれるままに歩いていくと──曲がり角の先で、同じように焦った顔で立ち尽くしている冴子さんと鉢合わせしたのだった。




